ブラック企業とは何か?
ブラック企業とは、法律を守る意思がなく、違法もしくはそれに近い状態を放置している企業のことです。
また、パワーハラスメントなどの手段を用いて、その状態を社員に強いている企業です。
意図的に法律を守らないところが、単なる法違反企業との違いです。
当初は、新卒正社員の使い捨てで問題視されましたが、現在では、新卒正社員に限らない問題として広がっています。
特に、昨今の人手不足を反映して、違法で過酷な勤務状態を強いながら、脅しやパワハラによって「辞めさせない」状態に追い込んでいるところに特徴があります。
ブラック企業の定義と特徴
「ブラック企業」という言葉は、インターネットで広まったようですが、法令で定義された言葉ではもちろんありません。
元々は「反社会的勢力(暴力団)のフロント企業」を意味していたそうです(参考:伊藤健一『「やりがいのある仕事」と「働きがいのある職場」』晃洋書房)。
労働問題を起こす企業の意味で使われ始めたのは、2008年にリーマン・ショックが起こり、日本に本格的に波及してきた2009年頃からのようです(参考:今野晴貴『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』文春新書)。
「新卒正社員の使い捨て」をする企業を指していました。
同書を基に特徴を整理すると、次の3つにまとめられると思います。
- 大量募集・採用
- まともな選考もなく大量に新卒者を募集・採用する。
- 社内選別(洗脳)
- 洗脳して残れる者、つまり言いなりになる者だけを残す。
- 洗脳から漏れた者は、パワハラで自主退職に追い込む。
- 使い潰し
- 残った者は、サービス残業、名ばかり店長・社長などで使い潰す。絶対に辞めさせない。
- 病気で使いものにならなくなったら辞めさせる。ただし、病気の状態で辞めさせると労災申請されるおそれがあるので、病気が治ってから辞めさせる。
こうした仕組みは、新卒者の異常な就職難が起こった時期であったからこそ、成り立たせることができたと思われます。
今でも時々は耳にしますが、圧倒的な人材不足が進行している中では、継続は難しいでしょう。
最近では、労働基準法などの違法性は同様ですが、人材不足を反映してか、特に「辞めさせない」ところに力点が置かれているように思います。脅し・すかしで辞めさせないように追い込みます。
現に、「自主退職」(辞めたくても辞められない)の相談が増えているようです(参考記事:「今どきの労働問題に見えるブラック企業の兆候」)。
リーマン・ショックの影響によって正社員で就職できず、非正規社員を渡り歩いてきた人たちが、そういう企業の餌食になりやすいように思います。
ですから、最近のブラック企業の定義は、新卒正社員に限定しないものが多いようです。
2012年からスタートしている「ブラック企業大賞」の定義は、次のとおりです。
- 労働法やその他の法令に抵触し、またはその可能性があるグレーゾーンな条件での労働を、意図的・恣意的に従業員に強いている企業
- パワーハラスメントなどの暴力的強制を常套手段として従業員に強いる体質を持つ企業や法人(学校法人、社会福祉法人、官公庁や公営企業、医療機関なども含む)
(出展:ブラック企業大賞ホームページ)
その他のいろいろな書籍や情報などを参考にして、筆者なりに整理すると、
- 法律を守る意思がない。
- 違法もしくはそれに近い状態を放置している。
- パワーハラスメントなどが管理の常套手段になっている。
といった特徴があるようです。
ブラック企業は法律を守る意思がない
労働者が、労働法の個別知識を収集して、ブラック企業に対抗しようとする場合がよくありますが、はっきり言ってあまり効果はないと考えています。
なぜなら、ブラック企業は最初から法律を守る意思がないからです。法律を知っているかどうかではなく、意図的であるところが、単なる違反企業との大きな違いです。
「法律を守る意思がない」というのは、法律を完全に無視しているとは限りません。
多くの企業は役所から摘発されたくありませんから、法律を守っている体裁は整えていることも多いです。
体裁を整えながら、その仕組みを社員に知らせないようにしたり、使わせないように仕向けたりするのです。
二重帳簿よろしく、就業規則を役所用と内部用に作り分けている企業もあると聞いています。
役所も、体裁が整っていると、法違反を摘発するのが難しくなってきます。
最初から役所の摘発をまったく意に介さない企業も少なからずあります。最悪、裁判で有罪になっても、罰金は大した額ではないですから、払えば終わりだと考えています。
ブラック企業が生き残る理由
「そのような考えであれば、企業として存続できないのではないか」と考えるかもしれません。
普通はそう考えますが、現実はなかなかそうなっていません。
厚生労働省は、法違反で送検した企業などのリストを公表しています。世間では「ブラック企業リスト」と呼ばれています。
それ以外にも、過労死や過労自殺を出した企業は、マスコミに厳しく叩かれることもあります。裁判を通じて、過酷なサービス残業やパワハラの実態が明らかにされる場合もあります。それでも、生き残っていく企業は多いです。
なぜでしょうか。答えは簡単です。
その企業で買い物をする消費者がいなくならないからです。その企業と取引する企業がなくならないからです。
結局は他人事でしかないということでしょう。一時的に売上が減ることはあっても、消費者や取引先はあっという間にどうでもよくなってしまうのでしょう。
とても悲しいことですが、これが現実です。
「ブラック企業がなくならないのは役所の怠慢だ」という批判をよく聞きますが、ブラック企業を生かしているのは国民であることを忘れてはいけません。