グローバリゼーションとグローバリズム − グローバリズムの正体①

「グローバリゼーション(グローバライゼーション)」とは、思想や仕組みなどが、国家などの境界を越えて広がり一体化していくことです。経済の分野でいち早く国境を越えた活動が行われたため、特に経済のグローバリゼーションを指すことが一般的です。

ヒト、モノ、カネ、企業などの移動が盛んになり、地球規模での一体化が進みます。地球上の各地点で相互連結性が強化され、遠方からの影響を受けやすくなるような、広範な社会的過程を指します。

輸送費と通信費の大幅な低下によって、産品、サービス、資本、知識および人間の国境を超えた移動を妨げていた人工的な障壁が解体され、根本的に、世界中の国と人間をより緊密に統合しました。

ただし、グローバリゼーションでは、世界中でダウンロードとアップロードが行われるため、世界が一様になる方向だけでなく、多様なローカルがグローバル化する方向も起こると指摘されます(トーマス・フリードマン『フラット化する世界』日本経済新聞社)。

グローバリゼーションには新しい機関の誕生が伴います。国という最上位の主権を越えたつながりをつくるからです。それが既存の機関と協力して、国境を超えた仕事をします。特に国際企業は、資本と物資だけでなく、技術も国境をまたがって動かします。

国際機関には、国際連合、国際労働機関、世界保健機構などがありますが、市場の自由化の強力に進めてきたのは、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)といった経済機関です。

なお、「グローバリズム」は「グローバリゼーション」と同じではありません。「グローバリゼーション」は相互依存を強化するように進行する過程を指す言葉です。「グローバリズム」は、「○○イズム」(○○主義)という他の用語と同様、イデオロギーの一種であり、「グローバリゼーション」に価値と意味を与え、それを意図的に推進する考え方です。

スティグリッツが批判するグローバリズムは、IMF等が自由市場の万能性を極端に信奉し、それに政治的自由主義(政府の介入排除)をも加えて融資の条件として、発展途上国に強要するものです。

グローバリゼーションの恩恵

スティグリッツはグローバリゼーション自体を否定しません。グローバリゼーションが自由貿易の障壁を取り払い、世界各国の経済をより緊密に統合することによって、世界中の人々、とりわけ貧しい人々を豊かにする可能性を秘めていると確信しているからです。

現に、多くの国は、国際貿易に門戸を開くことで急速な成長をとげてきました。輸出で国家の経済成長が促進されたからです。

世界の多くの人の寿命が伸び、生活水準が大きく向上しました。先進国から見ると、途上国の低賃金労働を活用することは搾取に見えるかもしれませんが、途上国の多くの人々にとっては、工場で働くことは農村にとどまるよりもずっと望ましい選択肢でした。

途上国の大半が感じていた孤立感を薄め、途上国の多くの人々に知識を得る手段を与えました。

外国企業の新規参入によって保護された国有事業が圧迫されることもありますが、それが新しい技術の導入、新しい市場へのアクセス、新しい作業の開拓につながることもあります。少なくとも、その国の消費者は、安価で高品質の製品を手にすることができるようになります。

対外援助が多くの人々に恩恵をもたらしてきたことも事実です。

ただし、市場が機能するためには様々な配慮が必要です。市場は不完全だからです。その原因の一つは、情報の非対称性です。市場の参加者は必ずしも同じ情報を共有していないし、情報の獲得に有利・不利の立場があるのです。

政策の影響

市場経済の導入に向けて特定の政策を実行する場合、その政策の影響というものを考える必要があります。

ある政策は、成長を促しはするものの、貧困にはほとんど効果がありません。別の政策は、成長を促進するものの貧困を増大させます。成長を促進すると同時に貧困を軽減させる政策もあります(プロ・プア(貧困優先)成長戦略)。

多くの政策には代償を伴います。発展途上国において求められることは、成長を促進しながら貧困を軽減する政策を見つけることです。大して成長しないのに貧困ばかりが増す政策を避け、代償がどうしても必要な場合には貧困層への影響を重視することです。

貧困層は怠惰なわけではありません。多くの場合、悪循環に陥っています。人は貧乏になると、無力感を抱きます。常に不安を感じるようになります。

貧困層に唯一のセーフティ・ネットを与えてくれるのが、家族と地域社会です。ですから、開発の過程では、こうした絆を壊さないようにすることが重要です。

アメリカの経験

19世紀のアメリカが経験したことは、今日のグローバリゼーションとよく似ています。当時、輸送と通信コストが下がってローカルだった市場が拡大すると、全国を網羅する新しい経済の形が出来上がりました。地域経済が国民経済に広がり、アメリカ全土で事業を展開する大企業が生まれました。

市場に任せたのではなく、政府が経済の進化を舵取りしました。連邦政府は金融システムを規制し、最低賃金と労働条件を定め、市場システムによって生じる問題に対処するための社会保障制度を整えました。いくつかの産業を積極的に活性化させ、奨励策をとりました。

教育を広め、農業の生産性を向上させる計画を実施し、すべてのアメリカ人に最低限の機会を与える土地払い下げも実施しました。

国内において地域経済が国民経済に広がったのと同じように、グローバリゼーションが進行しています。しかし、そこには世界政府がありません。代わりに、少数の機関、特定の商業的、金融的利害と密接に結びついた金融や通商や貿易の担当者が全体を支配し、その決定に影響される多くの人々はほとんど発言権のないまま取り残されています。

グローバリズムの問題点と課題

グローバリゼーションに伴う問題は、その支持者がバランス感覚を欠いているところにあります。

グローバリゼーション自体が価値であり、進歩であり、幸福を生み出すから、それを意図的に導入しさえすれば全てうまくいくと考える「グローバリズム」を頑なに信奉するところがあるからです。特に、IMF等が発展途上国に自由主義を強要することが問題です。

欧米先進国においてもグローバリゼーションへの対応には慎重を期してきたにもかかわらず、途上国に対しては頑なにグローバリズムを押し付けた結果、貧困の軽減や社会の安定性保持に失敗してきました。