現場の一人仕事で労働災害を防止する方法

顧客の現場に社員を派遣して、一人で仕事をさせるときに、労働災害が発生することがあります。

そういう場合に、当の会社は、「会社がいくら社員を指導しても、現場で社員が法令を守らないから仕方がない。」という言い方をすることがあります。

はっきり言って、そういう言い方をする会社は、現場の単独作業でなくても、労働災害はよく発生していると思いますし、労働災害がなくなることはありません。

そういうことを言う会社では、社員に法令順守を指導しているといっても、本気で重視していないからです。

社員は会社の鏡です。会社が労働安全衛生管理を重視していないなら、社員も重視しません。

労働安全衛生管理は業務と一体で行わなければなりません。スタッフ部門の仕事ではなく、ライン部門の仕事です。教育もマニュアルも、そして評価も、すべて業務と一体化した形で行わなければ効果がありません。

ビルメンテナンス業での死亡災害

ビルメンテナンス業で、ある時、死亡災害が起こりました。

顧客の現場に一人で常駐し、脚立を使って作業をしていたところ、転落して頭を強く打ったことが原因でした。一人で仕事をしていたため、事故が発生したときの状況は分かりませんでした。

会社としては、日頃から労働災害を防止するための労働安全衛生管理(以下「安全管理」と言います。)を行うよう社員を指導しているということでした。

(参考:「はしごや脚立からの墜落・転落災害をなくしましょう!」

現場での一人仕事でどうやって労働災害を防ぐか

死亡災害を起こした会社とは別の同業経営者から、「ビルメンテナンス業では、現場での単独作業が多いため、会社がいくら指導しても、現場で社員が法令を守らなければ労働災害は防げない。どうしたらよいのか。」という質問を受けました。

ある種の諦めを含んだ言い方ではありましたが、「役所は労働災害を起こすなと言うが、一人作業でどうやって労働災害を防ぐか言ってみろ」という高圧的な態度でもありました。

「会社はちゃんと法令を守るよう指導しても、社員はどうせ従わない」ということが、さも当然であるかのような言い方でした。

ビルメンテナンス業での主な仕事場所は、自社内ではなく顧客の施設内です。つまり、会社の目の届かないところで仕事をします。

ただし、社外で仕事をするのは、何もビルメンテナンス業に限られたことではありません。建設業や運輸業のように社外での仕事が主である場合もあれば、時折社外で仕事をするという業種も多数あるでしょう。

会社の目が届かないという点はすべて同じです。

社内では会社の目が届いているのか

社内で仕事をしているならば、会社の目が届いて労働災害が起きないかというと、そんなことはありません。各社員は、それぞれ自分の仕事をしていて、会社が常時監視しているわけではありません。

そもそも、「会社の目が届く」とか「届かない」とか言う場合の「会社」とは何かというと、通常は、その社員の上司を指すでしょう。

上司もまた社員であることを忘れてはいけません。「社員が会社の指示に従わないから労働災害が起こる」というのであれば、上司という社員がいても労働災害は起こります。

ある会社で労働災害が多発する理由

労働災害が多発している会社は、単独作業だから多発しているわけではありません。単独作業でなくても多発します。社内でも多発します。

部下は上司の真似をする

労働災害が多発する会社では、「上司が見ていれば、労働災害は起こらない」ということはありません。上司は労働災害を防ぐための厳格な安全管理をする人なのに、部下は安全管理がまったく杜撰であるということはありません。

部下は上司の真似をしているからです。部下がルールを守らないのは、上司がそうするからです。少なくとも、そうすることを上司が許しているからです。

上司が許しているなら、会社がそういう体質であるということです。そういう人を上司として昇進させているからです。少なくとも、昇進の条件として安全管理を重視していないことを表しています。

安全管理は本来の仕事ではないと思っている

職場の安全管理は、通常、人事や労務の部門が担当しています。いわゆるスタッフ部門です。

スタッフ部門は、本来、ライン部門をサポートするのが仕事です。サポートですから、本来ライン部門が行うべき仕事に対して、専門的な見地から助言したり、協力したりします。

安全管理は、仕事が行われる場所、仕事の方法、使用する道具など、仕事のあらゆる場面に付随して行われなければならないものであり、仕事の一部として組み入れられていなければ機能しません。

ですから、ライン部門が本業の一環として管理しなければ効果がありません。

しかし、労働災害が起こりやすい会社では、安全管理はライン部門の仕事だと思っていません。人事や労務の担当者(安全管理者など)が時々見回りに来てチェックすることが、安全管理の仕事だと思っています。

マニュアルにしても、本業のマニュアルと安全管理のマニュアルは別々に作られていることが少なくありません。2つもマニュアルを見ていられないのです。

教育訓練も、本業と安全管理は別に行われていることがほとんどです。

そうなると、自ずと安全管理は「おまけ」になります。余裕があればやるけれども、余裕がなければ簡単に無視されることになります。仕事を進めるうえでの制約条件であり、面倒な仕事だと受け止められている場合も少なくありません。

現場での単独作業を管理する方法

仮に、「現場で単独作業をしているから安全管理できない」とすると、本業の仕事についてはどう管理しているのでしょうか。安全管理はできないのに、本業の仕事は管理できるのでしょうか。

本業の仕事については、教育訓練を徹底し、一定のレベルに達した者を現場に派遣しているのではないでしょうか。そうしないと、仕事の品質が担保できないからです。

現場で顧客に迷惑をかけないことは最低限必要ですが、できれば顧客に好印象をもたれるような社員であってほしいでしょう。そのための教育もしているはずです。

単独作業で会社の目が届かないからこそ、誰でも派遣するわけにはいかないのであり、一定の条件を満たした社員しか派遣しないのではないでしょうか。

仕事の質が高く、社員の質も高い会社なら、当然仕事のマニュアルはしっかり整備され、その遵守も徹底されているはずです。チェックリストをはじめ、厳格な報告書を作成させ、顧客の承認を得ているのが一般的でしょう。

会社からの抜き打ちでの現場監査なども行っているはずです。

社員本人からの報告書の提出とは別に、監査の一環として、顧客に対してヒアリングその他の調査を行うこともあるでしょう。

そのようにして把握された社員の仕事ぶりは、当然人事評価に反映され、給与面でも影響を受けるでしょう。

安全衛生もそうした本業の管理に組み込むべきです。

本業の仕事の一環として位置づけ、すべてを本業の仕事の一部として組み込み、評価しなければなりません。教育訓練、報告、監査もすべて同様です。

単独作業で納期に間に合わなかったり、品質が確保できなかったりする場合は、当然、複数作業で行うでしょう。安全管理も同様です。単独作業で安全が確保できないなら、複数作業にしなければなりません。

安全管理費用はコスト削減の対象になりやすいので、会社が責任をもって予算を確保しなければなりません。

本来の意味の「事故」を漏らさず報告させる

労働災害を起こさないことを目指していると、労働者に被害がなければよしとすることになりがちです。

労働災害には、原因としての作業環境や作業方法などがあるわけですから、安全管理を含めて定めた一貫した仕事の手順からの逸脱はすべて事故として報告させなければなりません。

本来の「事故」とはそういうものです。普段とは違った行動や出来事、予期せぬ出来事、本来の手順からの逸脱などはすべて「事故」です。これらをすべて報告の対象にしなければなりません。

会社によっては、災害に至らなかった「ヒヤリ・ハット」まで報告させているところもあります。それも必要です。

ただ、単独で仕事をしているわけですから、それらをすべて報告させるインセンティブが必要です。通常は、そういう報告をすると、叱られたり、ペナルティーを課されたりすることをおそれるため、隠そうとするからです。

報告すること自体をプラスに評価する仕組みが必要です。本来の意味での「事故」の情報は、会社の貴重な財産であることを理解し、社員にもその認識を持たせることが必要です。

問題の根本は”お上”の体制にある

会社ばかりが悪いわけではありません。そもそも政府の体制が会社の体制を決めていると言えなくもないからです。

安全管理は、厚生労働省(旧労働省)所管の労働安全衛生法によって規制されています。元々は労働基準法に規定されていた内容を、別の法律として独立させたもので、一部の公務員等を除いて、あらゆる業種に適用されます。

事業や業種を所管する省庁(以下「事業省庁」と言います。)とは独立した省庁が労働者保護を所管すべきという考え方が背景にあります。

このような体制は、諸外国でも一般的なようですが、何かとお上の真似をするわが国では、先に述べた弊害につながっています。

事業省庁と労働者保護省庁が別のため、会社でも両者を担当する部門は別になっています。省庁ごとに担当部門を分けるという発想です。様々な届出や報告も別ですから、部門を分けた方が効率的だという考え方でしょう。

会社の本業を担当するライン部門にとって、重要なのは事業省庁であり、厚生労働省はおまけになっているわけです。

ですから、筆者としては、事業省庁に労働者の安全管理も一元的に規制させるのが望ましいと考えています。事業規制と一元化しなければ効果は半減します。

厚生労働省の労働部門は、会計検査院のような事業省庁に対する監査部門または専門スタッフ部門であるべきだと思います。ただし、明確な事業省庁が存在しない業種に対しては、厚生労働省が直接規制するしかないかもしれません。

ただし、各事業省庁が労働基準監督署のような部門を持つのは効率が悪いということであれば、事業省庁が厚生労働省と一定の委任関係を結ぶ方法があると思います。

結果的な実態は今と変わらないかもしれませんが、一義的に事業省庁に規制の責任があるという体制が重要です。

ある会社で労働問題を把握したら、事業省庁から厚生労働省に通報して対応を委任し、結果の報告を受けて、事業省庁の責任において必要な処分を行います。

労働安全衛生法に基づく司法警察官としての権限(送検)は厚生労働省に留保してもよいかもしれませんが、安全管理上の問題を理由とした事業に関わる行政処分が行われるべきであり、事業省庁が確実に実施すべきです。

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