会社に貢献してくれる社員とそうでない社員の見極め方

この投稿を執筆している現在、新型コロナの再流行が起こっています。再び、緊急事態が宣言されるかどうかの瀬戸際といったところでしょうか。

厳しい経営状態にある企業も多いことでしょう。だからこそ、企業を強くするための改革、文字どおりのリストラクチャリングを行わなければなりません。

ただし、業績が好調で、企業が成長していると思っているなら、なおさらリストラクチャリングは重要です。「今、成功している」という考えが、組織に無駄な贅肉を蓄積していくことになるからです。

人手が不足しがちになるため人材の採用に甘くなり、ときには安易にお金で釣って、会社にとって相応しくない人材を抱え込んでしまいがちです。

ですから、会社にとって最も重要なことは、わが社の業績に貢献してくれる本物の優れた社員と、そうでない社員を見分け、前者に残ってもらえるようにすることです。後者には、できれば自分から去ってもらえるようにすることです。

そのための端的な方法は、

報酬の削減を宣言すること

です。それでもついてきてくれる社員が、わが社に貢献してくれる社員です。要するに、危機のときに会社に貢献する意欲をもたない社員は、大抵の場合、お金目当てで働いているということです。

ただし、前提として、いくつかのことを明らかにしておかないと、本当に必要な社員が先に辞めていくことにもなりますので、注意する必要があります。

  • 社員に隠しごとをしないこと
  • 経営者自身が自らの報酬削減を宣言すること
  • 経営に参画し、協力する責任を求めること
  • 会社の将来に希望がもて、処遇改善への期待を全社で共有できること

これらは、人材を見分けるためにあらかじめ明らかにすることです。人材を選別した後に行っても意味はありません。選別後にはこれらの実行が待っているからです。不適切な人材が残った状態では、実行がうまく行きません。

見分けることが難しいからこそ、あらかじめ明らかにしなければなりません。

「適切な人材」とは

ジェームズ・C・コリンズは、『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』において、次のように述べています。

偉大な企業への飛躍を指導したリーダーは、まずはじめに新しいビジョンと戦略を策定したのだろうとわれわれは予想していた。事実はそうではなかった。最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし、適切な人がそれぞれにふさわしい席に坐ってから、どこに向かうべきかを決めている。

新しいビジョンや戦略よりも、「適切な人を選ぶ」ことが先決であることを指摘しています。

同書では、さらに次のように述べています。

「人材こそがもっとも重要な資産だ」という格言は間違っていた。人材が最重要の資産なのではない。適切な人材こそがもっとも重要な資産なのだ。

「人材は最重要の資産である」という美辞麗句は正しくないということです。「適切な人材こそが最重要な資産」です。適切な人材が向かうべき方向を決め、他の資源を有効に活用していくことができます。

裏を返せば、「不適切な人材こそ最悪の不良資産」であると言えます。「適切な人材」に悪影響を与え、他の有効な資産を無駄に使いさえするわけです。

ちなみに同書では、「適切な人材」を次のように説明しています。

どういう人が「適切な人材」なのかを判断するにあたって、飛躍を遂げた企業は学歴や技能、専門知識、経験などより、性格を重視している。具体的な知識や技能が重要でないというわけではない。だが、これらは教育できるが(少なくとも学習できるが)、性格や労働観、基礎的な知能、目標達成の熱意、価値観はもっと根深いものだとみているのである。

ドラッカーが言うところの「真摯さ(integrity)」に相当するようです。後から身につけることも、教えることもできない基本的な性質です。(参考:「『真摯さ』とは何か?」

会社の業績を隠さない

同書では、「最初に適切な人をバスに乗せ、不適切な人をバスから降ろし」と言っているのですが、この結論を導いた調査・分析の対象となった企業の多くは、名だたる大企業であることを忘れてはいけません。

社員の側にも選ぶ権利があるということを十分に想定しておらず、会社の側が社員を一方的に選べるという前提に立っています。

さらにもう一つ、危機に陥っている大企業が厳しい人材の選別を行う例が出てきますが、「なぜ、そんなことを今やろうとしているのか」が明らかにされていることが前提であることも忘れてはいけません。

つまり、厳しい人材の選別をしなければならない危機的な状況にあることを全社的に共有している中で、多くの社員がその会社に残りたいと考えているということが前提となっています。

一方で、リストラをしようとしたら、優秀な社員から辞めていくという法則もあるわけですから、「適切な人材」が残りたいと思ってくれるような会社でなければならないのです。

それは、優れた会社であろうとする努力でもありますが、その前提として、誠実な会社であろうとすることが大事です。社員に隠しごとをしないということです。会社が危機的な状況にあるのであれば、そのことを隠してはいけません。

ところが、自社の業績を社員に隠している会社は少なくありません。財務諸表を公開していると言っても、それだけで会社の実情が分かるわけではありません。社長自らが積極的に社員に説明し、理解を得る姿勢が必要です。

全員で危機意識を共有することが、「適切な人材」と「不適切な人材」を分けるための最低限の前提です。社員に自覚と覚悟を促すことだからです。

「適切な人材」には頑張る覚悟を、「不適切な人材」には逃げる覚悟を促します。

改めて会社の目的や使命を訴える

会社の側では、「適切な人材」を残したいわけですが、そのような人材が残りたいと思えるような会社でなければなりません。

会社が危機的な状況にあり、ビジョンや戦略を策定する前に適切な人を選ぶと言っても、今後どうなるのかがまったく分からないというのであれば、適切な人材を引きつけることはできません。

少なくとも、会社としての目的、果たしたいと思っている使命、社員に対して期待するものや報いたい気持ちなど、社長としての熱意や意欲を訴えることが必要です。

社員にとって、そこに将来の希望が見え、自らを鼓舞できるものがなければなりません。

社長の真摯で正直な気持ちを赤裸々に語ったうえで、それに共感できない社員は、危機の中にあって会社に貢献してくれることはないと言わざるを得ません。

社長の正直な気持ちを語ること、目的や使命を改めて明確にすることは、「適切な人」と「不適切な人」を自ずから選別する基準にもなるのです。

なお、先に述べたとおり、自社の業績を社員に隠している会社が少なくないのですが、業績がよい場合になおさら隠そうとする会社が少なくありません。

「業績がよいはずなのに、社員の給料が増えない。経営者だけが利益を自分のものにしている。」と思われたくないからです。しかし、隠しているなら、そう思われても仕方がありません。

業績がよいことを隠したがるのは、利益の意味を正しく理解していない企業です。利益が手段(将来のコスト)であることを理解せず、営利を目的としている企業です。

要するに、高い業績が何を意味するのかを社員に説明できないのです。高い利益が将来の目標達成にとって必要であることを堂々と説明できないのです。

ですから、日頃から、会社の目的や使命、将来の目標などを語ることはとても重要です。利益が手段である以上、利益が大きいか小さいかは、目的や使命、目標との比較で決まります。

高い目標を掲げている企業では、将来のコストを十分に賄える利益をあげていることはほとんどないということを知っておいた方がよいと思います。社長であっても、自分に対して大き過ぎる報酬を払おうという気にならないはずです。

(参考:「企業の目的は一体いつまで『利潤追求』なのか?」「利益の意味」「『営利企業』という害毒」

経営改善への参画と協力を求める

『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』では、「優秀な人びとは偉大なものを築く過程に参加したいと望んでおり」、「野心を自分個人にではなく企業に向けている」、「議論はすべて会社全体の利益のためのものであって、各人が自分の利益を守るためのものではない」と述べています。

ですから、目的や使命を明らかにしたならば、全社一丸となって経営改善に取り組み、現在の厳しい状況を乗り切っていかなければならないことを伝えなければなりません。

言われたことを言われたままに行うような人材は必要ないことを明らかにし、全員が会社の業績に自ら責任を引き受ける意欲をもつことを要求しなければなりません。

これは、成果を中心とする精神を基盤に据えた経営をすることの宣言であり、自己目標管理を導入することを意味します。プロセスを無視したノルマ中心の結果主義とはまったく意味が違いますので、注意しなければなりません。

(参考:「成果中心の精神」「自己目標管理」

経営陣のレベルでは、会社全体のビジョンや戦略(目標、計画)の策定を行うことになります。部門レベルでは、全体戦略に基づく部門別の目標と計画を策定します。各レベルの管理者は、上位レベルの目標と計画の策定に参画し、意見を述べなければなりません。

自己目標管理では、部下をもつマネジメントに目標設定を要求していますので、個々の社員レベルにまで目標設定を要求するものではありません。

しかし、厳しい状況を少数精鋭で乗り切ろうとするのであれば、全社員に目標設定を要求するべきでしょう。それができる人が「適切な人」であり、会社に残ってもらうべき人であることをあらかじめ明らかにしておくことも必要です。

(参考:「目標管理がうまく行かない理由」「目標管理制度は時代遅れなのか?」

報酬の削減を宣言する

厳しい情勢にあるときもそうですが、業績が好調であるときにも、報酬の削減を宣言することに意味があります。

成長しているときほど資金は枯渇します。先に出ていくお金が増えるからです。帳簿上の利益が上がっているように見えるため、なおさら資金管理に甘くなり、安易に報酬を増やしたりしがちだからです。

高い目標を強く意識し、資金管理を一層強化しなければなりません。

「報酬の削減を宣言したら、優れた人材がいなくなるのではないか」と思うかもしれません。しかし、『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』では、次のように述べられています。

経営陣の報酬と飛躍とを結びつけるような一貫したパターンは発見できなかった。

同書であげられている事例では、買収した企業の経営陣を一掃する例も出てきます。買収された企業の経営陣は、特別待遇を受けて贅沢三昧をし、著しく高い報酬を得ていました。報酬に釣られて働いていた人たちです。会社を駄目にし、買収される原因をつくった元凶です。

報酬に釣られていた人材は、報酬を下げれば辞めていきます。

しかし、「適切な人材」は報酬によって貢献するわけではないと言っているわけです。このことは、モチベーション理論でも明らかにされており、ドラッカーも明確に肯定しています。

(参考:「『モチベーション』とは何か?」「『やりがい』と『働きがい』」

当然のことですが、社員の報酬を削減する以上、社長自ら率先して報酬の削減を宣言しなければならないことは言うまでもありません。

宣言することが大事です。経営状態が厳しい中小企業では、社長が率先して報酬を削減しているところは少なくないのですが、それを宣言していないところが多いからです。

内緒でやることに美徳があると思っているのかもしれませんが、経営の状態は全社で共有しなければなりません。善意であっても隠しごとはよくありません。

不言実行ではなく、有言実行が大事なのです。社長が率先垂範する姿は、はっきりと見えるようにしなければなりません。

将来の希望、処遇改善の期待をもたせることも忘れない

『ビジョナリーカンパニー② 飛躍の法則』では、次のようにも述べています。

報酬制度の目的は、不適切な人びとから正しい行動を引き出すことにはなく、適切な人をバスに乗せ、その後もバスに乗りつづけてもらうことにある。

「適切な人にバスに乗り続けてもらう」ためには、正当な報酬が必要です。報酬を下げると不満の原因になり得ますので、安易に行うべきことではなく、あくまで正当な理由がなければなりません。

不適切な人材を抱え込んでいることが原因で、業績が悪化していたり、将来の目標の達成に困難をきたしていたりしていると考えられる場合に、ここであげた他の対策と併せて行うことが前提です。

「適切な人」の努力は報われなければなりません。会社の目的や使命の実現に向けた経営改善への参画と協力、業績への貢献によって、会社の将来に希望をもつことができ、処遇改善への期待を共有できることも必要です。

経営者は、そのことをあらかじめ約束しなければなりません。

そして、実際に目標の達成によって成果があがったのであれば、その約束を誠実に果たさなければなりません。

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