「やりがい」と「働きがい」

知識労働者を中心とする組織社会では、いかに仕事にやりがいをもたせ、働きがいのある職場をつくって、従業員を動機づけるかが重要になります。

「働きがいのある職場をつくる」という概念を世に広めた「Great Place to Work Institute」(GPTWI)によると、「働きがい」は「働きやすさ」と「やりがい」で構成されると言います。

「働きやすさ」とは快適に働きつづけるための就労条件や報酬条件などを意味し、「やりがい」とは仕事に対するやる気やモチベーションなどを意味します。

「やりがい」には、達成感や成長感、仕事に対する誇りなどが関わっており、自発性や自由性、創造性などが重要になります。

「働きやすさ」には、制度的な面や報酬などが関わっていますが、特に報酬の扱いには注意が必要です。報酬は「やりがい」を高めるどころか、阻害する原因となることが明らかになっているからです。

知識労働者が求める「やりがい」と「働きがい」

ドラッカーは、第二次大戦後間もなく「ポスト資本主義社会」への移行が始まったと言いました。それは、多元的な「組織社会」であり「従業員社会」です。

ポスト資本主義社会において現実に支配力をもち、最終決定を下し得る生産要素は、資金でも土地でも労働力でもなく「知識」です。ですから、ポスト資本主義社会は「知識社会」でもあり、「知識労働者」が主流となる社会です。

(参考:『ポスト資本主義社会』)

知識労働者は、フルタイムの正社員とは限りません。フルタイムの正社員はむしろ減少し、短時間労働者や派遣労働者といった非正規労働者、あるいは、業務委託の外注業者といった雇用関係にない業務従事者が多数を占めるようになると、ドラッカーは言いました。

組織の生産性を向上させるためには、多数を占める知識労働者を動機づけ、やる気を引き出すことが不可欠になります。そのためには、次のような知識と知識労働者の特性を理解しなければなりません。

  • 知識が主要な資本であり、それを所有するのが知識労働者ですから、組織と知識労働者は対等なパートナーでなければなりません。
  • 知識労働者は、「知識」の選択や適用という判断を伴った仕事をするため、肉体労働者に対するような監視や監督による管理は困難です。
  • 知識は移動が容易であり、変化のスピードも速いため、急速に陳腐化します。一方で、人は知識のように簡易に入れ替えることはできません。
  • 知識労働者の能力は、知識を仕事に適用する能力です。常に必要な知識を仕事に使えるよう、知識を高め、刷新し続けることが求められます。
  • 知識労働者は、自らの専門分野がアイデンティティです。会社よりも専門分野でのつながりを重視します。金銭以上に仕事を生きがいとします。

要するに、報酬動機で操る使用従属による管理ではなく、尊重し、支え、導く管理が求められます。仕事そのものを重視し、仕事を通じて自己を発揮し、高める機会を与えなければなりません。

伊藤健市氏によると、知識労働者を中心とする現代的職業人の主な欲求には、

  • 仕事が意味のあるもの(社会的大義、社会への貢献)であってほしい。
  • 新しいノウハウやスキルを身につけて成長し、キャリアを高めたい。
  • 創造性を発揮し、できれば自分にしかできない仕事をしたい、世の中に自分が生きていた証を残したい。
  • 他者から認められたい。
  • 自分のやりたい仕事をし、会社や仕事と家庭や個人の生活をバランスさせたい。

などがあり、これらの欲求を満たすことが、知識労働者の生産性の向上には不可欠であると言います。

このような欲求を満たせる仕事が「やりがいのある仕事」であり、そのような仕事ができる会社が「働きがいのある会社」です。

(参考:伊藤健市『「やりがいのある仕事」と「働きがいのある職場」』)

「働きがい」の意味

「働きがい」に関する研究成果が初めて紹介されたのは、『The 100 Best Companies to Work for in America』(ロバート・レベリング/ミルトン・モスコウィッツ共著、Addison-Wesley 1984)であり、「働きがいのある職場をつくる」という概念が認知されるきっかけになったとされています。

1991年にはロバート・レベリングによって「Great Place to Work Institute」(GPTWI)が設立され、1998年からアメリカの「FORTUNE」誌で「Best companies to work for」ランキングが掲載されるようになりました。

GPTWIは、ヨーロッパ、中南米、アジアにも拠点を広げ、日本では2005年から活動しています。「Great Place to Work」が「働きがいのある会社」に当たります。

GPTWIによると、「働きがい」とは、

  • 働きやすさ
  • やりがい

の両方が備わっていることを指しています。

「働きやすさ」とは快適に働きつづけるための就労条件や報酬条件などを意味し、整っていないと労働者の不満要因になるような内容を指しています。ハーズバーグが定義した「衛生要因(不満足要因)」に当たるもので、制度や仕組み、職場環境など目に見えやすいものです。

「やりがい」とは仕事に対するやる気やモチベーションなどを意味しており、ハーズバーグが定義した「動機づけ要因(満足要因)」に当たります。仕事そのものや、仕事を通じた達成・承認・成長、昇進など、どちらかというと目に見えにくいものが中心です。

(参考:「『モチベーション』とは何か?

働きがいのある会社には、「信頼」、「誇り」、「連帯感」という3つの関係性が構築されている必要があると言います。

「信頼」とは、リーダーやマネジメントに対する信頼で、「信用」、「尊敬」、「公正」からなります。

「信用」とは、部下に適切な情報を与え、組織を導く能力をもち、言行が一致していることなどを指します。「尊敬」とは、部下の支援、部下との協働、人として部下に配慮することなどを指します。「公正」とは、部下を対等に扱い、えこひいきせず、意思決定に当たって発言を許可することなどを指します。

「誇り」とは、自分の仕事が意味あるものと感じられ、組織で重要視されていることです。組織が社会に対して貢献していることを実感できることでもあります。

「連帯感」とは、会社の中で歓迎されているという実感です。全員が共通の目的に向かって動いていると感じ、仕事の上でも信頼されていると感じることなどです。家族的な雰囲気を醸し出すことが重要になります。

(ホームページ:「働きがいのある会社(Great Place To Work ® Institute Japan)」

内発的動機づけ

「働きがい」について考えるに当たっては、「内発的動機づけ」について理解しておくことが重要になります。知識労働者を真に動機づけるには、自らやる気を起こしてもらうことが不可欠だからです。

「内発的動機づけ」とは、エドワード・デシによると、「活動することそれ自体がその活動の目的であるような行為の過程、つまり、活動それ自体に内在する報酬のために行う行為の過程」を指します。

活動それ自体に没頭している心理的な状態であり、活動そのものに付随する楽しさや興奮、達成感、個人的な満足そのものが報酬になります。

(参考:エドワード・デシ、リチャード・フラスト『人を伸ばす力』)

デシは、様々な実験によって内発的動機づけについて調べ、内発的動機づけを高揚させる方法を明らかにしています。

内発的動機づけがもたらす楽しさと達成感は、人が自由に活動するときに自然に生じると言います。自らの行動を外的な要因によって強制されるのではなく、自分自身で選んだと感じる必要があります。

ただ、実際の仕事では、顧客がいて、会社としての目的がありますから、すべてを自分の好き勝手に行うわけにはいきません。ですから、どのような条件が整えば、内発的動機づけを高揚させることができるかが重要になります。

デシによると、主要な要件は「選択の機会を与える」ことです。課題は外部から与えられたとしても、「方法において自由裁量をある程度許す」ことで内発的動機づけを高められると言います。

仕事をよりおもしろくするように工夫する余地を与えたり、意思決定に参加させたりする方法があります。

「自分にとって意味のある選択」が自発性を育みます。自ら選択することによって自分自身の行為の根拠を十分に意味づけることができ、納得して活動に取り組むことができるからです。「自由意思の感覚を感じる」ことが重要です。

ただし、意味のある選択ができるためには、「十分な情報が与えられている」必要があります。情報なしに選択の機会が与えられても、負担を感じるだけです。

内発的動機づけは、豊かな経験、概念の理解度の深さ、レベルの高い創造性、よりよい問題解決を導くと言います。

なお、内発的動機づけには、非常に厄介な問題があります。「報酬や規則や管理といったものが、人間に本来備わっている内発的動機づけを阻害してしまう」という問題です。

デシが行った実験によると、内発的に動機づけられていた者が、いったん報酬を受け取り始めると、その活動に対する興味を失い、報酬が打ち切られると、もはやその活動をしたいとは思わなくなると言います。

報酬には、金銭に限らず、誉め言葉、賞状、食べ物などがありますが、どれも同じような効果を示すことを実験で確かめています。誉め言葉は、男性に比べて、特に女性にとって統制としてとらえやすい傾向があると言います。

報酬の中でも、「金銭」が特に強力な力をもつようです。そこから、「人は金銭によって動機づけられる」という考え方は間違いであり、「金銭が人を統制するというのが正しい」と結論づけています。

「金銭が統制する」というのは、「金銭によって圧力をかけられ、行動させられている」という意味です。

なお、同じく実験によって、「競争もまた内発的動機づけに望ましくない影響を及ぼす」ことを確かめています。競争を煽るのではなく、自らのベストを尽くすことを求めることが、競争による有害な影響を排除すると言います。

仕事にやりがいを与える要素

伊藤健市氏は、「やりがいのある仕事」を次のように定義しています。

  • 働く人の能力やキャリアに見合った仕事
  • 働く人が誇りをもてる仕事、すなわち、その人にとって意味のある仕事
  • 働く人のもつ心理的欲求(成長感、達成感、有能感、貢献感、自己実現など)を満たし得る仕事

(参考:伊藤健市『「やりがいのある仕事」と「働きがいのある職場」』)

目的や使命に共感できる

大前提として、会社の目的や使命に共感できなければなりません。

会社の仕事は、目的や使命を遂行するための手段ですから、そもそも向かっている方向に共感できなければ、いかなる仕事であっても、誇りをもつことはできず、心理的な欲求を満たすこともできません。

専門分野を重視する知識労働者は、自らの仕事が、会社の目的や使命の遂行を通して、社会に有用な価値を提供しているという実感を求めます。それが彼らにとっての自己実現でもあります。

ただし、会社の目的や使命は、会社の存在意義そのものです。部下が気に入らないからといって好き勝手に変えられるものではありません。

最も優先すべきは、会社の目的や使命を明確に定め、明らかにしたうえで、それらに共感できる人材を募集・採用するということです。

この点を曖昧にして、給料などの労働条件で人を惹きつけようとすると、後になって苦労します。給料で寄ってきた人は、必ず給料で離れていきます。そういう人材に対して「やる気がない」と言ったところで、どうにもできません。

(参考:「あなたの会社はなぜ社員を採用できないのか?」

仕事に意味を見出す

意味のある仕事とは、「何のためにその仕事を行うのか」が理解できているということです。つまり、自分の仕事がどのように会社の目的や使命に貢献するのかを理解できなければなりません。

すべてのレベルの仕事が、目的や使命に重大な貢献をしているとは限りません。ささやかな貢献かもしれません。ダン・アリエリーが行った実験によると、仕事の意味はささやかであったとしても、仕事意欲に影響を及ぼすと言います。にもかかわらず、その影響力はかなり過小評価されているとも言います。(参考:『不合理だからうまくいく』)

ですから、部下に対して、あらかじめ仕事の意味を理解させることは大切です。部下に期待する貢献や成果の内容を明らかにし、それらが会社の目的や使命とどのようにつながっているかを納得してもらいます。

さらに、折に触れて、部下を励ましたり、褒めたりして、部下が期待に応える方向に進んでいることを確認することも必要です。

無視したり、頑張っている様子に気づかないふりをすれば、任せられている仕事が重視されていないことを宣言しているようなものです。仕事から意味を奪うことと同じになります。

仕事の生産性を高める

仕事にやりがいが感じられるためには、実際に仕事そのものが生産的に設計されていなければなりません。つまり、目的に適って無駄がなく、成果があがるように設計されていなければなりません。

いくら会社の目的や使命が高尚で共感を呼ぶものであったとしても、実際に行う仕事自体に無駄が多く、非効率であれば、成果をあげることはできません。成果をあげられない仕事は、どんなに努力してもやりがいを感じることはできません。

重要なことは、仕事そのものを客観的かつ合理的に設計することと、その仕事を人に割り当てることとは別に考えなければならないということです。仕事を合理化するという場合、人間疎外といった非難が常に付きまといますが、それは、仕事の設計と人への割り当てを混同しているところに問題があります。

仕事を生産的なものにするには、IE(インダストリアル・エンジニアリング)を活用します。基本的な手法はホワイトカラーの仕事にも適用できます。

まず、期待される成果を明らかにしたうえで、そのために必要な仕事をあげ、作業レベルまで分解します。同時に、個々の作業に相応しい道具も準備します。

一つひとつの作業から無駄を省き、最も効率的な順番を考え、プロセスに統合します。プロセスの中には、管理のための手段、すなわちフィードバックの仕組みを組み込みます。

そのようにしてプロセスに組み上がった仕事について、人間の生理的な側面、達成感や創造性といった心理的欲求を考慮して、人に割り当て、目標を設定します。

なお、仕事を生産的なものにするプロセスには、実際に作業に従事する人を参画させなければなりません。できれば主体的に考えさせ、上司やスタッフはサポートする側に回るべきです。そうすることで、内発的動機づけを高めることにつながります。

(参考:「仕事の生産性」「働くことの力学」「働く人と働くことのマネジメント」

職務充実

客観的で生産的に設計された仕事は、人に割り当てられなければなりません。人に割り当てられた仕事のことを「職務」と呼びます。

ハーズバーグは、人を動機づける仕事の割り当て方として、「職務充実」の重要性を指摘しました(参考:ハーヅバーグ『仕事と人間性』)。

達成感を味わえるようにします。流れ作業の一工程のように、あまりに断片的な職務の繰り返しであっては、達成感を味わうことはできません。一定の成果が確認できる程度の完結性をもち、職務の価値や貢献を感じられることが必要です。

一定の責任を自覚できるようにします。単純な単体の職務ではなく、いくつかの種類や段階などの構成要素をもち、一定の複雑性をもつ必要があります。職務の遂行過程で、自らの責任によって段取りをし、構成要素間の関係づけを理解しながら職務を完成させることができるものです。

職務をとおして、成長を実感できるようにします。なすべきことがあらかじめすべて明らかになっているのではなく、創造性や創意工夫の余地を残しておきます。

より高度の職務に従事できるよう昇進の機会を開いておきます。より高度の職務とは、意思決定の権限が付与・拡大されるようになることです。意思決定とは、曖昧さが残る状態において決断することであり、一定のリスクを引き受けることです。

創造性とも関わりますが、自らの個性を発揮できることも重要です。方法において柔軟性をもたせ、個性や強みを生かす方法を選択できる余地があることで、仕事から直接興味を引き出す機会が得られます。

強みを引き出す適正配置

仕事や職務の設計においては、様々な個性や強みをもった人が適応できるような柔軟性をできるかぎりもたせることが望ましいですが、常にそれが可能であるとは限りません。

仕事の性質によって、その人の強みや弱みが直接に影響を与えてしまうものもあります。対人関係が絶対的に重要な業務、数字を正確に扱わなければならない業務、クリエイティブな業務などです。

ですから、優先すべきは、強みを最大限に生かせる仕事に配置することです。人は強みによってしか成果をあげることはできず、達成感も味わえません。

弱みが出ないことを重視した配置で動機づけられることはありません。

(参考:「強みによる人事」

目標の設定

仕事には方向性が必要です。最終的には会社全体の目的や使命に貢献するものでなければなりません。

各人の仕事を会社全体の目的や使命につなげる役割を果たすものが「目標」です。職務充実と目標設定によって、達成感、充実感、有能感、貢献感などをより具体的に感じることができるようになります。

目標設定理論で有名なのはロックです。ロックは、具体的で困難な目標へのコミットメントが高い業績につながると言います。

さらに、与えられた目標ではなく、目標設定に参加することが、目標の受容、目標へのコミットメントにつながり、結果として業績を向上させると言います。

つまり、目標がもつべき特性は、次の3つです。

  1. 具体度(specificity)
  2. 困難度(difficulty)
  3. 決定プロセスへの関与度(intensity)

あえて区別すると、職務充実は満足を高め、目標設定は業績を有意に向上させます。

ロックは、目標設定の主なステップを次のように説明しています。

  1. 現状の診断を行う。
  2. 準備として、従業員とのコミュニケーション、教育訓練、行動計画の策定を行う。
  3. 目標がどのような特性をもつべきかを管理職とその部下に理解してもらう。
  4. 設定された目標の達成状況について確認し、必要な調整を行うために、適切な中間点で洗い直しを行う。
  5. 設定・修正・達成された目標をチェックするために、最終点検を行う。

目標設定に関しては、ドラッカーの「自己目標管理(management by objectives and self-control)」が重要です(参考:「自己目標管理」)。

目標設定は、本人の強みや弱みを知り、何を新たに学び、強化する必要があるか(継続学習)を教えてくれます。高い目標へのチャレンジと成果の評価が、それらを明らかにします。

仕事のやりがいを支える要素

社会規範による動機づけ

働きがいのある職場には、「社会規範」が関わると言います。「人との関わり合い」「人に対する思いやり」などです。

仕事においては、「仲間と一緒に何かをつくりあげる興奮」などにつながるもので、「社会的なモチベーション」ということができます。

ダン・アリエリーによると、社会規範によって従業員は熱心で勤勉になり、順応力も意識も高まる傾向があると言います。それが従業員に忠誠心を抱かせ、やる気を起こさせる最善の方法のひとつともなります。

ここでも厄介な問題は、「社会的なモチベーションと金銭的なモチベーションは共存できない」とされていることです。社会規範によって動機づけられているところに、市場規範(昇進ごとにだんだん増えていく給料など)を持ち込もうとすると、社会規範の方が消えてしまうというのです。

ダン・アリエリーによると、「市場規範よりも社会規範の方が強い企業(特に新興企業)が、人々をより動機づけ、大きな働きを引き出している」と言います。

社会規範を醸成することで、従業員の孤立化を防ぎ、連帯感を醸成することもできるようになります。

(参考:ダン・アリエリー『予想どおりに不合理』、『お金と感情と意思決定の白熱教室』)

管理者やリーダーの姿勢

集団を動機づけるには、管理者やリーダーの姿勢が重要です。集団全体の業績を左右します。

リッカートは、部下の人間的問題への配慮を第一義とした集団をつくり、彼らの行動に支持的な「従業員中心型」の監督方式が優れているとしました。

「支持的」とは、部下が個人的な価値観を獲得したり、それを維持したりしたいという願望を支持することです。

組織の目的が意義あることであり、部下自身の特定の仕事が組織の目的達成に不可欠なものであることを理解させます。併せて、部下が集団から認識・支持され、安定感や好意的反応を得られるようにします。そうすることで、集団の中で仕事をすることが、部下の個人的な価値観として醸成されていきます。

人は、高い業績目標をもった効率的な集団で働くときに、最高の機能を発揮すると言います。

集団的な意思決定あるいは管理方式を採用することも必要です。集団での様々な決定に参画することで、組織の目標と自己との一体感をもつことができるようになります。

(参考:リッカート『経営の行動科学』、『組織の行動科学』)

マズローも同様の主張をしています。

独裁的経営のもとでは、人は個人として尊重されることがなく、ある種の破壊的抵抗、あるいはずるがしこさに訴えると言います。働きがいや前向きな仕事ぶりを期待することはできません。

独裁的経営のもとで生じる不満の原因は次のようなものです。

  • 人が回避したがることをされること
    • こまかされる、牛耳られる、あごでこき使われる、自分のことを他人に決められる、誤解される
  • 価値のないものとみなされること
    • 感謝されない、尊敬されない、軽視される、言うことをまともに取り上げてもらえない、嘲笑の対象とされる
  • 他人からバカにされていると感じること
    • 命令される、強制される、たぶらかされる(利用される、搾取される、強奪される)、支配される、協力が得られない、不平を言われる、いんぎんに扱われる、代わりはいくらでもいるとみなされる

マズローは、従業員が仕事の中で自己実現を図れる経営環境をつくらなければならないと言います。仕事は、人を自己実現に向けてうまく成長させる精神療法となり得るものであり、仕事が自己の一部、自分自身を規定する一部となるということであると言います。

部下が成長し、自己実現を図ることに喜びをもつことが、真に優秀な管理者です。

人は怠惰よりも働くことを好みますが、無意味で無価値な仕事をするくらいなら働かないことを選びます。人は、うまく組織され、機能している組織の一員として、他の人たちと協力して働くことに喜びを感じるものですから、管理者は、部下から多くの生産物を引き出し、労働者の心理的な健康をも増進させるように努めなければなりません。

(参考:マズロー『完全なる経営』)

公正さ

公正でない組織は信頼を得ることはできず、そのような組織で最善を尽くそうとする者はいません。

組織の公正さについては、グリーンバーグらが有名です。

公正の基準や要因には様々な理論があるようですが、組織の公正さを問う場合には、一般的には、次の2つが取り上げられます。

  • 分配的公正:
    • 結果(給与、昇進など)が公正であること
  • 手続き的公正:
    • プロセス(手続き、システム)が公正であること(情報が十分に収集されていること、審査の方法に偏りがないこと、透明性があること、意義を申し立てる権利が留保されていること など)

意思決定者は、自ら公正であるだけでなく、日常的に公正な言動を示して周囲に理解してもらわなければなりません。リーダーシップが重要です。

分配的公正の基準には、衡平原理(投入した労力、能力、業績などに応じて分配すること)、平等原理(等しく分配すること)、必要原理(必要としている程度に応じて分配すること)などがあります。

人事評価では、主に「衡平原理」が利用されているでしょうが、チーム別には衡平原理を適用し、チーム内では平等原理を利用する場合もあるでしょう。通勤手当や家族手当など各種手当の決定には「必要原理」も使われているでしょう。

手続き的公正の基準は、分配的公正の基準として「衡平原理」を採用した場合に、特に問題となります。

  • 過程コントロール(当事者が意見表明できる機会が与えられること、決定プロセスに直接・間接に影響力を行使する機会が与えられること)
  • 一貫性(全員に一貫して適用されること、一定期間手続きに変更がないこと)
  • 偏向の抑制(利己的な考えや偏見に影響されないこと)
  • 情報の正確性(決定が依拠する情報が正確であること)
  • 修正可能性(決定の最終過程で修正の機会があること)
  • 代表性(手続きの影響を受ける人たちの関心や価値観が反映されていること)
  • 倫理性(手続きが道徳や倫理基準から逸脱していないこと)

など、様々な内容が提示されています。

報酬の取り扱い

「働きがい」には「やりがいと」と「働きやすさ」の2つの要素があり、ここまで前者を中心に詳しく述べてきました。

後者については、快適に働きつづけるための就労条件や報酬条件などを意味していると説明しましたが、中でも、最も厄介で扱いが難しい報酬の問題について、ここで少し触れたいと思います。

これまでも述べてきたとおり、仕事のやりがいに関しては、報酬が阻害要因になると指摘されています。

ダン・アリエリーは、インセンティブは諸刃の剣であると言い、インセンティブを数多く与えられると、ある点までは学習意欲が高まり成績も上がっていくが、その点を超えるとやる気が重荷になり、かえって課題に集中して取り組む妨げになると言っています。

単純な機械的作業では成績を高める効果があるが、頭を使わなくてはならない課題では、かえってプレッシャーによる逆効果になることがあるようです。

(参考:ダン・アリエリー『不合理だからうまくいく』)

エドワード・デシは、報酬は内発的動機づけの阻害要因となり、「金銭は人を統制する」と言っています。

だからといって、人は無償で働くかというと、そんなことはありません。非営利組織のボランティアであればそういうこともあり得ますが、会社でそういうことはあり得ないでしょう。人は生活の糧を求めており、プライベートでの自己実現を図るためにも報酬を必要としていることは間違いありません。

ですから、社会規範や内発的動機づけを阻害しないために、報酬をいかに扱うべきかを考えなければなりません。

デシの提案は、「人を動機づける手段として報酬を位置づけない」ということです。つまり、報酬で釣って人をやる気にさせようとしないことです(この点に関しては、ドラッカーも同意見です)。

ただし、一方で、人は報酬に公正さを求めます。報酬がその貢献に見合ったものであり、周囲の人が得ているものと比べてバランスがとれていると感じる必要があります。

デシは、報酬を仕事の条件の単なる一側面とすることによって、単純に仕事というものに内在する事実としてバランスよく扱うことができると言います。仕事を成し遂げたことを認める手段として限定的に位置づけるわけです。

例えば、あらかじめ評価と報酬の対応を客観的に明確化し、透明にしておいたうえで、それに従って評価し、支払うというやり方があるでしょう。

しかしながら、報酬を伴う評価というものは、公正さを保証することがきわめて難しいのはご承知のとおりです。ですから、手続き的な公正さを様々に設けるわけです。

内発的動機づけの理論からいうと、仕事そのものが最高の報酬となるべきですから、優れた成果をあげた者には、より高度な仕事を与えることで対応することが理想的です。

報酬は、あくまで仕事自体に対応した対価としてあらかじめ定めておきます。

ですから、仕事が高度になれば、その仕事のレベルに応じて報酬が上がります。

仕事において期待された成果があがらなければ、仕事のレベルを下げるか、量を減らすかということになり、変化した仕事に応じて報酬は減額されます。

誉め言葉なども同様です。成果を認めているようでありながら、更なる期待や義務の要求、制約を意識させるような意図をもった褒め方は、統制ととらえられ、内発的動機づけを阻害するので注意が必要です。