経営工学の主な手法と適用分野

経営工学とは、現実の企業組織の中にある各部門と密接に結びつき、工学的手法を用いて、それらの業務の計画や運用・改善を検討する学問です。

経営工学の確立に寄与したものは、産業革命による生産手段の転換です。器具や道具から機械へ、肉体労働から機械生産へ、家内制手工業から工場制機械工業への転換です。

蒸気機関の動力化が工場を大規模化し、大量の未熟練労働者を活用する必要性を生みました。そこにテイラーの科学的管理法が適用され、生産の標準化によって大幅に生産性が向上しました。代表的なものは、移動組立方式(コンベア・システム)に象徴されるフォーディズムです。

経営工学の適用分野は、やはり生産分野を中心に広がっており、特にコンピュータの発達が大きく貢献しています。

経営工学も、応用分野は経営システムに限定されますが、手法は学際的です。あらゆる固有工学(機械、電気、電子、化学、情報など)が活用されます。

一般的アプローチ

経営工学にも様々な手法がありますが、共通する一般的なアプローチがあります。一方向ではなく、フィードバックのプロセスです。

  1. 問題の明確化(目標と範囲を定める)
  2. データ収集
  3. モデル化
  4. 分析(対象システムの特性を明らかにする)
  5. 代替案の検討
  6. 試行
  7. 適用

(参考:『現代経営工学概論』(オーム社、浅居喜代治))

適用分野

生産管理

生産管理とは、目的とする製品を産出するために、効果的な生産過程を構成し、適切に稼働させるための方法です。製品に対するユーザーの要求や期待に基づいて具体的な生産目標を掲げ、それにしたがって生産過程を稼働させることにより、全体として効率的な生産を行わせようとします。

生産とは、一般的には工場での有形の製品を製造することを意味しますが、生産管理自体は情報やサービスなどの無形のものの生産や提供の活動に対しても活用できます。

生産過程とは、大きく分けて、材料や情報の「投入」、加工その他の処理を行う「変換」、製品やサービスの「産出」の3つで構成されます。

投入と産出の比(産出÷投入)を「生産性」と呼び、より少ない投入で一定の算出を維持すること、または、同じ投入でより多く産出することを「生産性の向上」と言います。

生産管理のうち、生産計画に従って実際に製品を作るための管理のことを特に「工程管理」と呼びます。

工程管理の具体的な手順は、次のとおりです。

  1. 生産計画に応じる準備
  2. その仕事をするように割り当てを通知
  3. 材料を届ける
  4. 仕事の進度を調べ、調整する
  5. 結果を記録する

3番目の「材料を届ける」に関連して、最終製品に対する需要に基づいてMPS(Master Production Schedule:計画期間内の最終製品の生産計画)を決定し、その製品を構成する部品の生産または補充リードタイムを逆算し、各工程での在庫をなくすように生産日程(資材調達日程)を決定することを「MRP(Material Requirements Planning:資材所要量計画)」と言います。

品質管理

品質管理の定義は様々に変遷していますが、日本工業規格によると、「買い手の要求に合った品質の品物またはサービスを経済的に作り出すための手段の体系」とされています。また、「品質管理を効果的に実施するためには、企業活動の前段階にわたり、経営者をはじめ管理者、監督者、作業者など企業の全員の参加と協力が必要である(全社的品質管理総合的品質管理)」としています。

ジュランによると、品質とは「製品あるいはサービスがそのユーザーの欲求を満足させる度合い(使用適合性)」であり、設計品質製造品質の両者を確保することが必要であるとしています。

「設計品質」とは、設計図、製品仕様書などに定められたとおりに作られた製品の品質であり、「ねらいの品質」とも呼ばれます。

「製造品質」とは、設計品質を実際に製品として製造する際の品質であり、「適合の品質」あるいは「できばえの品質」とも呼ばれます。

品質管理には、PDCAサイクルによる品質の維持と改善が重要です。経営のあらゆる分野で当たり前になっているPDCAサイクルですが、元々は品質管理から導入されたもので、提案者の名前を取って、デミング・サイクルあるいはシューハート・サイクルとも呼ばれました。

品質管理に当たっては、品質と経済性の関係についての理解が不可欠です。一般的に、品質を高めるとコストが上がると理解されていますが、正しくありません。不良が多いと損失コストが増えるため、品質を高めると不良が減って損失コストが下がります。一方、不良を低減するためには管理コストが増えます。これら損失コスト不良低減コストの2つが総コストを構成し、総コストが最小となる不良率(最適不良率)が存在します。

まずは最適不良率を目指します。それが維持できるようになったら、品質管理活動によって管理レベルを高め、最適不良率とそのための最低総コストをさらに引き下げます。

品質管理活動に活用されるツールとして、代表的な7つのものがあり、「QC7つ道具」と呼ばれています。

  1. チェックシート
    • データ採取用と点検・確認用があります。
  2. ヒストグラム(度数分布図)
    • データの範囲をいくつかの区間に分け、区間ごとのデータの出現度数をグラフにします。分布の形、データの中心、データのばらつきなどを把握できます。
  3. パレート図
    • 不良の種類や発生場所の頻度、件数、量を多い順に示した棒グラフと、その累積比率の折れ線グラフで構成されます。通常、わずかの種類が大半の比率を占めるため、それを重点管理します。
  4. 特性要因図(フィッシュボーン・チャート)
    • 問題とする特性と、それに影響を及ぼしていると思われる要因との関連を整理します。不良やばらつきの低減のための要因探索、実験などを計画するときの要因の摘出、結果と原因や目的と手段などの関係の整理などに利用できます。
  5. 散布図
    • 2つの計量値を2次元平面状にプロットし、相関関係を調べます。
  6. 層別
    • 特性要因図にあげられた要因のうち、どれが真の原因であるのかを探るのに用いられます。通常、要因ごとのデータをパレート図や散布図などに表現します。全体データでは分からない傾向が、層別によって特定の層に着目することで現れてくることがあります。
  7. グラフ・管理図
    • グラフは、様々なデータを図示したものです。
    • 管理図は、工程の異常を検出するための測定値を折れ線グラフでプロットしたもので、特殊なグラフと言えます。判定基準に当たる線も同時に記述します。

品質管理には検査が不可欠です。検査とは、品物を何らかの方法で試験した結果を、あらかじめ定めた品質判定基準と比較して、良・不良を判定することです。全数検査、抜取検査、無試験検査があります。

品質管理は、通常、生産現場で実施されるものですが、それを会社全体に広げて、「全社的品質管理(Total Quality Control:TQC)」として実施する場合があります。その核になるものがQCサークル活動です。同じ職場内で品質管理活動を自主的に行う小グループを設け、自己啓発、相互啓発による職場の管理、改善の継続を進めます。その目的には、次のものがあります。

  • 企業の体質改善
  • 人間性を尊重して生きがいのある明るい職場をつくる
  • 人間の能力を発揮し、無限の可能性を引き出す

TQCは、社長から社員に至る全員、全部門参加の品質管理です。トップの理解と推進、QCスタッフの現場への浸透が必要です。現場のQCサークルに頼りすぎるのではなく、マクロの品質管理を目指します。社員全員にTQCは身近なものであると自覚させることが不可欠です。

TQCは日本で発展し、敗戦後の日本をJapan as No.1と言わしめるまでに成長させました。ところが、1990年代に入り、顧客ニーズが多様化して製品ライフサイクルが短くなってくると、うまく機能しなくなってきました。TQCが現場の品質管理活動に主眼を置きすぎていた点に問題があり、現場改善の積み重ねだけでは顧客ニーズに対応できなくなりました。

一方、アメリカでは、日本の品質管理を研究し、アメリカ流に使いやすく変えました。顧客満足度向上や品質向上を経営戦略に位置づけ、トップダウンで行う手法として、企業全体でマクロな視点から品質管理活動を徹底させる「総合的品質管理(Total Quality Management:TQM)」です。

財務管理

財務とは外部からの資本の調達とその運用に関する業務であり、財務を合理的かつ科学的に管理する活動が財務管理です。

財務管理への経営工学の応用としては、「経済性分析」があります。経営の計画や改善のための方策を実施することによって得られる将来の利益の増分を比較計算して、経営管理者の意思決定を助けます。

投資の効果は長期間に及ぶため、経済性分析のためには、資金の時間的価値を考慮することが重要になります。

  • 現価:資金の現在の経済価値
  • 終価:投資効果が及ぶ最終時点の資金の経済価値
  • 年価:ある期間中の連続的な経済価値

資金の時間的価値とは、利息による影響を意味します。資金は、そのまま預金として寝かせたり、安全性の高い国債などを購入したりすると利息が得られます。何らかの事業に投資するなら、その利息よりも高い投資利益率を得たうえで投資額が回収できなければなりません。その資金が第三者からの借入金や出資金である場合、借入利息や配当の支払いが必要となるため、それらよりも高い投資利益率を得たうえで投資額が回収できる必要があります。

例えば、現在の100万円は、数年後にはその100万円に利息分を加えた額以上に増えて戻ってこなければなりません。数年後の時点で考えると、その時点での100万円は、現時点では利息分だけ少ない金額の価値しかないことになります。これが時間的価値を考慮するという意味です。

時間的価値を考慮した経済計算には、次のものがあります。

  • 現価法(将来の利益を現在価値に換算して、初期投資額と比較する方法)
  • 年価法(初期投資額を年価に換算して、毎年の利益額と比較する方法)
  • 終価法(毎年の利益額と初期投資額を終価に換算して比較する方法)
  • 利回り法(初期投資額と、それによる将来報酬合計の現在価値が等しくなるような利率(利回り)を求める方法。その利回りが、例えば初期投資の調達金利より高ければ、投資する価値がある。内部収益率法とも言う。)
  • 回収期間法(初期投資を、それによる将来報酬によって回収するためにどのくらいの期間がかかるかを評価する方法)

経営情報システム

データ情報の違いは、データがある対象や事象から観測・測定されたものであるのに対し、情報はそのデータに一定の意味や価値が付加されたものである点です。データを情報に転換するプロセスを「情報処理」と言います。

経営情報とは、企業の目的を達たすために必要な意思決定に活用される情報です。外部環境に関する情報と内部環境に関する情報があります。内部環境に関する情報は、階層別、部門別、業務別、時間別(過去、現在、未来)などに区分されます。

経営情報システムとは、経営情報が体系的に開発、処理、活用され、維持されている情報システムのことです。物やお金の流れ、外部環境のデータなどが収集され、情報処理されてデータベースに蓄積されます。

経営情報システムには、様々な処理系のシステムが付随しており、データベースに蓄積された情報を活用し、処理して、再びデータベースに蓄積されます。業務処理システムによる各部門での日常的な活用が行われ、管理情報システムによってそれらの進行や適切性などが管理されます。さらに、戦略情報システムによって意思決定に活用されます。