非公式組織と公式組織の関係 − バーナードの組織論⑧

人々は、どの公式組織とも無関係に、しばしば他人と接触し、相互に作用し合っています。

このような接触や相互作用を、バーナードは「非公式組織」と呼んでいます。その特徴は、意識された共通目的がないままに生じ、継続し、あるいは反復されることです。

非公式組織およびその集団は、たとえ意識された共通目的がなくても、参加する個人の経験、知識、態度、感情などを変化させます。その影響は、自分も他人も気づかないうちに、永続しているものです。

このような影響は、記憶、経験などの心的状態や行為習慣の中に具現され、人間相互間の接触によって、広い範囲と長い期間にわたって、多くの人々の間に広がっていく可能性を持っています。

非公式組織は不明瞭であり、決まった構造を持たず、明確な下部単位を持ちません。

どのような公式組織にも、それに関連して非公式組織が存在するという点が重要です。公式組織といえども、そこに人間が集まる限り、協働目的を超えた相互作用が常に生じ得るからです。

非公式組織の成果

非公式組織は無意識的な社会過程から成り立っているものの、重要な結果を生みます。

まず、一定の態度、理解、慣習、習慣、しきたり、風俗、制度、社会規範、理想などを確立することです。これらを「非公式制度」と呼びます。

これに対し、公式組織の過程から直接生じるものを「公式制度」と呼びます。

非公式制度は、個人の無意識的あるいは非理性的な行為や習慣に対応します。公式制度は、個人の思考と計算に基づく行為と政策に対応した論理的なものです。

非公式制度と公式制度は相違がありますが、両者を混同することがよくあります。両者の相違は、相互に影響し、修正し合う作用があります。

非公式な結合関係は、公式組織に必ず先行する条件です。共通目的の受容、伝達、協働意欲のある心的状態の達成などを可能にするためには、事前の接触と予備的な相互作用が必要だからです。

したがって、非公式組織は公式組織のあるところに付随して存在します。公式の相互作用が存在するからこそ、非公式の関係も永続し、発展できると言えます。

欲求や関心が物質的なもので、社会的なものでないときは、分配目的がうまく機能する限り結合や協働が生じます。そうでなければ、利害の対立、反目、敵意、そして組織の解体に至ります。

欲求や関心が物質的なものでなく、社会的なものであるときでも、結合関係を維持するためには、明確な目的にかなりの集中が必要です。人間は能動的であり、活動目的を求めるからです。受動的で不活発な結合は長続きしません。

非公式組織の発展

個人の諸活動は必ず局地的な直接的集団の内部で行われます。大規模組織に対する関係も、必ず個人が直接に接触している集団を通して生じます。

個人の本質的欲求は社会的結合であり、この欲求が、個人間における局地的活動である直接的相互作用を求めることになります。

社会的満足のためには活動、特に具体的行為が必要ですが、どのような活動形式でも、通常、短時間のうちに使い尽くしてしまい、それに代わる活動を工夫することは意外に困難です。

活動のはけ口がないと、人間性が失われた状態になります。多くの人々が同時にそのような状態になると、逆にどんな狂気じみたこともしかねないといいます。

具体的目的があると、多様な形式の行為をすることができ、多くの異なる集団との結合の可能性を持つような状態が生まれます。

こうなると今度は、どの活動に専念しようとしているのか、どの集団との結合を希望するのかを決められず、麻痺状態が生じるといいます。

したがって、人間の社会的結合関係を適切に維持するためには、具体的目的と同時に一定の活動の型が必要であることが分かります。

公式組織の形成

目的を持った協働は、論理的能力や科学的能力の源泉となり、かつ、それらのはけ口ともなります。その過程で、合理的行為をする個人的能力が生まれます。

このことによって、永続的な非公式組織は、多くの場合、公式組織を持ちます。公式組織によって社会に明確な構造が生まれ、個人的結合関係が継続性を保つに十分な一貫性が与えられます。

そうでない場合は、敵対的集団に解体します。敵対は、それ自体が、敵対行為によって分裂した集団を統合する目的(防護や攻撃)の源泉となります。

公式組織が拡大していくと、全体社会の凝集性が高まり、またそれを必要とするようになります。例えば、政府という公式組織が拡大すると、その中に、軍事的、経済的、宗教的、その他の機能が公式組織として確立することによって、大規模な複合組織の構造が存在するようになります。

全体社会は、公式組織によって構造化され、公式組織は非公式組織によって活気づけられ、条件づけられます。双方が互いを必要とし、一方が挫折すれば、他方が解体します。

公式組織が崩壊すると、分裂した社会や対立する社会は、闘争的に影響し合うようになります。この場合も、対立している社会のそれぞれの内部では公式組織が存在します。

公式組織が全く存在しなければ、ほぼ完全な個人主義で無秩序な状態となります。

公式組織による非公式組織の創造

公式組織は非公式組織から発生し、非公式組織にとって必要なものですが、公式組織が作用し始めると、それは非公式組織を創造し、必要とします。

例えば、ある非公式組織から公式組織が生まれ、その内部に部門別の下部組織が公式に作られると、その下部組織に対応した非公式組織が生まれ、重要な役割を果たすようになります。

しかし、公式組織において、非公式組織が不可欠の重要な役割を担っていることが十分認識されないことが多く、経営層においてその存在が否定されたり、無視されたりしがちです。

しかし、公式組織における非公式組織の存在は、メイヨーらによるホーソン実験等で証明されています。

組織の働きが、組織図、規則などから十分に理解できないのは、非公式組織が事実上の重要な役割を担っているからです。「組織のコツを知る」とは、主として、その非公式組織で、誰が、何を、何故にやっているかを知ることです。

非公式組織は、日常の結合関係という当たり前の身近な経験の一部ですから、そこに含まれる特定の相互作用の一部のみを見ているだけでは非公式組織に気づきません。

公式組織における非公式組織の機能

公式組織における非公式組織の欠くべからざる機能の一つは、伝達機能です。もう一つの機能は、貢献意欲と客観的権威の安定を調整することによって、公式組織の凝集性を維持することです。

自律的人格、自尊心および自主的選択力を維持する機能もあります。非公式組織の相互作用では、公式組織のように権威による支配が意識的には行われず、個人の選択力が重視されるため、人間的な態度を強める機会になります。

最後の機能は、公式組織にとって有害視されることが少なくありませんが、個性を分裂させがちな公式組織の影響に対して、個人の個性を維持する手段とみなすことができ、公式組織にとっても効果的に機能するはずです。