機会主義的意思決定 − バーナードの組織論⑳

意思決定によって選択される組織行為は、意識的に確認された目的ないし目標を基礎とします。組織の場合、行為の目的はすべて社会的過程によって形成されたものですが、多くの場合、過去の組織行為の結果です。

組織目的には2つの側面があります。一つは道徳的な側面です。組織の未来の理想を表現するもので、組織が求める「利益」に基づいて明確な形を取ります。

もう一つは機会主義的な側面です。現状のもとで、いま利用できる手段によってなし得ることを考えるものです。

ここでは、後者の機会主義的な側面に着目します。機会主義的な側面において組織目的の達成に影響を与え得る要因(「機会主義的要因」)は、達成しようとする現在の目的と外的環境条件とからなります。これらが現状において利用し得る手段であり、意思決定を行う上での検討対象になるものです。

客観的領域の分析

機会主義的要因は、その範囲内で行為がなされるべき客観的領域(目的および外的環境条件)に関わるものです。意思決定の過程は、この客観的領域を分析する過程です。

現在の状況の分析は、目的に関してどのような状況が重要であるかを発見する過程でもあります。目的の達成を助け、あるいは妨げるような出来事、対象、条件の発見です。

戦略的要因の理論

分析の対象となる現在の状況は様々な要素からなり、それらが全体として一つの体系を作っています。

この体系の中である目的を達成しようとするとき、体系内の諸要素は、目的の達成に関わるものと関わらないものとに大別することができます。

目的の達成に関わる要素とは、その要素を取り除くか変化させることによって、目的が達成できるようになるものです。このような要素を「制約的要因」と呼びます。

その体系の中に、目的の達成に必要なある要素が欠けている場合、その欠けている要素も制約的要因に含まれます。

目的の達成に関わらない要素は、目的の達成を行おうとする限りにおいて変化を受けない要素とみなされ、「補完的要因」と呼ばれます。目標を達成するために制約的要因に働きかけを行う場合にも、補完的要因は不変であると仮定されます。

その体系の諸要素としては、一般的には物的要素のみを考えますが、バーナードは「行為」も含めて考えます。目的を達成するための努力を考える場合、物的要素よりも行為的要素が決定的(支配的)要因になることがあるからです。

そのような決定的要因となる行為的要素を、特に「戦略的要因」と呼びます。

戦略的要因が特定されると、その戦略的要因に働きかけを行うために、新たな具体的目的が設定されことがほとんどです。その具体的目的に従って、より詳細な戦略的要因の探索が始まることもあります。

例えば、目的を達成するために、ある要素を変化させる必要がある、あるいは、ある要素が欠如しているとみなされたとき、その要素は制約的要因となります。

制約的要因が特定されると、新たに設定される具体的目的は、その制約的要因を変化させるために、あるいは獲得するために、必要な行為を行うことになります。この行為が戦略的要因となります。

その行為を行うために、事前に何らかの準備が必要であったり、更に行為を細分化して実行したりする必要があるかもしれません。そのようにして具体的目的がさらに細分化され、今働きかけを行うべき制約的要因やなすべき戦略的要因が特定されていきます。

制約的要因と補完的要因は、絶えず交代していきます。ある制約的要因に働きかけコントロールされるようになると、補完要因に変わり、別の要素が制約的要因になります。

結局、有効な意思決定とは、可変的な戦略的要因をコントロールすることです。戦略的要因を特定することによって目的が正しく再限定されるので、この目的が達成されるように、正しい時、正しい場所、正しい量、正しい方式で、その戦略的要因をコントロールします。

目的の達成と意思決定

広い目的、あるいは達成に時間を要する目的を成就するためには、新しい戦略的要因を絶えず決定していく反復的意思決定が必要です。

組織では、異なる時に、異なる職位の、異なる管理者およびその他の人々により、段階的、連続的意思決定が行われます。このようにして、広い目的が細部目的に分割され、主要一般的な意思決定が細部補助的意思決定に分割されます。

事の成り行きを決めるのは、一般的意思決定ではなく、一連の戦略的要因とそれに直接関係する行為です。目的は実行可能な条件に細分されなければならず、状況は時を経て展開するにつれて正確に確かめられなければなりません。

分析上の問題

戦略的要因を正確に識別することは、主として技術的な問題です。細部を拡大して検討するための手段を獲得できるかどうかに依存します。例えば、物理科学的分析、統計的分析、財務分析、情報分析などの手段です。

全般管理者が一般目的を定式化したならば、その全般管理者にとっての戦略的要因は、下位層における目的の再設定に必要な戦略的要因を詳細に特定するための分析技術の確保、およびその技術を利用できる人材の確保になります。

分析技術の発達は分野によって大きく異なるため、分析対象となる要素によって、その正確性や客観性はアンバランスにならざるを得ません。主観的な判断しかできない要素もあるでしょう。

分析技術を十分に適用できない分野に関連する意思決定において、バーナードが指摘する問題は、過去の過程と現在までの経緯を現在の一部と見誤ることです。

例えば、ある製品の価格を決定するためには、その製品が今、顧客にとってどの程度の価値があるかを知ることが重要ですが、これを調べることは困難です。

このような場合に、この製品を作るために、あるいは仕入れるために、保管するために、過去にいくらかかったかを考慮しようとします。

しかし、このような過去の情報は、顧客にとっての製品の価値に何の関係もありません。さらに、過去に顧客がどのように価値を評価したかも、現在の顧客にとっては関係がありません。

さらに、現在の環境と過去の環境との混同も加わります。現在ないしごく近い将来になすべき行為の決定に当たって、本来分析の対象となるべきは現在ないしごく近い将来の環境であるはずですが、実際は過去の環境の分析結果がそのまま当てはまると思って意思決定に利用することがあります。

このこと自体、ある程度避けられない戦略的要因になります。特に一般的な意思決定は、その後に続く多くの意思決定が誤ってなされるかもしれないと想定しなければ、正しくなし得ないということを知っておく必要があります。

目的が変更されるか、再限定されなければならないとき、それは将来の結果の予測に基づいて行われなければなりません。

過去の知識を直接現在の事実に適用することはできませんが、現在の目的が現在の事実に与える将来的意義を判断するために、過去の経験を助けにすることはできます。

そのように、目的は、過去と未来をつなぐ現在の架橋の役割を果たします。それは現在の事実に基づいていなければなりません。