エルトン・メイヨーの業績 − 「人間関係論」とは何か?⑬

エルトン・メイヨーによるホーソン実験は、作業能率を左右する上で、時間、賃金、その他の物的作業条件より遥かに重要なものあるという事実を明らかにした点で大きな意義を持っています。

生産の上昇が、仕事や仕事仲間に対する従業員の態度の変化に起因していることを明らかにしました。

メイヨーは、ホーソン実験において、職場内で形成された社会集団(インフォーマルな集団)が、個々の成員の行動、特に作業量に大きな影響を与えていることを発見しましたが、後の調査研究においては、経営側とインフォーマルな集団が協力して生産を向上させる事実も示しました。

産業心理学の反省 − ホーソン実験

最初は、自分たちを機械の一歯車のようにつまらぬものと卑下していた従業員が、実験に参加することによって、重要問題の解決に向かって会社側と協力している集団としての誇りを感じ始めました。

自分たちの置かれている立場とその仕事の目的とを明確に認識することによって、完全な精神的安定を得て、以前に経験したこともないほど敏速かつ賢明に仕事に励みました。

産業は、製品生産という機能とは別に、社会的機能を持つことが明らかになりました。産業研究における基本的な観察単位は、孤立した個々人ではなく第一次集団です。

生産能率に大きな影響を及ぼす要因は、物的作業条件の良否よりは、むしろ心理的動機であることも明らかになりました。

労働者を動かすものは、経済的動機だけではありません。労働者は、職場環境の中で自分の仕事の目的を知り、それを達成することの意義を体感したいと欲しています。

この欲求が満たされないと、欲求不満と強迫観念が鬱積していきます。疲労や単調は、このような欲求不満の原因ではなく、むしろ結果であることが分かっています。

人間感情の意味

メイヨーは、ホーソン実験に先立つ研究においても、注目すべき結果を出しています。

1923年に行われたその研究は、フィラデルフィア近郊の紡績工場において、労働移動(離職)の原因を調べるものでした。その工場の労働移動率は、ほとんどの部門で平均5〜6%に過ぎませんでしたが、紡績部門だけは250%に達していました。

この部門の労働者は、生産量が割当料の75%を超過した場合、月末にボーナスを支給されることになっていました。しかし、70%以上の生産をあげたことはありませんでした。

この部門の特徴は、次の3点でした。

  1. 労働者が自らの仕事を地位の低い仕事として評価していた。
  2. 仕事が単調であった。
  3. 機械の騒音がひどく、各労働者は離れて仕事に就いていたため、仲間同士の意思疎通がほとんどできず、作業には本質的に孤独感が伴っていた。

メイヨーは、まず、この部門の労働者の3分の1について、10分間の休憩を午前と午後に合計4回導入しました。労働者は、この休憩時間に睡眠をとることを勧められました。

その結果、労働移動は減り、生産は上昇し、勤労意欲は向上し、人々は以前より親しげな態度を見せるようになりました。

注目すべきは、休憩時間が与えられなかった残り3分の2の労働者にも同様の影響が出たことでした。

これに対して快く思わなかった現場監督者たちは、休憩時間を無視するようになりました。休憩時間も働けば、もっと生産が上昇すると考えたからです。ところが、生産高は最低レベルになり、欠勤率の上昇とモラールの低下が起こりました。

現場監督者たちは、一定の作業を果たすことを条件に、休憩制を復活させましたが、労働者はこれに反応しようとはしませんでした。

これを見た社長は、メイヨーの助言に従い、休憩時間中は機械を止め、この部門の全労働者に休憩に入るよう命じました。すると、欠勤は再び減少し、モラールは向上し、生産も上昇しました。

実験の最後の段階には、労働者は自分が好む時間に一定の休憩時間をとることを許され、機械は休止することなく運転し続けるようになりましたが、この段階において生産は最高になりました。以来、この部門の労働移動率が5〜6%を上廻ることはなかったといいます。

メイヨーは、後年の著書において、この調査における結論を次のように述べました。

  1. 調査が実施されたという事実自体が、労働者に対し、彼らの問題が決して無視されていなかったという証明を与えた。
  2. 社長が始終従業員の支持を得ていた。ことに、彼が休憩制を廃止しようとした現場監督者たちに反対して労働者に味方した際には、未曾有の支持を得た。
  3. それまで相互に孤立して働いていた労働者の一群が、休憩時間の調整を任されたことを契機として、社会的責任感を持った集団へと変わっていった。
  4. これらのことは、集団の全員による合議の機運、および社長に対する直接的な責任の感情とを生み出すことになった。

メイヨーは、さらに重要な別の指摘をしました。経営者は、労働者と個々の関係を持っているのではなく、労働集団と関係を持っているということです。

作業が行われているどの部門においても、労働者は、独特の習慣、義務、慣例、あるいは儀礼といったものを持つ一個の集団を形成しており、経営者が成功するか否かは、指導者としてその集団から無条件に受け入れられるかどうかによって決まります。

インフォーマルな集団

ホーソン実験においては、職場内で形成された社会集団が、個々の成員の行動、特に作業量に大きな影響を与えていることが発見されました。

労働者は、金銭や仕事自体への興味によって仕事に結びついている度合いが、通常考えられているよりも少ないようでした。むしろ、一定の行動の掟を持った集団や、工場内の社会的ヒエラルキーの中における地位が、労働者にとって、賃金や仕事と同様に重要でした。

このような社会集団は、インフォーマルな集団と呼ばれます。一群の人々が一定期間の接触を保ち続けると、必ずインフォーマルな集団を形成し、自然に指導者を選び出すといいます。そのような集団を分解させようとする試みは不可能であり、賢明でもありません。

ですから、労使の利害をある程度一致させることによって、職場内に形成されているインフォーマルな集団間の相克を避け、共通の目的に向かってこれらを機能させるようにすることが賢明です。

メイヨーは、ホーソン実験よりも後に行った調査研究において、経営側とインフォーマルな集団が協力して生産を向上させる事実を示しました。

インフォーマル集団による生産性向上

1943年に、南カロライナ州のある航空機製作会社から、高い労働移動率(70〜80%)についての研究を要請されました。この時期は、多くの人々が徴兵によって産業界から去り、何万という労働者が、いろいろな地方から仕事を求めてやって来つつありました。

欠勤と高率の労働移動は、インフォーマル集団を作っていなかった労働者たち、あるいは、インフォーマル集団の生活に適応していけなかった労働者たちに、際立って多いことが分かりました。

工場内には、平均を25%以上上廻る生産記録を示す労働者集団がありました。この集団を研究したところ、労働者は集団への忠誠心を持ち、集団員であることに誇りを感じていることが分かりました。

この集団が就業している部門の職長は、非常に多忙であったために職場にほとんど顔を見せることがありませんでした。あらゆる作業は、公式の承認なしに仲間によって自然に選ばれた指導者によって運営されていました。

この指導者は、新しく雇用された者を仲間に紹介し、うまくやっていけそうな人々の側に配置しました。さらに、この部門で作られている部品がどこで完全な製品となるかを知らせるために、流れ作業の最終部に案内しました。

苦情はすべてその指導者によって直ちに処理されました。指導者が処理できない場合は、上長に伝えられました。

このようにして、個々の労働者は、満足感と一体感、公平に取り扱われているという意識を抱くことができました。