マネジメントの役割

組織は社会に存在する機関ですから、社会のニーズを満たして初めて存在が許されます。社会から見たら、個々のニーズを満たすための手段にすぎません。

ですから、組織が最初に問うべきは「何をなすべきか」、すなわち組織の使命、目的、役割を問うことです。

組織の中核機関(頭脳)に当たるのはマネジメントですから、その問いは事実上、マネジメントの役割が何かを問うことにつながります。

マネジメントには3つの役割があると、ドラッカーは言います。

第1の役割:自らの組織に特有の使命を果たすこと

社会のニーズは多様ですが、組織の価値観や強みも様々ですから、それぞれの組織がどのニーズをどのような方法で満たそうとするかは実に無限の可能性が考えられます。よって、組織は特有の使命を持つことになります。

組織に特有の使命を果たすことによって、社会のニーズの一部を満たすことが、最初の役割になります。特有の使命は、特定の財やサービスを提供することによって果たされることが一般的です。

企業と公的機関との違いは、この第1の役割の違いにあります。他の機能に違いはありません。

企業には、経済的な成果をあげる役割があります。つまり、お金を払ってでも満たしたいというニーズ(有効需要)に応えることです。

公的機関の役割は様々ですが、例えば非営利組織は、その特有の分野において人と社会を変えたときに使命を果たしたと言えます。サービスなどを提供する相手から、必要十分な経済的対価を得られない場合が多いため、経済はむしろ制約条件になります。

第2の役割:仕事を通じて働く人たちを生かすこと

今や社会は組織社会であり、財やサービスのほとんどは、個人や家族ではなく、組織によって供給されています。

個人のほとんどは、組織を通じて生計の糧を得、社会に貢献し、自己実現を果たしています。組織を通じて社会的な地位を与られ、コミュニティとの絆を築きます。

人が社会の中で自分の存在価値を見い出し、生かされるのは、組織に所属し、仕事を行うことを通じてなのです。マネジメントは、組織で働く人たちにその機会を用意する必要があります。これもまた、マネジメントが満たすべき社会の重要なニーズです。

第1の段階は、仕事を編成し、仕事自体を生産的なものにすることです。第2の段階は、それらの仕事を人に適応させて、成果をあげさせることです。仕事の論理と人の力学は大きく異なるため、第2の段階ははるかに難しいものとなります。

人はそれぞれ、生理的、心理的な特質、能力、限界、独特の行動様式を持ちます。個性、市民性、仕事の仕方、仕事の量と質に違いがあります。したがって、それぞれに責任、動機づけ、参画、満足、誘引、報奨、リーダーシップ、位置づけ、役割が必要です。

第3の役割:自らが社会に与える影響を処理し、社会の問題に貢献すること

組織は社会の中で活動している以上、社会に対して何らかの影響を与えます。社会のニーズを満たすという本来の役割を果たす過程の副産物として、マイナスの影響を与えることもあります。環境への影響が、その最たるものです。

組織の活動によって与えた影響は、当然のこととして、その組織が対処しなければなりません。

しかし、今やそれだけでは済みません。組織が社会のニーズを満たし得る主要な機関となっている以上、社会は多くの問題の解決を組織に求めるようになりました。組織自身の活動に関係ない問題でさえ、解決を期待されるようになってきました。問題に対処しないことを理由に批判されるようにさえなってきたのです。

それほどまでに、組織に対する社会のニーズは大きくなっています。

かつて、シアーズ・ローバックのマネジメントは「国にとってよいことは、シアーズにとってもよいことにしなければならない」と言いました。社会のリーダー的存在としてのマネジメントの社会的責任は、企業の場合、公共の利益をもって企業の利益にするということです。

第4の次元:時間

マネジメントのあらゆる問題、決定、行動に影響を与える要素として、ドラッカーは「時間」を挙げています。役割とは違うので、「第4の次元」と呼んでいます。

マネジメントは、常に現在と未来、短期と長期の双方の観点で、役割を果たしていくことが求められます。

現在と未来を考えるとき、通常、「現在」とは今すべきこと、「未来」とは将来すべきこと、と考えがちです。そう考える限り、「現在」と「未来」の双方の観点を持ったことにはなりません。未来に時間を割けない理由の一つもそこにあります。

「未来」の観点とは、未来のために「今なすべきこと」を考えるということです。第1の役割に関して言うと、

  • 現在成果を出している事業のために今なすべきこと
  • 未来の事業を育てるために今なすべきこと
    • 潜在的な機会を発見すること
    • 新しい事業を開拓すること

のバランスをとることが、現在と未来の双方の観点で役割を果たすということです。今日の仕事のバランスでもあるということです。

「短期」と「長期」の観点についても、短期間でやること、長期間かけてやること、という意味ではありません。あるいは、短期的な成果を単に累積させるだけで長期的な成果になるわけでもありません。

短期と長期は、今なすべきことの時間的な影響の長さの違いを意味しており、目的やニーズがそもそも違うものです。

長期的な成果は、短期的な目的やニーズと、長期的な目的やニーズとを均衡させることによって得られます。短期的な成果による利益がなければ、長期的な目的やニーズも追求できないからです。

短期と長期のバランスによって、企業が永続的に目指そうとするものは、結局のところ「富の創出能力の最大化」です。そのために、短期的に利益が必要ですし、その利益を将来のために投資していくことが必要です。その具体的な方法が、複数の目標を設定し、そのバランスをとることです。

管理的活動と企業家(起業家)的活動

既存の事業を管理する活動も、マネジメントの役割です。経営資源の生産性を高め、より少ないコストでより大きな算出を生み出すための活動です。いわゆる「改善」であり、「効率」を高めるための活動です。コストに焦点を合わせます。

「企業家(起業家)的活動」とは、要するに「イノベーション」のことです。成果の小さな分野から、成果の大きな分野、成果が増大する分野へと資源を振り替えることです。

管理的活動と企業家(起業家)的活動も、バランスを取る必要があります。第4の次元である「時間」の観点にも関わります。「時間」のバランスを質的に言い換えたものです。

成果のあがる事業であることを前提に、効率が意味を持ちます。成果のあがらない事業を効率化しても意味がありません。「効率」とは仕事の仕方が適切であることです。「成果」とは仕事そのものが適切であることです。

第1に、成果を生むわずかの種類の価値ある活動に集中します。大きな成果をもたらすことのない多くの活動は、止めるか、余分なコストをかけないようにします。

第2に、あらゆる活動について、可能性をフルに発揮する方法を探し続けます。効率の追求です。

第3に、イノベーションです。新たに大きな成果を生み出すために、明日の事業をつくる活動です。ひらめきに頼るのではなく、現在の仕事を分析し、体系的に変化をとらえます。現在の事業とはまったく異なるものとして組織し、育てます。