公式組織とは何か − バーナードの組織論⑤

協働体系は、少なくとも一つの明確な目的のために2人以上の人々が協働することによって成り立ちます。その体系は、物的要素、生物的要素、社会的要素の複合体になっているのが一般的です。

「体系」とは「system」の約語であり、ある目的のためにいくつかの要素が一定の法則に従って組み合わされたものです。

ある一つの協働体系は、ある観点から見ると、明らかにより大きな体系の下位単位ですが、また他の観点から見ると、それ自体の中にいくつかの補助体系含まれています。

先に述べた物的要素、生物的要素、社会的要素なども、それぞれ補助体系としてみなすことができ、物的体系、生物的体系、社会的体系と呼ぶことができます。

協働体系の中の一つの補助体系であり、「2人以上の人々の協働」という活動面に絞って着目した体系を「組織」と呼びます。

ここで、「公式組織」を「2人以上の意識的に調整された活動や諸力の体系」と定義します。

協働体系の最小共通要素としての組織

協働体系について一定の理論を構築しようとする場合、その共通要素を抽出し、研究の対象とすることが有効です。そこから構築された理論は、様々な協働体系に応用することが可能になります。

社会には、きわめて多様な目的や働きを持つ協働体系が存在し、その共通要素を取り出すことは困難であるように見えますが、協働体系を維持するための働き、すなわち管理の機能に着目すると、多くの類似点が見えてきます。

この重要で中核的な共通要素としてバーナードが取り上げるものが「組織」です。ただ、一般に「組織」という場合、人間、地理的条件、施設や設備、専門的業務など、様々な要素の体系です。

したがって、「組織」の本質をとらえるためにも、その共通要素をできる限り絞り込む必要があります。

バーナードは、物的環境や社会的環境および人間を、「組織」の多様性を作っている外的な要因として取り除き、あらゆる協働体系に共通する一側面としての「公式組織」「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系」と定義します。

抽象的体系としての公式組織の諸側面

バーナードが定義する「(公式)組織」は、主として関係に着目しており、非人格的なものですが、説明の都合上、組織を人間の集団と考え、その人間を「構成員」あるいは「メンバー」と呼ぶことができます。

しかし、バーナードが定義する組織は広い意味で用いられるため、「構成員」という言葉は狭くとらえられる可能性があります。そのため、バーナードは、組織を構成する活動を「貢献」に置き換え、「構成員」を「貢献者」に置き換えます。

このような置き換えによって「組織」の意味を決して狭くとらえないように注意します。

活動の場としての組織

いずれにしても「貢献者」は厳密な「組織」の概念には含まれません。物理学における電磁場や重力場のような「場」に相当するのが「組織」です。「組織」という場に人間が置かれたときに、組織力と言うべき諸力が作用し、一定の協働的行為(活動)を生み出します。

組織力の証拠となる行為は、言葉、外見、身振り、動作で示され、便宜的に文書として残されることはあっても、元々は物的なものではありません。物的なものは協働体系の一部になることはあっても、「組織」の概念からは除かれます。

結局、「組織」と名づける体系は、組織力によって生み出される人間活動の体系です。この活動を体系と呼べるのは、様々な人間の努力がそこで調整されるからです。

体系の諸相

「体系(システム)」とは、各部分がそこに含まれる他のすべての部分とある重要な方法で関連を持つがゆえに全体として扱われるべきものです。何が重要かは、特定の目的などの観点から規定される秩序によって決定されます。

体系内のある部分と別の部分との関係にある変化が起こると、全体の関連性から、その体系に変化が起こり、一つの新しい体系となるか、または同じ体系の新しい状態となります。

通常、体系を構成する部分の数が多いと、それらの各部分は補助体系または部分体系を構成します。

各部分体系は、それ自身の内部要素間の諸関係から構成され、その内部要素が変化すれば、全体の体系を著しく変えることなしに、部分体系の新しい状態を作り出す場合があります。

ただし、部分体系の変化がある限界を超えると、全体の体系にも変化が及びます。

以上のような体系内の変化は、組織にも妥当します。

まず、組織は、より大きな協働体系の一構成要素です。他の構成要素には、物的体系、生物的体系、社会的体系などがあります。

大抵の公式組織は、より大きな組織体系の中に含まれる部分体系です。一般的に、最も包括的な公式組織は「国家」であり、通常「社会」と名づけられる非公式な、不確実な、漠然たる、方向の定まっていない体系と重なっています。

全体の体系の中では、部分が重要な方法で関連を持つため、全体は部分の単なる集合ではありません。「組織」も部分の単なる合成物ではなく、一つの社会的創造物、すなわち「生き物」です。

組織の素材は人間の行為ですから、ある程度、物的環境の中に固定化され、物理的な位置を持ちます。しかし、位置はあくまで組織の外部にある物的体系に付随するものですから、組織にとっては間接的なものです。したがって、組織には空間的な広がりの概念を用いることはほとんどできません。

組織の時間的な広がりは重要です。組織は時間的に継続することを前提としているからです。組織は、物的環境や人間とは切り離された体系であるため、それらの変化に関わりなく存続することが前提です。