キュロスのリーダーシップ

ドラッカーは、「リーダーシップについて論じた体系的文献、クセノフォン(彼自身、立派なリーダーだった)の『キュロパイダイア』をしのぐものは現れていない」と言いました(『現代の経営』)。

英訳では『Cyropaedia: The Education of Cyrus』という書名で出版されています。邦訳は松本仁助氏によって2004年に京都大学学術出版会から出版されており、邦題は『キュロスの教育』です。

本書の主人公キュロスは、アケメネス朝ペルシアの開祖に当たる「キュロスⅡ世」であるとされます。アケメネス朝ペルシアは前550年に始まり、エーゲ海沿岸からインダス川流域に及ぶ広大な帝国を築きましたが、マケドニアのアレクサンドロス大王の東征によって前330年に滅ぼされました。

邦訳の解説によると、本書は実話ではなく、先駆的な歴史小説と見なされます。第1巻から第8巻にわたって理想的君主と仰がれたキュロスの生涯について語りながら、クセノフォンが理想とする政治と教育を論じます。ただし、他の歴史小説がそうであるように、すべてがフィクションということではなく、要所は史実によって構成され、心情や会話など史実によっては明らかでない細部に関して作家の創作が加わっていると考えられます。

東に向かってはインド洋を、北に向かっては黒海を、西に向かってはキュプロスとエジプトを、南に向かってはエチオピアを境にした広範囲の王国が、キュロスの意思一つで統治されていたのですから、恐怖による支配だけでそれが実現できたとは到底考えられません。そこには類まれなリーダーシップがあったと考えるべきでしょう。

キュロスは自分の臣下たちを自分の子供たちと同じように大切に面倒を見ており、臣下たちもキュロスを父親のように敬っていたと、本書の最終章でクセノフォンは述べています。そして、同じ最終章で、キュロスの死後はこのような関係が失われていったことも語っています。

本書全体を通してクセノフォンが語ろうとしたキュロスの姿は、いわばリーダーシップの原点と呼ぶに相応しいと思います。その内容を筆者なりに要約するとすれば、次の記事のようになると思います。

キュロスは、少年時代をペルシアとメディア(母の母国)で過ごし、ペルシアで壮年期に至った頃に、大国アッシリアがメディアに戦争を仕掛けたので、援軍の司令官として参戦します。

物語の大半は、アッシリアとの戦争に至るまでの軍の増強、アッシリアとの戦闘と征服の過程です。さらに、その他の国の平定、キュロスの晩年から死、さらには死後の王国の劣化に至る過程を時系列で描きます。