バビュロンの警備 − キュロスのリーダーシップ⑬

キュロスは、アッシリア王を倒し、バビュロンを制圧して、事実上アッシリアを征服しました。巨大なアッシリアを統治しなければならない者となったのです。

キュロスは自分の置かれている状況に気づくと、多くの人々を統治する計画を立て、有名な都市のうちでも最も偉大な都市(バビュロン)に住む準備をしなければなりませんでした。

そのため、自分の身辺を警護する者、王宮の警備をする者、バビュロンを守備する者を順次決めていきます。

今後も領土を拡張するとすれば、兵士たちの鍛錬は何よりも重要でした。

身辺の警護者

バビュロンは、彼にとって人間の考え得るもっとも敵対的な都市であることを考慮し、特に自分の身辺を警護する親衛兵が必要であると考えました。飲食、入浴、睡眠のときが最も無防備なので、そのようなときに自分の周囲に配置すべき最も信頼のおける者は誰かと考えました。

護衛しなければならない者以外に愛する者を持つ人間は、信頼が置けないと判断しました。そこでキュロスが着目したのは宦官でした。

宦官は、自分たちを豊かにしてくれたり、侮辱される場合に助けてくれたり、名誉ある地位につけてくれたりすることができる者たちを最も高く評価すると考えました。宦官たちは他の人間に軽蔑されているため、自分らを守ってくれる主人を必要としていました。

動物も同じですが、去勢され、性的欲望を奪われると、より穏やかになりますが、柔弱になるわけではありませんでした。命令をなおざりにしたり、兵士として役に立たなくなるわけではなく、名誉心や競争心で劣るようになるわけでもありません。

キュロスは、主人が災厄を受け、没落するときに、誰よりも宦官が忠実さを示してきたことを知っていました。そのようなことから、門番など自分の身辺の世話をする者はすべて宦官にしました。

王宮の警備兵

宦官のみで王宮のすべての警備を賄うことはできないため、信頼のおける王宮の警備兵たちをどのように選ぶかを考え、ペルシア兵たちが相応しいと思い至りました。

ペルシア兵たちは、故郷では貧窮のために惨めな人生を送り、土地が荒れているうえに自作農をしなければならないため、苦労の多い生活をしていました。

そこで、キュロスはペルシア兵たちから1万人の槍兵を選び、彼が王宮にいるときは王宮の周囲を日夜警護し、彼が外出するときはその両側に並んで前進するようにしました。

バビュロンの守備兵

バビュロン全体の守備は、自分がそこにいるかいないかにかかわらず、十分なものでなければならないと思ったので、バビュロンにも十分な守備兵たちを配置しました。

守備兵への賃金は、バビュロニア人たちに支払うよう命じました。それは、バビュロニア人たちの資力を徹底的になくし、彼らをできるだけ従順で抑圧しやすいようにするためでした。

兵士の鍛錬

今後も領土を増やしていくことを考えると、現在の兵力では十分でないと考え、兵士たちが剛勇であるための鍛錬をなおざりにしないよう注意すべきと考えました。

ただ、キュロスが命令したからそうするのではなく、剛勇になるための鍛錬をするのが最善だと彼ら自身が理解し、その考えを守って鍛錬に励むようになる必要があると考えました。

キュロスは、貴族たちと主要指揮官を集め、兵士の鍛錬について、次のような話をしました。

自分たちは、現在、多くの肥沃な土地とそれを耕して自分たちを養ってくれる使用人を所有し、さらに家とそこに置く備品を所有している。今後、自分たちが安逸を求めたり、苦労のない生活が幸福だとみなすような劣った人間たちが好む奢侈を求めたりするなら、またたく間に取るに足らぬ人間になり、いち早くすべての財産を奪われるだろう。


勇敢な兵士になっても、勇敢であるための努力を絶えずしていなければ、勇敢であり続けることはできない。


支配権を獲得するよりも、獲得した支配権を保持し続けるほうが遥かに偉大な行為である。支配権の獲得は、大胆でさえあれば達成できることがよくあるが、獲得したものを維持し続けることは、節度と自制と十分な配慮なしには不可能である。


極めて多くの物を所有し、抵抗する人間たちから財産を得たり、奉仕を受けたりしている者の場合は、非常に多くの者が嫉妬し、陰謀を企て、敵対する。


素晴らしい成果を獲得した今は、遥かによく勇敢であるための鍛錬をしなければならない。


支配者は、被支配者よりも優れているがゆえに、支配を要求する。奴隷にも暑さと寒さ、食べ物と飲み物、労苦と睡眠を分け与える必要がある。


しかし、耕作者や貢税者にするつもりの者たちを軍事的知識や訓練に絶対に関わらせてはならない。


自分たちは、軍事的知識や訓練が自由と幸福を得るための手段だと認識して、これらの訓練により優位性を保たなければならない。


自分たちは彼らから武器を奪っているが、自分たち自身は片時も武器を手放してはならない。


立派な成果を手に入れるために前もってする労苦が多いほど、成果は多くの喜びをもたらしてくれる。いかに高価な物であっても、提供されるよりは、それを必要とする者が自ら手に入れるのでなければ喜びにはならない。


よい成果をできるだけよく、また最も快適に享受し、最悪の目に遭わないために、今は勇敢になるように努力しなければならない。よい成果を得られないことの苦しみは、獲得したよい成果を奪われる苦しみほどに辛くはないからである。


自分の家と生活を護る兵士を数多く維持するための準備をすることも大切である。しかし、自分自身を自分の槍で守ろうとせず、他の槍兵たちに守ってもらおうと考えるなら、それは恥ずべきことである。自分自身が立派で勇敢であるのに勝る護衛はない。勇気のない者が成功することはない。


何をすべきであり、どのようにして勇気を鍛え、どこでその鍛錬をすべきかは、何も新しいことはない。貴族としてペルシアの地で行ってきたすべてのことを、この地でも熱心に行わなければならない。自分は皆を観察し、立派で素晴らしい訓練をする者たちを見ると、彼らに名誉を与える。


これから生まれる子どもたちに、自分自身をできるだけ立派な手本として示そうと願うなら、自分たち自身がより優れるだけでなく、子どもたちはたとえ望んでも容易に悪くならず、いかなる恥ずべきことも目にしたり、耳にしたりせず、立派で勇敢な態度で日を過ごすようになるだろう。

部下の姿勢

キュロスの訓示に応えて、クリュサンタスが次のように発言しました。

父親たちは、子供たちのために善事が彼らを見放さないようにと気を配る。優れた支配者は、そのように立派な父親と何の違いもない。


自分たちも配下の者たちの支配を要求するように、自分たち自身も服従しなければならない者たちには服従しよう。


奴隷は自分の意志に反して主人に仕えるが、自分たちは自由であることを求めるが故に、自ら進んで最も価値があると思われることをしなければならない点で、奴隷と異なっていなければならない。


支配者たちに服従する意志をとりわけ強く持つからこそ、敵への屈服を強要されることが少なくなる。


自分たちは利益を同じくし、敵を同じくしているのだから、キュロス自身には役立つが自分たちには役立たないものを見い出すことなどありえない。

以上のクリュサンタスの意見に、多くの指揮官たちが賛同しました。貴族たちは常に宮廷に待機し、キュロスが彼らを許すまでは彼の意図するすべてに役立つよう自分の身を提供することにしました。

威厳としての行軍

キュロスは宮廷を出発するときの壮大さをも重視しました。彼の支配が軽蔑されないようにする工夫の一つでした。出発前に主要指揮官たちを呼び集め、メディアの衣服を分け与えました。

キュロスはメディアの衣服を各指揮官にさらに惜しみなく分け与え、これらの衣服で自分の友人たちを着飾らせるよう命じました。キュロス自身は、部下たちを着飾らせる能力があることを示せるから、自分が身に着けている物にかかわらず、自分自身が立派に着飾っているのと同じであると言いました。

ペルシア軍指揮官のパラウラスがキュロスに代わって命じるとおりに整列するようにと指示しました。ペラウラスは平民出身でしたが、各人が功績に応じて名誉を与えられるべきだとするキュロスの意見に賛同したことで、指揮官に抜擢されたのでした。

キュロスは、彼が賢明で名誉心があり、規律を守り、自分に気に入られることをなおざりにしない者と信じて彼を呼びました。好意を持っている者の目には最も美しく映り、悪意を持っている者の目には最も恐ろしく映るような行進の方法を相談し、意見の一致を見ました。

キュロスは、各指揮官に対して、ペラウラスの指示に従うよう命じていましたが、皆が一層快くペラウラスに従うように、上着を渡し、各隊の指揮官たちに与えるように言いました。

指揮官たちは平民出のペラウラスに指示されることを好ましく思いませんでした。ペラウラスは、自分は指示するために来たのではなく荷物を運んでいるに過ぎないと言って、キュロスから渡された上着を渡したところ、指揮官たちはすっかりペラウラスに対する嫉妬を忘れました。

宮廷からの出発の際は、兵士たちが道路の両側に列をつくって配置されました。宮廷の入口が開くと、最初に神々に捧げられる物が引かれてきました。ペルシア人たちは、他の何事よりも神々について精通している者の意見を聞くのを遥かに必要なことと信じていたからです。