父王の教え − キュロスのリーダーシップ③

キュロス司令官率いるペルシア軍が、アッシリアと戦うメディアに向けて、援軍として出発します。

出発に先立ち、キュロスは、いつものように神々に祈り、出陣すると、神による様々な吉兆が空に示されました。

父王カンビュセスがペルシアの国境まで同行しながら、キュロスにこれまで様々なことを教育してきたことを思い出させながら、司令官(リーダー)としての更なる教育を与えていきます。

他人に頼って騙されないようにすること

神々が示される様々な前兆について入念に教育してきたのは、神々の助言を他の解釈者たちを通じて理解するのではなく、自ら認識できるようにし、他人に騙されないようにするためであった。

逆境のときにはへつらわず、順境のときには奢らないこと

困った時にへつらわず、最もうまくいっている時にとりわけ神々を忘れずにいる者が、人間からと同様に神々からもより多くの成果を得る。友人たちにも同じような配慮を示すこと。

勤勉さや努力において部下を凌ぐこと

勤勉に働き、用心深く生きること。

自分自身が本当に立派で優れたものになり、自分と家族が食糧を十分に所有するように配慮できるだけでなく、他の者たちにもあらゆる必需品を十分に所有させ、人間として生きることができるようにするための全てを心得ること。

支配者は、配下の者たちより苦労のない人生を送ろうなどと考えてはいけない。支配者は前もって工夫し、労を厭わないことにおいて、配下の者たちよりも優れていなければならない。

部下たち以上に過酷な環境や労苦によく耐えること。司令官たる者、自分の行為が部下の目を逃れることはできないと自覚すること。

賢明さにおいて騙しは通じない。努力や工夫を重ねることによってこそ、真に賢明になることができる。人間の学べないことや人間的思慮で予見できないことは、予言の術で神々から知ることによって賢明になることができる。

賢明であるためには、よいと思うことは実行し、必要だと思うことを無視してはならない。

兵士たちへの配慮を怠らないこと

軍隊への食糧供給は重要である。軍隊に食糧がなければ、司令官の指揮権は失われているに等しい。食糧を始めとする必需品に困らないようにし、その調達手段を考案しなければならない。

必需品を十分に所有しているときにこそ、前もって工夫し、困窮したときに備えること。窮乏しているように見えない時こそ、より多くの物を手に入れることができるからである。

司令官が必需品を所有している限り、兵士たちは進んで従う。味方するにも敵対するにも、十分に力があることを最もよく示せる時に、一層説得的な言葉を述べることができる。

軍隊の健康に配慮するため、良い土地を選んで陣営を敷くこと。兵士たちに身体を鍛える自由な時間を与え、肉体を最も優れた状態に維持させること。

兵士たちが司令官にどのような配慮を求めるかをよく知っておくこと。戦闘隊形の組み方、移動の方法、野営や歩哨たちの配置、敵に向かっての前進や退却、個別の隊との戦い方、不意をつかれたときの対処、敵を知る方法、敵に知られない方法など、なすべきことを十分に余裕をもってよく教えておくこと。

誠実であること

兵士たちに熱意を持たせるため、希望を抱かせることは大切である。しかし、期待を抱かせながら、それをしばしば裏切れば、真実の希望を語ったとしても説得できなくなる。

だから、自分が明確に知らないことを言うのは避けなければならない。

部下をよく服従させること

部下をよく服従させる方法は、服従する者を褒め称え、服従しない者を懲らしめることである。進んで服従させることができれば、なおのことよい。

人は、自分より賢明な者を自分に役立つ者とみなし、喜んで服従する。しかし、服従することによって不利益を受けると思ったら、懲罰や贈り物によっても服従しない。

部下に親切であることが、部下に愛される道である。しかし、人にいつでも親切にすることは難しい。むしろ、人の善事を共に喜び、人の災厄を共に悲しんで、彼らの困難を取り除く努力をすることが大事である。部下が害を受けないよう配慮する努力を通じて、彼らの身近にいてやらなければならない。

敵より優位に立つこと

敵より優位に立つ方法は、陰謀を企むこと、本心を明かさないことである。また、狡猾な人間であり、詐欺師、泥棒、盗賊であり、あらゆる点において敵を騙せる者であることである。

例えば、狩猟において、弓で射ること、網と穴で罠にかけることなど、優位な立場を得て戦おうと努めることは、獲物の側から見れば、すべて悪事であり、欺瞞であり、罠であるのと同様である。よって、小動物の狩りに用いる策術は、敵に対しても有効である。

あらかじめ敵の状況や特徴をよく知り、あらかじめ敵が逃げるであろう方向に罠を仕掛け、安心させ、敵には自分たちが見えないところで敵を待ち伏せて観察すること。

友人たちと市民たちには、正しく、法を守る人間であることが必要であるが、敵対者たちには災厄をもたらせるように多くの悪事を学んでおくことが必要である。

ただし、時期に応じて、学ぶべき内容を選ぶ必要がある。少年たちには、友人たちに正しいことをするように教えることを主眼とすべきである。しかし、壮年になれば、敵対者たちを攻撃するのに有効なことを教えても危険はない。

更に、敵より優位に立つ方法は、無秩序な状態にある敵、武装していない敵、寝ている敵を急襲することである。

自分の軍隊が敵に見えず、自分の軍隊には敵が見えているときに攻撃することや、自分の軍隊が堅固な場所にいて、敵が不利な状態にあるときに攻撃することも、優位に立つ方法である。

食事のとき、寝ているとき、ある道を必ず通らなければならないときなど、どのようなときに自分の軍隊が弱体になっているかをよく知れば、敵が同じく弱体になるときを知ることになる。自分の軍隊がそのような状況にあるときはよく防備を固め、敵が最も制圧されやすい状態であるときは何をおいても攻撃すること。

ただし、そのような状態のときは、敵も注意して防備を固めていることが多いため、常にうまく行くとは限らない。より望ましいのは、敵を欺き安心させることによって、無防備な状態にしたうえで攻撃し、追跡に移ると敵を無防備にして逃亡させ、不利な土地に誘い込んで攻撃することである。

このような方法は、かつてうまく行ったものを学ぶことも大事であるが、敵もまた学んでいるから、司令官たる者、敵に対する策術の考案者となるべきである。

遮るもののない平地で、武装した両軍が戦わなければならないときは、早くから準備して優位に立つこと。兵士たちの心身をよく鍛錬し、戦術をよく研究しておくこと。

人は憶測によって間違った行動をとりやすことを心得て、自分自身や軍隊を危険に曝さないように気をつけること。

歴史によく学ぶこと

歴史に学び、次のような失敗を繰り返さないこと。

  • 多くの賢明と思われていた者たちが、国を説得して戦争を始めたものの、相手の国に滅ぼされてしまったこと。
  • 多くの者たちが、多くの個人や国家を偉大にしながら、それら偉大になった個人や国家に最大の災害を被ってきたこと。
  • 多くの者たちが、友人として扱うべき者たちを奴隷として扱おうとしたために、その者たちによって罰せられてきたこと。
  • 多くの者たちがが、自分の運命を楽しく生きることに満足せず、全ての者の支配者であろうと欲したために、自分の所有していたものまで失ったこと。
  • 多くの者たちが、切望する富を手にいれながら、その富のために滅んだこと。

神々を敬うこと

神々は永遠に存在し、過去のことや現在のこと、これらすべてのことから起こることなど、一切のことを知っておられる。

人間たちが神々に意見を求めると、神々は、好意を持っておられる者たちには、しなければならないこと、してはならないことを前もって知らせてくださる。