リーダーシップは本当に身につけられるのか?
「リーダーシップ」には格好いい響きがあります。リーダーシップを身につけたい、発揮したいと思わない人はいないでしょう。
でも、それはとても難しいことで、自分には無理だと思う人も少なくないかもしれません。
リーダーシップについて調べると、いろいろな理論が出てきます。いろんな人がいろんなことを言っていて、よく分からないし、難しそうだし、コーチングだのファシリテーションだの、いろんなことを修得しないといけないみたいだし・・・。
あれこれ考えて、結局、自分には無理だと思ってしまうのではないでしょうか。
優れたリーダーシップを発揮している人と言えば、どんな人を思い浮かべるでしょうか?
経営者でいうと、ソフトバンクの孫さん、ZOZOの前澤さん、楽天の三木谷さん・・・、スポーツや政治の世界でもいろんな人がいると思います。彼らが類稀なリーダーシップを発揮していることは間違いないでしょう。人並み以上の努力もされたでしょうが、優れた資質に恵まれていたとも言えるでしょう。
そんなレベルのリーダーシップを身につけたいと希望される方には、筆者のような凡人がお伝えできることは何もありません。「幸運を祈ります」と申し上げるだけです。
でも、多くの方は、現在経営している小さな会社で、現在勤めている会社で、あるいはこれから小さく起業を始めて、よりよいリーダーシップを発揮したいと希望される方ではないでしょうか。
世の中には、さまざまなリーダーシップ理論が存在しています。成功した経営者などのリーダーシップ論もあります。体験に裏打ちされた臨場感があって、ワクワクするものも多いでしょう。
でも、ほとんどの場合、そのまま使えません。「その人のやり方であって、その人だからうまく行った」と言えなくもありません。読んで面白くても、自分が実践するのは簡単ではありません。
そう思える方には、是非、ドラッカーのリーダーシップ論を学んでいただきたいと思います。
ドラッカーは行動を重視します。拍子抜けするほど当たり前のことを言っているとさえ感じる人もいるようです。だから、やっても意味がないという結論に至ってしまう人も多そうです。
ドラッカーは、リーダーシップに必要な資質は基本的にないと言います。先に挙げた類稀なリーダーがもつようなカリスマ性など要求しません。
組織において求められるリーダーシップとは、職務上の役割です。リーダーシップを成り立たせるのは優れた資質ではなく、体系的に組み立てられた仕事です。
体系的な仕事を着実にこなすことが、リーダーに求められる役割です。ですから、一人前の能力を有し、努力を惜しまなければ、一定レベルのリーダーシップを発揮することは可能です。
唯一の前提条件をあげるとすれば、役割を着実に果たす責任を引き受け、メンバーの信頼を得る努力を惜しまない精神、すなわち「真摯さ(まじめさ、誠実さ、ひたむきさ)」です。
ですから、「これさえあればリーダーになれる」といったような魔法の薬を期待している人には、残念ながら不向きです。そのような方には、同じく「幸運を祈ります」と申し上げるだけです。
「リーダーシップ」とは何か
「リーダーシップ(leadership)」を辞書で調べると、「指導権、指導力、統率力、指導者の地位、指導者の集合体」などという意味が出てきます。「指導」や「統率」とは何を意味し、どうすれば指導や統率ができるのかが問題です。
一方、「リーダー(leader)」とは「リード(lead)」する人のことです。「lead」を辞書で調べると、「導く、案内する、連れていく」などの意味があります。行くべきところがあり、そこに誰かを一緒に連れていくことです。
連れていく人が「リーダー」ですから、リーダーがリーダーである意味は、つき従う人がいるということです。これが「リーダー」の本質的な定義です。
ですから、「リーダーシップ」とは、「人に一緒について行きたいと思わせる力」であり、実際に「行くべきところに連れていく力」です。
だからといって、強い力で引っ張っていくような人だけがリーダーではありません。行くべきところを示し、そこに自ら一緒に行きたいと思ってもらうことが前提であり、自らの足で進んで行く人をサポートするのがリーダーです。
リーダーは超能力者ではない
- アイデアが豊富で、どんどん素晴らしい製品やサービスを新たに生み出し、次々と顧客を感動させる
- 卓越した説得力をもって、どんどん味方をつくっていく
- ライバルの動向を見事に予測し、出し抜き、時に蹴散らしていく
- 部下たるメンバーを魅了し、メンバーの気持ちが手に取るように分かり、リーダーの下に強力に結束している
伝説になりそうなリーダー、映画にでも出てきそうなリーダーです。誰もが憧れるスーパーヒーローであり、超人的・カリスマ的なリーダーです。
このようなリーダーがいないとは言いませんし、あなたがこのようなリーダーになれないと断言する根拠もありません。
しかし、筆者は、このようなリーダーになる方法を知りません。少なくとも筆者は、100%そのようなリーダーにはなれないと確信します。
そもそも、私たちが目指すべきリーダーは超能力者ではありません。
リーダーは予知能力をもって無から優れたアイデアを生み出し、顧客を驚かすのではありません。顧客の声を聞き、顧客の行動を観察し、経済や社会の動向を調べ、顧客のニーズを知ろうとします。間違ったと思ったら、すぐに軌道修正します。
ライバルの動向を遠隔透視しているのではありません。現場に出てライバルの動向を調べています。自社の顧客になっていない人の声を聞こうとします。流通チャネルの人の声を聞き、自社とライバルの違いを知ろうとします。
人の心を操って味方をつくっていくのではありません。様々な利害関係者をも顧客ととらえ、ニーズを調べ、そのニーズに応えるために何ができるかを考えます。
部下の心を読んでいるわけでもありません。部下の仕事ぶりを見て、部下の意見やニーズを聞き、何が強みで何が弱みかを知り、どのような形で強みを生かして組織の成果に貢献できるかを話し合います。部下が貢献できるよう自分に何ができるか、部下の貢献の妨げになるようなことを何かしていないかを率直に聞きます。
私たちが目指すことのできるリーダーシップとは、アイデアや予知能力や透視能力や読心力ではなく、率直に耳を傾け、ニーズを理解し、それに応えるべく行動することです。
何かの力が求められるとすれば、なすべきことを面倒くさがらず、嫌がらず、端折らず、ひたむきに行動する力です。失敗したら素直に認め、直ちに軌道修正する力です。すなわち、ドラッカーの言う「真摯さ」です。(参考:「『真摯さ』とは何か?」)
素直に耳を傾け、ニーズを理解し、それにこたえるべく行動する姿勢と習慣は、とりもなおさず、自分を離れた視点、相手の立場に立つという視点を育てます。
逆説的ですが、そのような視点が、リーダーの勘や直観力を磨き、優れた先見力とでも言うべき能力を養うことになっていきます。
リーダーの仕事
組織やチームの目的や使命を明らかにすることによって、行くべき方向を最初にはっきりと示さなければなりません。
次に、そこに行くための道順と方法を明らかにしなければなりません。目標と計画の設定です。必要な道具も用意します。
メンバーは、強みを生かせる仕事に配置しなければなりません。
進み始めたら、確かに予定どおり進んでいるかどうかをチェックしなければなりません。成果をフィードバックし、評価し、改善することです。
メンバーに不足している能力や知識があれば、学習や訓練の機会を与えなければなりません。
リーダーはメンバーをマネジメントしなければなりませんが、指揮命令や監視などによって直接的に管理するのではありません。
リーダーは導き、案内し、連れていく者です。メンバーの主体的な仕事を方向づけ、サポートしながら、導くものでなければなりません。それが、目標や計画、配置、学習と訓練による間接的なマネジメントです。
組織の目的や使命を明らかにする
「リーダーシップ」とは「人に一緒について行きたいと思わせる力」であると言いました。自らついて行きたいと思ってもらわなければ導くことはできません。強引に引っ張っていくようなリーダーには、普通はなれません。
そのためには、
- どこに行こうとしているのか
- どのように行こうとしているのか
- どんな人たちと行こうとしているのか
- そこに行ったらどうなるのか
を示すことができなければなりません。つまり、目的や使命、価値観、ビジョンに当たるものです。
これは、卓越した説得力や表現力、誌的センスなどを要求しているのではありません。自分自身が本当にやりたいと思っている気持ちを、率直に、具体的に、熱意をもって伝えることです。
あなたがもし、組織の中間管理職的な立場にいたら、自分勝手に決められない立場かもしれません。でも、その組織で仕事をしているということは、組織の目的や価値観、ビジョンなどに共感できるところがあるはずです。その気持ちを率直に伝えることです。
もし、全く熱意をもって伝えられないとしたら、おそらく、あなた自身が今いる組織の目的などに共感できていないということでしょう。そのような方が組織のリーダーになりたいと思っているなら、部下を丸め込む技術が必要かもしれません。残念ですが、筆者にそのような技術をお伝えする能力はありません。
熱意をもって伝えたとしても、共感してくれないメンバーがいるかもしれません。熱意によっても全く動かされないとしたら、そのメンバーは、残念ながら、全く違う価値観をもっている人であると言わざるを得ません。本来、その組織にいるべき人ではないかもしれません。
どんな人でもメンバーにできるわけではありません。組織の目的などに共感できるということが大前提です。ですから、入り口でのふるい分けというのは、きわめて重要です。
従業員満足が高く、優れた業績をあげている企業は、例外なく、募集・採用に多大な労力と時間をかけているという事実を受け入れなければなりません。自社に相応しい社員の条件がはっきりしており、その条件に合っているかどうかをじっくりと見極めています。
募集・採用をおろそかにして、リーダーシップを発揮できないと言うのは間違っています。相応しくないメンバーを導くのは不可能です。
目標と計画を設定する
リーダーとして、自分のチームの目標と計画を設定しなければなりません。組織の中間的な階層に位置するリーダーであれば、上位目標と計画から導き出される目標と計画でなければなりません。
できるだけメンバーにも意見を求め、議論すべきです。最終的な決定権はリーダーにあります。
ちなみに、計画とは目標達成の責任者と達成期限を明確にしたものです。目標達成のための行動の細目(行動計画)まで決めることもありますが、上位レベルの目標であまり細かく決めすぎると、下位レベルでの裁量の余地がなくなってしまうので望ましくありません。
メンバー各自も、自らの目標と計画を設定したうえで、リーダーと調整しなければなりません。メンバーの目標と計画は、チームの目標と計画から導き出されるもの、チームの目標と計画に貢献できるものでなければなりません。
さらに、計画の実行に必要な道具も用意しなければなりません。
強みを生かせる仕事に配置する
弱みに着目し、弱みが弊害を生まないようにするための配置をするのは、無難な妥協の配置であり、人が動機づけられることはありません。
人は強みの発揮によって動機づけられ、成果をあげますから、強みを生かせる仕事に配置しなければなりません。
このように言うと、強みを生かせる仕事などそうそうなく、皆をそのような仕事に配置することはできないという答えが返ってくることがあります。
大前提として、募集・採用の段階で、自社に相応しい人材を採用したのかどうかという問題がありますが、そこはとりあえず置いておきます。
一つ考えられることは、仕事や職務の設定の問題です。職務とは、仕事を一人ひとりが担当できるレベルにまとめ、割り当てるものです。
仕事は、属人を離れて、できるだけ客観的・生産的に組み立てなければなりませんが、裁量の余地がないほどに、個別具体的な作業レベルにまで限定しすぎるのは問題です。
まったく初めての仕事として配置される人を前提とすれば、標準的な作業マニュアルは必要であり、まずはそれをマスターさせるべきですが、その人の強みに合わせたバリエーションを許容するものでなければなりません。
強みというのは、人の資質に関わる場合が多く、特定の専門分野というよりは、作業のやり方、ペース、順序、組み合わせ方、道具の種類や使い方などに関わることも多いと言えます。
ですから、職務を定める場合、細かい作業レベルではなく、期待する成果を規定する形で決めることを重視する方がよいと考えます。そうすることによって、幅広い強みを許容しやすくなります。手段や方法は、その人の強みに応じて工夫させやすくなります。
ただし、ブルーカラー的な仕事にはあまり適用できないでしょう。
成果のフィードバック
計画の中には、フィードバックの仕組みも盛り込んでおかなければなりません。
常時モニタリングが可能な仕組みがあれば、それに越したことはありませんが、そうでなければ、いつ、どのような方法で成果を把握するのかをあらかじめ決めておく必要があります。
フィードバックは、計画の実行を評価し、改善するために行うものですから、担当者本人へのフィードバックであり、本人による評価、改善でなければなりません。
それをせず、リーダーがフィードバックされた情報を独占し、人事評価として利用することがありますが、大きな間違いです。これは「リード」(導く)ではありません。監視であり、支配です。
ただし、リーダーは、計画の実行中に放っておけばよいということではありません。実行と改善は、本人に主体的に行わせなければなりませんが、リーダーは、定期的に報告を受けたり、相談を受けたりすることは必要です。本人の判断と方針に対して、アドバイスや支援を与える姿勢が重要です。
学習と訓練
高い目標を掲げ、自主的な改善を求めていくと、必ず、自分が得意とするところ、足らざるところが明らかとなり、学習意欲も生まれます。
メンバー自ら、何を学び、訓練すべきかを自覚し、その機会を求めるものでなければなりません。リーダーは、それらを明らかにすることをサポートする必要があります。
単なる趣味的な学習や、将来のためといった漠然としたニーズではなく、明確な組織の目的や目標、仕事の成果に必要なものとしての学習や訓練でなければ効果はありません。
責任と信頼
リーダーシップとは、人を導くための具体的な仕事ですが、つき従う人がいなければ成り立ちません。
人がつき従うためには、組織の目的や使命が入り口として重要ですが、リーダー自身にも、つき従うことを良しとするだけのものがなければなりません。
ドラッカーによれば、それは「責任」と「信頼」です。
リーダーシップは仕事であるがゆえに、責任が伴います。目標を達成し、目的を果たす責任です。
部下に仕事を行わせるということは、部下の失敗によって目標を達成できなければ、すべてリーダーの責任となることを受け入れなければなりません。失敗を部下のせいにすることはできません。その部下に任せたリーダーの責任です。
また、人が主体的につき従うのは、権力や強制によってではなく、信頼によってです。
ドラッカーによれば、信頼とは、好きになることや同意することとは違うと言います。リーダーが決して失敗したり、間違ったりしないということでもありません。
リーダーが「真摯」であるということです。公言する信念と行動が一致し、嘘がないことです。常に真意を語り、行動と一致していることを部下が確信できることです。間違ったり失敗したときは、素直に認め、速やかに軌道修正できることです。