リーダーシップ

リーダーシップ(leadership)とは、指導権、指導力、統率力、指導者の地位、指導者の集合体などを意味します。

ドラッカーが終始主張してきたことは、リーダーシップは人の資質と関係がなく、カリスマ性とはさらに関係がないということです。

リーダーシップの本質は、なすべきことをなすこと、すなわち「行動」です。リーダーシップは手段に過ぎず、目的に奉仕するものです。

リーダーシップはカリスマ性ではない

リーダーシップを問題にする際、必ずと言ってよいほど相応しい資質が問われます。優れた資質が強調され、列挙されます。

それらを兼ね備えた人材は、結局のところ、超人的で非日常的な資質や能力をもった人材とならざるを得ません。要するに「カリスマ性」を意味します。

カリスマの危険性は、自らを特別とし、偉しとすることです。人々には盲信や思考停止が起こり、責任が放棄されがちです。

ドラッカーによれば、リーダー的な資質や特性は存在しないと言います。歴史上の傑出したリーダーの中に、共通の資質や特性が見出されないからです。共通していることは、何かをなすべきときに、なすべきことをなしたということです。

要するに、リーダーシップとは、仕事であり、責任です。さらに、部下を導き、なすべき仕事をなさしめるためには、信頼を獲得することも不可欠です。

いずれもはるか昔から明らかになっている当たり前のことです。当たり前のことを当たり前に行うことが必要なことであり、資質は関係ありません。

ただし、絶対的に前提とされるものは、当たり前のことを当たり前に行うことを保証するもの、すなわち「真摯さ」です。

リーダーシップとは何か

ドラッカーは、リーダーシップに3つの視点を与えます。

仕事としてのリーダーシップ

組織におけるリーダーシップは、なすべき仕事を明らかにし、メンバーに割り当て、実行を動機づけることです。その際に必要な役割として、ドラッカーは次のことを指摘しています。

  • 人のビジョンを高めること
  • 成果の水準を高めること
  • 通常の限界を超えて人格を高めること

これらは権力や強制によってできることではありません。優れたビジョンを創造し、提示することによって、人間の高いエネルギーを創造することが求められます。

ゆえに、効果的なリーダーシップの基礎は、まず、組織の使命を考え抜き、明確に定義し、確立することです。次いで、目標を設定し、優先順位を決め、基準を定め、それを維持することです。

カリスマとは無縁のリーダーは、人を支配することはできませんから、仕事の遂行において妥協せざるを得ないことも少なくありません。ただし、妥協が妥協であるためには、まず、何が正しく望ましいかを明らかにしておくことが前提です。

それを示すものが、使命であり、目標です。妥協が必要な場合であっても、使命や目標に沿っているか否かが基本的な判断基準になります。許される妥協か、許されない妥協かを決める基準です。

責任としてのリーダーシップ

リーダーシップは仕事であるがゆえに、責任が伴います。目標を達成し、目的を果たす責任です。

部下に仕事を行わせるということは、決して特権的地位や権力を意味するわけではありません。部下の失敗によって目標を達成できなければ、すべてリーダーの責任となるからです。

失敗を部下のせいにすることはできません。その部下に任せたリーダーの責任です。他人の仕事の結果についても責任を負うという、厳しい責任を引き受けることがリーダーシップの役割でもあります。

部下の失敗を自らの責任にできるリーダーは、優秀な部下を恐れることはありません。リーダーシップを責任ある仕事ととらえ、目標を達成するための役割と認識する者は、優れた部下の仕事ぶりを歓迎し、部下の成功を自らの成功ととらえることができます。成功を横取りするのではなく、共有できるということです。

一方、カリスマ的なリーダーによくあることは、優れた部下を恐れ、追放しようとすることです。自らの特権的地位を脅かされないようにするためです。

信頼の獲得としてのリーダーシップ

リーダーとは導く者ですが、前提として、つき従う者がいなければなりません。権力や強制によってつき従うのではなく、信頼によってつき従うのでなければなりません。

ドラッカーによれば、信頼とは、好きになることや同意することとは違うと言います。リーダーが真摯であるということです。公言する信念と行動が一致し、嘘がないことです。常に真意を語り、行動と一致していることを部下が確信できることです。

リーダーをつくることはできない

リーダーシップは、昇進によって地位や権限を与えることで可能になるわけではありません。知識として教えたり、学び取ったりすることもできないと、ドラッカーは言います。

歴史上、傑出したリーダーは存在しますが、非常に稀であり、いつ現れるかを知ることはできません。そのような者を外部から採用できると期待することもほとんどできません。

組織としてできること、やらなければならないことは、リーダーシップを発揮しやすい環境をつくることです。環境とは、日常の仕事のことです。日常の仕事の中に、リーダーシップの基盤となるべきものを用意することで、望ましいリーダーシップを発現させ、確認し、機能させることができるようになると、ドラッカーは言います。

ドラッカーが指摘するリーダーシップの基盤とは、次のものです。

  • 行動と責任についての厳格な原則
  • 成果についての高度の基準
  • 個としての人と仕事に対する敬意

これらを日常の仕事の実践の中で確認していくことです。日々の仕事に取り組むことが、人に「成果」を問い続け、人を「成果」に方向づけることにつながるような状態です。

組織がこのような状態にあることが、「成果中心の精神」が根づいていることを意味します。平凡を非凡な成果に結びつけるために必要な組織の精神です。

どうしたらそうなるのかが問題ではありません。経営者をはじめとするマネジメント自らが、そのような姿勢で仕事に取り組み、模範を示す覚悟があるかが問題です。