強みを生かし、弱みを意味のないものにするにはどうすればよいか?

組織をつくる意義は、投入した資源の総和よりも大きなものを生み出す生産体を創造することです。

個々人がバラバラに活動して得られるものの総和よりも、その個々人が集まって組織をつくり活動することによって得られるものの方が大きくなるということです。

ただし、個々人がただ集まればそうなるというわけではありません。そうなるようにするための方向づけが必要です。

それが、人の強みを生かし、弱みを意味のないものにすることです。

一人ひとりの人間は、強みがあれば、弱みもあります。強みの卓越性が大きいほど、弱みもまた大きいのが人の常です。

近年、知識労働者が就業者の大半を占めています。彼らは、学校教育等によって学んだ知識を使って仕事をしますが、その知識は比較的狭く、断片的であることが多いため、組織に参加して、多くの人たちの強みと結合されて初めて、全体として成果をあげることができます。

「強みを生かす」とは

「強みを生かす」とは、要するに、多くの人たちの強みを体系的に統合することを意味します。統合された強みの総体が、全体として大きな機能を果たすわけです。

(参考:「『体系』、『体系的』とは何か?」

それを可能とするためには、

  1. 組織の目的や価値観が明確であること
  2. 目的や価値観に共感し、貢献する意思をもったメンバーが組織に参加していること
  3. メンバー相互のコミュニケーションが緊密に行われること

動機づける

強みを生かすには、動機づけが必要です。人はお金だけで動機づけられることはありません。動機づけに貢献するのが、明確にされた組織の目的や価値観に共感できることです。

目的や価値観に共感できない人は、その組織のなかで動機づけられることはなく、強みを発揮することもできません。

コミュニケーション

目的や価値観によって動機づけられたメンバーが、コミュニケーションを図ることによって互いの強みを組み合わせ、組織全体としての成果をつくっていきます。

コミュニケーションは、分割された情報や仕事の円滑な流れをつくり、全体として大きな仕事の体系として統合されていく仕組みでなければなりません。

その仕組みを目に見えるような形にしたものが、組織構造、職務分掌、業務マニュアルなどです。

「弱みを意味のないものにする」とは

強みを生かすためには、コミュニケーションが不可欠です。コミュニケーションに支障が生じると、互いの強みを生かすことができず、強みが統合できなくなります。

コミュニケーションに支障が生じる原因の一つが、各人の弱みです。弱みが強みの発揮を妨げてしまうわけです。ですから、弱みを意味のないものにしなければなりません。

強みや弱みは、その人の資質や性格に関わることも多いため、弱みを強みに変えることはきわめて困難です。しかし、強みの発揮を妨げないようにすることは可能です。

自分の弱みを認識する

必要なことの第一は、自分の弱みを認識することです。

当たり前のようですが、際立って卓越した強みをもち、大きな成功をあげてきた人ほど、自分の弱みを認めることが困難な場合があります。

典型的な例をあげると、たたき上げの経営者によくあります。

例えば、新規営業が得意で、飛び込み営業などで新規顧客をどんどん獲得し、業績をあげてきたような経営者がいます。

そのような営業が得意な人の中には、既存顧客との長期的な関係を深めて、浅く長く受注を獲得していくような、まどろっこしいやり方が苦手な人も多いです。

経営者の強みは新規営業、弱みは既存顧客との関係構築ということになります。

一方、新規の飛び込み営業は苦手でも、既存顧客との関係を着実に築いていくことが得意な人もいます。その人の強みは既存顧客との関係構築、弱みは新規営業です。

ところが、その経営者は新規営業で成功してきたため、自分のやり方のみが正しい営業方法であって、それ以外の方法を認めないということがあります。ですから、自分の弱みを認めることができません。

自分の弱みが認められないので、既存顧客との関係構築が得意な人に対して、その点を強みと認めることができません。それどころか、その強みを弱みと見てしまうことさえあります。

もしその人が部下であれば、徹底して新規営業をさせて鍛えようとするでしょう。その部下は、新規営業が弱みですから、それを強みに変えることは困難です。おそらくは、やる気をなくし、自分の本来の強みさえ認めることができなくなり、営業を諦めることになるでしょう。

これは、社長の弱みが部下の強みの発揮を妨げる例です。本来であれば、互いの強みを統合して、役割分担によって強力な営業体制をつくれるはずが、それを台無しにしているわけです。

専門分化も危険です。現代は、様々な分野で専門が細分化され、細分化された狭い分野のみに多くの人は従事しています。専門性は高まりますが、専門分野間の断絶は大きくなります。

もとより、人間によって構成される社会は、様々な要素が複雑に絡み合って成り立っています。それを、人間の都合で、様々な専門分野に分けて探求しているわけです。

ところが、自分の専門分野に深く携わるほど、それ以外のものへの理解がおろそかになります。その結果、自らの専門分野のみが至上の価値をもつものだと思い込み、自分の知らない他の分野について、価値がないという発想に陥ることがあります。

この記事を執筆している現在、新型コロナウィルス感染症による緊急事態宣言が出されています。

人の接触を8割減らすことによって感染を防ぐという感染症の専門家の意見によって政府は行動しており、仕事も学校も余暇も活動の自粛が求められています。

国民の中には「自粛ポリス」と呼ばれる密告屋がはびこり、マスコミはゲシュタポと化してリンチを加えています。

企業は危機的な状態に陥っていますが、感染症の専門家は、「経済よりも人の命が大事である」と言います。

彼らは、経済がどれほど人の命を救ってきたかを知りません。経済的な困窮が、人を死に追いやることも理解していません。大企業が次々と倒産し、大量の失業者が出て、自殺が多発しても、彼らが責任を感じることはないでしょう。

また、自粛で大人だけでなく子供を自宅に軟禁することが、精神衛生にどのような悪影響を与えるのかも知りません。

人間社会には様々な要素が働いて成り立っています。感染症の蔓延を防ぐことが課題であったとしても、様々な専門家が集まって、短期と長期の影響を考慮しながら意見を出し合い、互いに自らの専門分野の限界を知って他の専門分野の意見を尊重し、補い合わなければ、本当の解決には至れません。

自らの弱みを認識できることで、自分の弱みの部分を強みとしてもっている他の人のことを認めることができるようになります。そこから、仕事の役割分担が可能になります。

他の人の強みを理解する

次に必要なことは、他の人の強みを理解できることです。これも当たり前のようで、うまく行っていないことが多いです。

自分の弱みを補ってくれる強みをもった人を理解できないことは、非常に多いです。自分にとっては弱みであるため、よく知らないことが多いからです。

その分野の専門用語が分からないということも意外に多く、コミュニケーションが成り立っているようで成り立っていないのです。意味が分からないことによる専門分野間のコミュニケーション障害は稀ではありません。

ですから、他の人の強みが理解でき、コミュニケーションに支障がない程度には、最低限知識を得ておく必要があります。その分野が自分の弱みであれば、その程度の弱みの補強は必要であるということです。

それが、弱みを意味のないものにし、強みの発揮を妨げないということです。

強みを生かし、弱みを意味のないものにする方法

各自の強みを統合し、弱みが妨げにならないようにして、最大の成果を発揮するためには、お互いが各自の強みと弱みを知っていることが重要です。

  • 自分の強みと弱みは何か
  • 自分が仕事で強みを発揮し、弱みが妨げにならないようにするために、誰にどのようなサポートをしてもらう必要があるか
  • 他の人が仕事で強みを発揮し、弱みが妨げにならないようにするために、自分はどのようなサポートができるか

これらのことについて、互いに聞き合い、教え合わなければなりません。

その前提としては、次のようなことが必要です。

  • 仕事が客観的かつ生産的に設計されていること
  • 仕事において高い目標と基準を設定し、仕事を通じて強みと弱みが明らかとなるようにすること
  • 人事評価においては、強みと弱みを明らかにするとともに、強みを強化し、弱みを意味のないものにするために身につけるべきことを明らかにすること
  • 強みを最大限に生かせる人事配置を行うこと

(参考:強みによる人事人の強みを生かす

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