人の強みを生かす

組織の機能は強みを生かすことです。

強みだけをもつ人はいません。大抵の人は一つの重要な分野で卓越性をもつのみで、その卓越性が大きいほど弱みもまた大きいものです。

強みで事業を築き、弱みを意味のないものにするために多くの人が集まり、組織をつくります。

人の強みを生かすことも習慣的な能力の一つです。多くの人は、真っ先に「できないこと」を考え、「人の弱み」を問題にする習慣が身についているからです。

ですから、「何ができるか」を真っ先に考える習慣をつける必要があります。自分についても、上司や部下に対しても、常にまず「何ができるか」を問う習慣が、人の強みを発見し、生かす能力を高めます。

自分の強みを生かす

ドラッカーによると、多くの人は、上司がさせてくれないことや企業の方針によってできないことについて気にしすぎると言います。自分の時間と強みを無駄にする考え方です。

成果をあげる人は、制約条件は気にしつつも、してよいことを次から次に行うと言います。

自分についても、仕事の環境についても、最初に「できないこと」を考える習慣を改め、「何ができるか」を最初に考える習慣をもたなければなりません。

自分自身であろうとすること

自分の仕事ぶりと成果を見て、自分のパターンを知る必要があります。他の人のようになろうとするのではなく、あくまで自分自身であろうとすることが大切です。

他の人には難しいけれども、自分には簡単にできることは何かを考えます。自分は当たり前にやっていることですから、強みであると気づくことは難しいですが、他の人との比較において意識的に探す努力をします。端的に他の人に聞くことも必要です。

自分の好きなこと、得意なこと、経験が豊富なことは、強みである可能性が高いと言えます。

知識やスキルが強みであるとは限らない

単なる知識やスキルが強みであるとは限りません。誰もが身につけられる程度のものであれば、強みにはなりません。

強い動機や興味にもとづいて苦もなく努力し続けて身につけているものであれば、強みになる可能性は十分にあります。

仕事の仕方や気質も強みに関わる

強みを生かすことは、仕事の仕方においても重要です。特定の仕事の仕方で能力が発揮しやすいということがあれば、それは強みを生かす方法であると言えますので、積極的に採用すべきです。

仕事の仕方は、その人の気質(性格や慣習など)とも関わります。ドラッカーは、次のような例をあげています。

  • 朝と夜のどちらが仕事をしやすいか
  • 大まかに下書きをしてから書き始めるのと、じっくり完璧な文章を一つひとつ書くのと、どちらが良い文章が書けるか
  • 原稿を用意した場合、完結なメモだけの場合、まったく何もなしの場合で、いずれが良いスピーチができるか
  • チームの一員であるのと、一人でやるのとでは、どちらが良い仕事ができるか
  • 仕事の前には十分な筋書を考え、入念な準備をした方が良い仕事ができるか
  • 期限が迫っているなどプレッシャーがあるのと、十分な余裕があるのとでは、どちらが良く仕事ができるか
  • 読むのと、聞くのとでは、どちらが良く理解できるか

上司の強みを生かす

組織は社会にとって必要な機能を果すために存在しています。組織の成果は組織の外(顧客や利用者の価値や満足)にあり、組織全体として機能を果たして成果をあげます。

組織全体の成果は組織の目的や使命を規定しており、目的や使命はトップマネジメントにおいて決定され、組織階層の上位から下位に向かって具体化、細分化されていきます。つまり、メンバー一人ひとりの成果は所属部門の成果に貢献することであり、部門の成果は組織全体の成果に貢献することです。

要するに、メンバー一人ひとりにとっては、上司に認められ、活用されることによって初めて、自らの貢献に焦点を合わせることができることになります。ですから、上司が必要としていること、上司に対して自分がなすべきことから考え、それを上司に分かる形で提案しなければなりません。

上司もまた、上位部門の成果に貢献することが求められています。上司の強みを強調し、上司が得意なことを行えるようにすることによってのみ、部下も成果をあげられるようになるということです。

  • 上司は何がよくできるか
  • 何をよくやったか
  • 上司の強みを生かすためには何を知らなければならないか
    • 上司に特有の仕事の仕方、成果のあげ方はどのようなものか
    • 上司は読む人か、聞く人か
    • 結論を簡潔に知りたがるか、経過も詳しく知りたがるか
    • どのような側面を重視するか(論理か、経済か、政治か)
    • 何を提示するかだけでなく、どのように、どのような順番で提示すると理解してもらいやすいか
  • 成果をあげるためには、部下の私から何を得なければならないか

部下が上司を助けようとしていることを知るからこそ、上司も部下の言うことに耳を傾け、部下を助けたいと考えるようになります。

部下の強みを生かす

自ら部下をもつ身であれば、自らの仕事とともに部下の仕事を組織して、部門としての成果をあげること、すなわち上位部門の成果に貢献することが必要です。

部下の仕事を組織して成果をあげるには、いわゆる人事が重要になります。内容は、仕事そのものを適切に設計すること、その仕事に対して相応しい人材を配置することです。

仕事の設計に当たっては、人に合わせて仕事を設計するのではなく、客観的に設計します。また、優れた人がやりがいを感じられるほどに大きく設計します。能力を存分に発揮できるだけでなく、仕事を通じて成長できるようにします。

相応しい人材を配置するに当たっては、強みに焦点を合わせます。その人がもっている強みがその仕事と関係があり、その強みによって卓越した成果をあげることが重要であるなら、その人の弱みは我慢すべきです。

強みによる人事について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。