ドラッカーによると、最古の非営利組織は日本の寺であると言います。自治的な組織でもありました。
現代において日本に多い非営利組織は、産業団体であると言います。企業間、産業間、対政府の橋渡し役として大きな貢献をしてきました。
一方、アメリカの非営利組織は際立った特長をもっていると言います。無給のボランティアが主力になっているという点です。しかも、主婦や退職者だけでなく、就業者が多いという点も特筆すべきです。
アメリカでは、非営利組織が仕事にやりがいのある自己実現の場であり、絆を築くためのコミュニティになっていると言います。
日本では、職場が生きがいであり、コミュニティであったと言われていますが、もはやその姿は失われつつあります。
日本では、社会問題の解決は政府や行政の仕事であるという考え方が根強いと思いますが、問題はますます多様化・複雑化し、政府や行政の対応能力には限界があります。
アメリカにおける非営利組織の成功は、今後の日本においても大いに参考とすべきです。
アメリカと日本の違い
日本にも公益法人等の非営利組織は多数存在しますが、アメリカの非営利組織との際立った違いは、後者が無償ボランティアを基幹とする組織であるということです。
ドラッカーによると、成人の2人に1人(約9,000万人)が無給のスタッフとして働き、週に数時間を割いていると言います。しかも、ボランティアには、主婦や退職者だけでなく、ビジネスマンが多いとも言っています。
非営利組織は、ボランティアに対して社会に貢献しているという実感を与えており、自己実現の場となっています。さらに、社会の絆をつくる場であるコミュニティにもなっています。
貢献による自己実現とコミュニティの提供が、無償であっても積極的な参画を望む多くのボランティアを引きつけている要素です。
社会問題に対する日本の考え方
日本の場合、社会問題の解決を政府や行政の役割とする考え方が根強いと言えます。
税金を払い、政府や行政に任せているという認識が強く、市民が社会活動に積極的に参画するという意識はあまり高いように見えません。
大きな災害が起こったときに多くの募金やボランティアが集まることはありますが、日常生活において社会活動が根づいているという印象はありません。
中学生や高校生がよく街頭で募金活動をしていますが、協力が少ないことに驚かされることも稀ではありません。
社会問題が多いなら、金持ちや企業から税金を多くとって配分すればよいという発想が必ず出てきます。
非営利で子育て支援活動をしている方に話を聞いたことがあります。
支援サービスの利用者になる人は、自分が困っているので、無料だからどんどんすがりついてくるのですが、困りごとが解決したら知らん顔という人が多いそうです。
自分が助けられたから、次は助ける側に回るという発想をもつ人は少ないようです。
社会問題に対するアメリカの考え方
無償のボランティア活動が盛んであることからも、アメリカは主体的な参画を重視していると言えます。
政府や行政に任せ切るという発想はありません。税金は少ない方がよく、その分、自分の意思で寄付先を選び、自ら参加するという意識が強いようです。
日本のように、企業や金持ちに高い税金を課せばよいという発想もありません。非営利組織にとって、彼らは重要な寄付者であると認識されています。
非営利組織の重要性
社会的な問題はますます多様化、複雑化し、問題解決のニーズはますます高まっています。
しかし、政府や行政の能力には限界があります。税金の投入には公平性が足かせになるからです。
事業によって濃淡をつけることが難しく、常に広く浅い施策に終始しがちです。
総花的とよく言われますが、市民のニーズはどんなに小さくともないがしろにできず、収める税金が多い人の意見を重視する訳にもいきません。
結果的に、多様なニーズに対して、どれも中途半端な対応になりがちです。
ですから、日本でも、さまざまな専門性や特有のミッションをもった多様な非営利組織の活躍が期待されます。
ただし、社会問題の解決といった公益性の高いミッションは、政府や行政が一定の主導権をもち、全体をコントロールすることが必要です。
個々の非営利組織は特定のニーズにしか対応しないため、全体の整合性やバランスが求められるからです。
非営利組織のマネジメント
非営利組織は、公的機関やサービス機関と同様、特有の問題をかかえています。非営利組織には、企業のように利益という明確な評価基準が存在しません。
一方、ミッションは社会正義であり、絶対の善であることに疑念を挟むことは困難です。うまく行かなければ行かなくなるほど、ますます努力の必要性が強調され、コントロール不能に陥ります。
非営利組織にこそマネジメントとリーダーシップが必要です。
ところが、今でもマネジメントは企業のものといった認識が拭えていません。現にマネジメントは企業のために開発され、企業の目的に焦点を合わせたものとして発展してきました。
ですから、非営利組織の目的に焦点を合わせたマネジメントの理論と手法が必要です。ドラッカーは『非営利組織の経営』において、アメリカの非営利組織の成功例からそれらを体系化しています。
非営利組織の役割
ドラッカーは、組織のマネジメントには3つの役割があると言います。
- 自らの組織に特有の目的と使命を果たす。
- 仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる。
- 自らが社会に与える影響を処理するとともに、社会的な貢献を行う。
これらのうち、組織の種類によって異なってくるのは第1の役割であり、他の役割には違いがないと言います。
非営利組織のマネジメントに特有の役割は、一人ひとりの人と社会を変えることです。例えば、病院は患者の治癒であり、学校は教育による学生の成長です。
公益性が高いため、企業のように経済的成果を期待することは困難です。
ドラッカーの理論では、マネジメントの役割こそが第一義であり、その役割に応じて仕事と組織が設計されます。
非営利組織の中にマネジメントがあるというよりも、マネジメントの役割に相応しい組織形態として非営利組織が選ばれるというのが正しい言い方になります。
マネジメントの重要性
次の理由により、非営利組織にとってマネジメントが一層重要になります。
- 利益という明確な評価基準がないため
- 多様な利害関係者が存在し、それぞれが拒否権をもつため
- ボランティアが主力のため
非営利組織は、サービスの利用者が費用の負担者にならない場合が多く、寄付者が別に存在します。寄付者とボランティアが同じ場合もありますが、違う場合もあります。したがって、企業に比べて利害関係者とそのニーズが多様化します。
経済的成果が期待できないため、ボランティアが主力になります。ボランティアには報酬によるインセンティブは使えませんので、仕事のやりがいによる自己実現やコミュニティによる絆の提供がインセンティブになります。
ボランティアのインセンティブというと、「社会正義自体がインセンティブとなるから、企業のような利益重視よりもやりがいがあるはずだ」と言う人がいます。
そういう面もあり得ますが、アメリカの非営利組織でも、ボランティアの活用が成功しているところは多くないようです。まして日本では、社会正義だから率先してボランティア活動に参画するという現実はありません。
逆に、非営利組織の活動に参加する人は、社会への貢献による満足を強く意識しているため、不適切なマネジメントによって満足が得られないときの欲求不満や疎外感は一層大きなものになります。
非営利組織こそ、明確な目的(ミッション)と具体的な目標によるマネジメントとリーダーシップが不可欠です。 人はミッションを共有することによって動機づけられ、仕事を通じて成長します。
非営利組織のマネジメントについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
ミッション、目標、優先順位を一緒になって明らかにし、困難も勝利も共に分かち合います。一つひとつの活動の重要性を実感できるように気を配ることも大切です。
ただし、まったくやる気のない人を動機づけることはできません。ドラッカーによると、積極的な動機づけができるのはリーダー的な人たちだけだと言います。
リーダーと普通の人たちとの差は一定であるという法則があるそうです。世界記録も、誰かが破れば、次々と破る者が出てきます。上位一割の人たちをまずつかまえて動機づけることができれば、平均的な人たちはついてくると言います。
非営利組織における人事について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
人のマネジメント
非営利組織のマネジメントにおいて特有の問題は、多様な利害関係者をマネジメントしなければならないことです。
利害関係者はそれぞれに異なった多様なニーズをもつため、目標や計画においてバランスが求められます。時には妥協も必要になります。
だからこそ、マネジメントの方法において、体系的な一貫した対応が重要になります。起点は明確で具体的なミッションです。利害関係者が多様であると言っても、ミッションに共感できない人に参画してもらうことはできません。
焦点は成果です。ミッションを実現するために、成果を活動の中心に据えなければなりません。成果をあげるために関係者に求めることを伝え、そのうえで、具体的な仕事の中身は、相談しつつ自ら決めてもらいます。
関係者には経済的な報酬を期待してもらうことができませんから、命令や処罰、降格によるマネジメントはできません。自ら納得した形で明確な仕事を分担してもらい、成果に貢献する責任を引き受けてもらうということがマネジメントの中心です。
話し合い、なすべき貢献を明らかにし、目標を定め、締め切りのある具体的なプランをつくって初めて、責任を伴う仕事を分担したことになります。
トップの仕事は、関係者全員に明確に分担された仕事が確実になされるようにすることです。すなわち、皆が仕事をしやすくし、成果をあげやすくし、仕事を楽しめるようにすることです。
トップは、鍵となる人たちに対して、
- 私はみなさんの何を知らなければならないか。
- どこに機会があり、どこに問題があると思っているか。
- 何がうまくいっていて、何がうまくいっていないか。
- 何を改善しなければならないか。
を問います。
すべての関係者に対しては、
- あなたの助けになるような何かを私はしているか。
- 邪魔になるような何かを私はしているか。
を問います。
トップは、自分が思うことではなく、問いに対する答えに基づいて行動しなければなりません。
一方で、トップは、すべての関係者に次の責任を要求しなければなりません。
- 自らが行うべき任務を考える。
- この組織は自分に何を求めるべきかを問う。
- 自分が力を入れていること、責任をもつべきと考えることについて、共に働く人たちに理解してもらう。
- 学ぶこと、教えることの両方について責任を果たす。
非営利組織における利害関係者、なかでも理事会とボランティアとコミュニティのマネジメントについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
企業にとっても重要な非営利組織の成功
成功している非営利組織のマネジメント手法は、企業にとっても大いに参考になります。
一つは、人を生かすことにおいてです。仕事のやりがいそのものをインセンティブとしてボランティアに成果をあげさせることができるなら、報酬のインセンティブが使える企業にとっては、さらに成果につなげられるはずだからです。
もう一つは、多様な利害関係者への対応です。マーケティングにおいて優れたバランス調整が求められますから、少ないとはいえ、消費者市場、資本市場、労働市場などの多様な市場のニーズに対応すべき企業にとっても役立つはずです。