成果は、非営利組織において大きな意味を持ちます。非営利組織には成果を重視しない傾向があるからです。
サービスの利用者が支払い者でないことがほとんどですから、企業のように仕事ぶりに応じて対価を受けるわけではありません。よって、企業のような収支や損益がなく、利益によって成果を測定することができません。
非営利組織のミッションは社会正義に関わるため、ニーズがあるのは明らかであると考え、仕事を行ったこと自体を成果とみなしがちです。
そのため、内部志向に陥りやすく、組織や仕事の維持自体が目的化しやすいと言えます。
だからこそ、一層、成果を明確にする必要があります。資金の提供者がいる以上、その資金を無駄に使うことは許されないからです。
非営利組織の成果は、利益などの端的で分かりやすい定量的成果に置き換えることが困難であるため、ミッションから直接成果を考え、それを測定する方法を考えなければなりません。
ミッションの具体化としての成果
成果はミッションから導かれるものでなければなりませんが、ここにおいて、ドラッカーは2つの落とし穴があると言います。
2つの落とし穴
ミッションを大義として唱えるだけで終わることです。ニーズは明らかであり、当然に支援されるべき、利用されるべきという考え方が根底にあります。支援しない方が悪いとさえ考えます。
重要なことは、限られた資源を成果の期待できるところへ集中することです。できない約束をするわけにはいきません。ニーズが明らかであるならば、それを具体的な成果として表現し、成果に焦点を合わせなければなりません。
もう一つの落とし穴はまったく逆で、ミッションを無視して成果を求めてしまうことです。資金を集めやすい人気取り的なことに力を入れてしまうことです。
いずれも極端な方向であり、陥りやすい間違いです。
顧客の創造
ニーズが明らかであるから、それを訴え、それに応えているだけでは不十分です。顧客は誰か、そのそれぞれにとって成果は何であるかを考えなければなりません。
マーケティング戦略によって、顧客の欲求を生み出し、充足させることを成果としなければなりません。
経済性の考慮
成果を考えることは、大義だけでなく経済性も考慮するということです。資金を初めとする資源は有限であり、常になすべきことよりも圧倒的に少ないからです。
資源の最適な配分が必要です。成果があがるところに資源を投入し、成果をあげることのできない活動からは資源を引き上げなければなりません。
直接の成果
非営利組織の成果は、人の変化、すなわち行動、環境、ビジョン、健康、希望、そして何よりも能力と可能性の変化となって現れるべきものです。ですから、人のビジョン、基準、価値、コミット、能力への影響によって、成果を判定すべきです。
ミッションを具体的に表現し、その実現に貢献する見地から成果を考えます。あらゆる政策、決定、行動について、「ミッションの実現にプラスになるか」を考えなければなりません。
長期目標の重要性
利害関係者の調整手段
非営利組織と企業の最大の違いは、非営利組織には多様な関係者がいるということです。関係者とは、拒否権を持つ人のことです。それぞれの関係者が異なる目的やニーズを持っているため、すべての関係者を満足させ、合意を得なければなりません。
ドラッカーによると、その唯一の方法は、長期目標について合意を得ることであると言います。長期目標以外に、すべての関係者の関心を調和させる方法はなく、短期の成果に焦点を合わせると支離滅裂になると言います。
長期目標と短期目標のバランス
まず、自分たちが社会あるいは人にもたらそうとしている変化を明らかにします。次いで、それぞれの関係者にとって重要なことは何かを考え、関係者全員の関心を織り込むようにします。
これが長期的な目標と短期的な目標のバランスをとるということであり、長期的な目標の追求の過程で、短期的な目標が実現されていく形になります。
困難なように思えますが、成果をあげている非営利組織ではそれを成し遂げていると言います。ドラッカーは、大変な作業ではあるものの、一度分かればそれほど難しいことではないと言います。
結果的に、長期的な目標への着実な歩みこそ、関係者の信頼を得ることにつながると言えます。
情報とコミュニケーションによる組織構造
現場からトップへ、トップから現場へと流れる情報に沿って組織をつくります。
組織のメンバーであり、組織が存在する社会の一員でもあるボランティアを最大限に活かす組織構造です。無給のボランティアは、組織の内と外に同時に軸足を置いた存在ですから、外部に開かれた学習する組織をつくるうえでも有効だからです。
相互信頼による協力
非営利組織の主力はボランティアです。ボランティアを組織階層に基づく指揮命令権によって動かすことは困難です。相互信頼によって協力を求めなければなりません。
ドラッカーによると、信頼とは、相手に何を期待できるかを互いに知っていることです。そのためには、すべてのメンバーが、自らが負うべき貢献と成果についての責任を考え、書き留め、上、下、横の人たちに理解してもらうことが必要になります。
情報とコミュニケーションを中心に据えた組織構造を構築する必要があるということです。全員が情報に関わる責任を果たさなければなりません。
- 自分が仕事をするためには、いかなる情報を、誰から、いつ、いかにして手に入れなければならないか
- 他の人が仕事をするためには、いかなる情報を、自分から、いつ、いかに渡すか
これこそ、すべてのメンバーが成果に貢献する責任を負うということでもあります。
組織のフラット化
メンバーの誰もが情報を手にできるなら、階層はフラットにすることができます。情報が手にできないから階層が必要であり、階層は情報の中継器にすぎないからです。
階層はメッセージを半減させ、雑音を倍増させることが分かっていますから、情報とコミュニケーションを中心とした組織構造にすることによって、階層構造をできる限りなくすことが望ましいと言えます。
組織の中で争いが起こることはよくありますが、ドラッカーによると、多くの場合、組織構造改革の必要の現われであると言います。成長によって構造が不適切になり、責任の所在が不明確になっているため、非難の応酬が生じると言います。
なお、組織には礼儀が不可欠ですので、無作法は許してはならないと言います。
権限委譲
特にフラットな組織において、権限委譲が不可欠です。ドラッカーは、そのためのルールを示しています。
- 委譲した権限の内容、目標、期限を明確にする
- 委譲した者と委譲された者の間に期待と責任についての理解を共有する
- 委譲した者は、委譲された者をフォローする
- 委譲した者は、仕事が適切になされたことを確認する
- 委譲された者から委譲した者に報告を行う(予期せぬことはすべて報告する)
高い基準によるコントロール
ドラッカーによると、非営利組織は、中央が命令によって統括できないことが多いと言います。事業の実行を担う支部組織は自治権を持ち、独自に意思決定を行っていることが多いからです。
このような場合、基準によるコントロールが重要であると言います。高い基準が、共通性と自立性を両立させると言います。この場合、中央のトップは支部を訪れ、十分なコミュニケーションを図ることが必要になります。
中央の役割は、全体基準を設定しつつ、支部に奉仕すること、支部の拠り所となることです。
支部の役割は、実際に仕事をしている者として組織を代表していると自覚すること、自分たちの行動が全体の行動として見られることを自覚することです。
ドラッカーは、基準は高く設定すべきであると言います。低い基準がやがて高くなることはないと言います。最初は達成できないこともあるかもしれませんが、達成を目指して努力することが重要です。「ゆっくり」と進まなければならないことはありますが、「低い」こととは意味が違います。
人を活かす
強みを活かす配置
成果をあげるには、人を活かすことが不可欠です。人を活かすとは、その人の強みが発揮できるように配置することが前提になります。そうでなければ、成果を要求することがそもそも不当になります。
成果をあげる人を重視する
実際に仕事ができ、成果をあげている人に脚光を当てることが重要です。組織として何を重視しているかを示すことになるからです。組織全体の目線、ビジョン、期待、基準を上げることにつながります。
彼らを教師役に起用するなら、彼らが組織にとって模範であることを認めることになり、プライドを持たせることになります。会合で彼らに発表してもらう機会をつくる方法があります。
目標と基準による自己評価
ボランティアにとっては、仕事の成果が報酬になりますから、自らの仕事ぶりを自ら評価できることが重要になります。ドラッカーは、目標と基準が明らかであれば自ら評価できると言います。
正式な評価は上司に当たる者の仕事ですが、少なくとも目標と基準が明確で、仕事の結果がフィードバックされるなら、自分の仕事ぶりの良し悪しや改善の必要性などを知ることは可能です。
上司の評価は、常に抜きん出てよくできたことに基づいて行うべきであり、できなかったことに基づいて評価してはならないと言います。できなかったことは配置や仕事の割り振りの不適切さを示すものであり、改めて強みを生かせる配置や仕事を考える材料にします。
スタッフ部門への配置の長期化防止
スタッフ部門(現場であるライン部門に、専門的事項に関する助言や勧告を行う部門)は必要ですが、長期にわたって同じ人をスタッフ部門に配置してはいけません。現場とローテーションさせることが必要です。特に仕事の成果そのものが報酬であるボランティアにとって重要です。
外に出る
幹部をはじめ非営利組織に働く者は、頻繁に外に出る必要があります。報告に頼らず、直接現場を見て、話を聞く必要があります。
成果は常に組織の外にあるからです。組織の成果とは、顧客にとっての価値であり満足だからです。
組織の内部にあるのはコストだけです。
意思決定
重要な意思決定に集中する
成果をあげる者は、重要な決定に集中します。意思決定にはリスクが伴うため、優れた意思決定には時間と思考が必要になるからです。余計な意思決定をする余裕はありません。
意思決定で重要なことは、何のための意思決定かを考えることです。本当の問題は何かということです。見えていると思っている問題のほとんどは、現象にしかすぎません。
機会とリスク
意思決定の検討に当たっては、機会とリスクの関係が問題になります。
ドラッカーは、機会の検討から始め、うまくいったら何を意味することになるかをまず考えるべきであると言います。
次いで、リスクについて考えます。リスクには、次の3種類があると言います。
- 負えるリスクか、失敗しても小さな害で済むか、元に戻せるか
- 失敗したら深刻な害をもたらし、しかも基に戻せないか
- 失敗すれば害は大きいが、負わざるを得ないリスクか
最後に、両者のバランスを考えます。
意見の対立を重視する
重要な意思決定において、意見の対立はなくてはならないものです。重要な意思決定にはリスクが伴うからです。
ドラッカーは、最初から全員が賛成の時は、あえて意思決定をしてはいけないと言います。なぜなら、誰も何も考えてきていないことを意味するからです。全員が考える時間をもてるように、決定を先延ばしにするのが賢明です。
意見の違いがあるときには、答えが食い違っているのではなく、違う現実を見ていると考えるべきです。問題自体を違うものとしてとらえているため、意見が分かれていると考えるのです。
ある人の意見が正しく、別の人の意見が間違っているのではなく、全員の意見が正しいと考え、反対意見は理解と敬意をもたらすものとして扱わなければならないと言います。
反対意見を一つずつ吟味することで、問題の全容を明らかにすることができます。それぞれの意見は、いかなる問題に答えようとしているのかを明らかにしていくことで、問題に対する共通認識にまでもっていくようにします。
この方法は、意見の対立を争いに発展させることなく、組織の信頼を築くものです。最終的な意思決定においては、すべての意見が採用されるわけではありませんが、少なくともあらゆる反対意見が公にされ、尊重され、議論されたうえでの意思決定ですから、真摯な不同意として受け止められます。
意見対立には、さらに付随的な効果があります。変化が必要になったときに、進んで変化を支持する者の意見が無視されないからです。
非営利組織のミッションは社会正義であり、絶対善であるがゆえに、うまく行かなければ行かなくなるほど、ますます努力の必要性が強調され、変化を受け入れることが困難です。
異なる意見を尊重する姿勢は、変化が見えている者の主張を正面からとりあげることにつながり、変化を機会ととらえる共通認識を醸成する余地が生まれます。
意見対立には争いを吹き飛ばす効果もあります。争いは、水面下で行われれば争いのままですが、意見の対立として真正面から取り上げるならば、お互いに何を問題にしているかを明らかにするきっかけになります。
問題の違いを明らかにしようとすれば、ほとんどの争いは深刻な問題でないことが多いと言います。争い自体をなくすことはできなかったとしても、関係のないことにすることはできます。「その問題は今日の議題ではない」、「今はこちらの問題の方が重要である」と言うこともできます。
対立点を明確にしようとすることは、同時に、同意点も明確にします。同意点に焦点を合わせ、重視することとし、対立点については整理、調整することで摩擦を少なくすることもできます。
行動につなげる
意思決定は、実行されることに意味があります。実行されない原因の一つは、決定後に実行に関わる者に受け入れさせようとすることです。理解や説得に時間を要し、棚上げにされることさえあります。
これを防ぐには、決定前に行動を組み込んでおく必要があります。検討の段階で、決定の影響を受ける者、実行に関わる者の意見を聞いておくことです。
最初から全面的に実行しようとすることも失敗する原因になります。小さくテストすることから始めなければなりません。
誰もが新たなことに協力的なわけではありません。懐疑的な者は前向きに実行しようとしませんから、機会のターゲット(意欲的に取り組む者)に集中することがポイントです。
担当者を決めることも必須です。仕事のプラン、目標、期限について責任を持つ者が誰なのかをはっきりさせ、周知させます。
さらに、実行に関わるすべての者について、誰が何をするのかを決めなければなりません。実行すべき人に期待するものを、指示、トレーニング、報酬に組み込んでおきます。実行すべき人に分かる言葉で表現し、彼らの常識に適うものであることも必要です。必要なツールも準備します。
責任者は、正しく実行されるようフォローすることも重要です。報告に頼るのではなく、現場に行って自分の目で確かめなければなりません。
いつでも撤回できるようにしておく
新たなことには問題や失敗がつきものですから、間違っていたと分かったら、速やかに撤回できるようにしておかなければなりません。撤回する権限をもつ責任者をあらかじめ決めておく必要があります。
非営利組織の最大の弱みは、自らの無謬性への確信が強いことです。何かうまく行かなくなると、誰の責任かを追及し始めます。やるべきことは絶対に正しいと考えているので、誰かが間違って行っているからうまく行かないと考えがちです。
意思決定そのものが間違っていたのであれば、誰が撤回するか、誰がいかに立て直すかが大事になります。
その際に、代替案が用意されていることが重要になります。代替案の用意に不可欠なのが、意見の対立です。