非営利組織における唯一の管理手段としての人事

組織における人事とは、人の能力、経験、実績を評価し、採用、異動、昇進などの意思決定を行うことです。

組織において利用できる資源には、人、物、金、情報などがありますが、組織の成果を定めるのは人以外にありません。物や金や情報は、人が有効に活用してこそ生産的になり得るものです。

だからといって、他の組織よりも優れた人材をリクルートし、とどまってもらうことは容易ではありません。それができる唯一の方法は、まず今いる人材からより多くを引き出すことに全力を尽くすことです。

やる気のある人たちを惹きつけ、引きとめることこそ組織における人事の役割です。

唯一の管理手段としての人事

組織における人事には、次の2つの機能があります。

  • 人の能力、経験、実績に関する評価
  • 評価に基づく、採用、配置・異動、退職・解雇、地位・昇進、職務に関する意思決定

組織において利用できる資源には、人、物、金、情報などがありますが、物や金や情報は、原則、どの組織にも開かれており、利用できないものはありません。

組織の成果を定めるのは人以外にありません。物や金や情報は、人が有効に活用してこそ生産的になり得るものであり、人の活用スキルが差を生みます。

組織は自らの人材を超えて仕事をすることはできません。まずは、既存の人材からより多くを引き出すことに全力を尽くす必要があります。他の組織よりも優れた人材をリクルートし、とどまってもらうことは容易ではないからです。

やる気のある人たちを惹きつけ、引きとめることこそ組織における人事の役割と言えます。

  • 得るべき人材を得ているか。この組織を喜んで任せたいと思う人たちを惹きつけているか。
  • 人材に活躍してもらっているか。彼らを引きとめ、高い基準で刺激し、認めているか。
  • 有用な人材を自ら育てているか。われわれ以上になってもらうために育てているか。

を常に問い続けることが必要です。

人事が人材を高め、刷新し、より高い成果を生み出し、組織をよりよいものにし続けていきます。組織の明日を築くことこそ、人事の使命です。

ドラッカーは、「非営利組織においても、人事は究極にしておそらくは唯一の管理手段である」と言います。人事の質が、組織が真剣にマネジメントされるか否かを決めると言います。

人事の内容が、経営者の本音を如実に示します。重要な地位や仕事にどのような人材をつけるか、優れた人材をどの仕事につけるかを見れば、どのような人材が求められているのか、組織が何を重視しているのかを知ることができます。人事を見れば、リーダーの言っていることとやっていることの違いも分かります。

ボランティアを主力とする非営利組織においては特に、人を指示や命令によって本質的にコントロールすることは不可能です。本質的なコントロールは、自己管理しかありません。

  • ミッションに基づく高い目標と行動基準を要求する。
  • 成果をフィードバックし、自己改善させる。

これらの前提となるのが適切な人事です。人材を強みによって評価し、強みが生かせる地位や職務につけることです。

上司やリーダーの役割は、メンバーが組織のミッションに貢献できるようサポートすることです。道具や情報を手に入れられるようにし、相談に乗り、励まし、アドバイスし、能力を高めることに手を貸します。

人事の原則

優れた人事を行う者のやり方から、ドラッカーは、人事の原則を明らかにしています。

まず、人を見分ける力などあり得ないという前提です。だからこそ、優れた人事を行う者は、人物診断のプロセスを忠実に実行しなければならいことを知っています。自らの知識や眼力に頼ることなく、退屈なプロセスを実直に踏んでいくべきことを学んでいます。

ところが、人を見分ける力に自信があると豪語する人は、この事実を受け入れません。その結果、間違った人事を行います。配置した人材が成果をあげられなければ、その人に責任を問いますが、配置した自らの責任を問うことはありません。

人事のプロセス

仕事の明確化

まず、なされるべき仕事を明らかにし、次に、その仕事に相応しい人材を見つけなければなりません。

配置する人ありきで、その人に合わせて仕事を変えてはいけません。仕事は全体が連携しており、他の仕事に影響が及ぶからです。

複数候補者の選定

次に、候補者を選びますが、必ず複数を用意します。複数の候補者を観察することで、感覚、親しさ、先入観を排除することが重要です。

成果の実績評価

候補者について、成果の実績を見ます。

性格を見るのではありません。人とうまくやっていけるか、イニシアチブをとれるか、などを評価するのではありません。ドラッカーは、そのような評価を「くだらない評価」として一蹴します。

必要な仕事をしてもらうことが目的ですから、曖昧で主観が入りやすく、しかも仕事とは直接関係がない評価を考慮してはいけません。いかなる成果をあげるかを何も教えないからです。

仕事ができるかどうかが問題ですから、仕事の実績についての評価が第一です。具体的には、最近の3つの仕事をどうなしたか、やり遂げたかを見るべきと、ドラッカーは言います。

強みを見る

成果に表れている強みを把握します。最近の3つの仕事で、何ができることを示したかが重要です。

同僚との面談

適任と判断した者について、一緒に働いたことのある者2、3人と会い、話を聞きます。手放すのは困ると言われたら、決めてよいと言います。

3か月後の面談

3か月が経ったら面談します。

「3か月が経った。これから何をやるつもりか書き出してください。」と要求します。その内容によって、人事が正しかったかどうかが分かります。

人を育てる

人はミッションを共有することによって動機づけられ、仕事を通じて成長します。高い基準を要求する仕事が、人を教育します。人は期待をかけられると喜び、それに応えたいと思うからです。

ミッションの共有だけで仕事の質は確保できませんが、ミッションの共有によって動機づけられた人は、能力の獲得が強い欲求となります。経験や訓練の足りなさを致命的な問題と感じ、貪欲に学び始めます。

サポートの必要性

仕事を与えて放っておくだけではいけません。高い基準を要求する以上、適切なサポートが不可欠です。

  • 導く(相談相手)。
  • スキルを伸ばす(指導者)。
  • 進歩を評価する(評価者)。
  • 励ます(激励者)。

一人の上司がすべての役割を果たせるとは限りませんので、直接の上司以外の先輩に当たる者が分担することもあり得ます。

失敗を経験させることも必要なだけに、激励者が特に重要であると言います。

人を育てることにおいて、ドラッカーは、やってはならないことを3点あげています。

不得意なことで何かを行わせてはならない

組織で人に働いてもらうには、弱みを気にすることなく強みを生かさなければなりません。人は強みでしか成果をあげることはできません。

弱みを克服させるために、不得手なことを執拗に行わせようとしてはいけません。成果をあげることができないばかりか、仕事に対する意欲を失わせ、貴重な人材を台無しにしてしまいます。

子どもではないのですから、もはや個性は変えられないことを理解すべきです。

近視眼的に育ててはならない

働く者にとって、仕事は生きがいであり、自己実現でもあります。人生の目標に合ったものを与えることを考慮しなければなりません。

エリート扱いしてはならない

新卒者から有望株を探すようなことをしてはいけません。20代前半の者が数十年後にどうなるかは保証できないからです。一方で、選ばれなかった者を早々に腐らせることになるからです。

特に、階層的な考えで人材の育成を阻害してはならないと言います。階層的な考えとは、ドラッカーが示す例によると、ハーバード・ビジネススクールのMBAにしかポストを与えないようなことです。仕事を通じて人を育てる発想がないと言わざるを得ません。

同様に、早い段階で昇進させていく者を決めてもいけません。これまでの成果に応じて、相応しい職務につけていくようにすべきです。

強みに焦点を合わせる

実力の重視

重要なことは見込みではなく実力です。人事考課で評価している潜在能力のようなものは、見込みでしかありません。

実力、すなわち成果に反映されている能力によって評価すべきです。

成果に反映されていない能力は、これまでの仕事に活用できていないものであり、いくら能力があると言ったところで確証がありません。別の仕事で活用できる、将来活用できるというのであれば、その時点で評価の対象とすべきです。現在において評価の対象とはなりません。

人は、できることのために雇われているのであって、できないことや、できるかもしれないができていないことのために雇われているのではありません。

証明済みの能力によって評価するのでなければ、公正な評価ではありません。重要なのは成果です。一連の仕事での成果を率直に評価しなければなりません。

ただし、成果は自分自身の能力だけで発揮できるとは限りません。人の組み合わせも重要ですし、一つの仕事だけで分かるとも限りません。いくつかの仕事を試させ、強みを見極めて、その強みによって評価すべきです。

弱みはどうでもよいということではありません。社会人としての基礎に関わる甚だしい弱みは直す必要がありますし、弱みを知っておくことも重要です。

弱みを知ることは、弱みによって評価するためではありません。その人の強みを阻害しないようにし、弱みによって仕事をさせないようにし、他の者の強みによってそれを補えるようにするために知っておく必要があります。

元々、弱みを補い、気にしなくてもよいようにするために組織をつくっていることを忘れてはいけません。

厳しい要求

要求は厳しくしなければなりません。高い目標や基準を要求しなければなりません。

急ぐ必要はありません。時間を与え、ゆっくりやらせてもよいですし、繰り返し何度やらせても構いません。しかし、質を落としてはいけません。

失敗を許さないということではありません。高い目標にチャレンジする限り、真摯な取り組みよる失敗は容認されてしかるべきです。

厳しい要求に全力で取り組むからこそ、その人の強みや弱みが明らかになるということを知らなければなりません。

丁寧な評価

定期的に面談を行います。向かい合い、時間をかけて丁寧に評価することが大切です。

当初の約束、目標や期待を振り返り、これまでの成果がどうであったかを評価します。重視すべきは強みです。「何をうまくやれたか」が重要です。

成果があがらない人への対応

どんなに頑張っても成果が出ない場合があります。その仕事によって弱みが明らかになるような場合です。

このような状況に気づいたならば、決して放っておいてはいけません。本人が申し出るまで待とうとしてもいけません。ドラッカーは、大抵のリーダーは逃げていると指摘しています。

リーダー自らが率先して声をかけ、話をすることが必要です。本人は、自分ができないことが分かっていますが、助けを求める勇気が出ないことがほとんどだからです。その人を傷つけるようで躊躇することもありますが、逆にほっとする人の方が多いはずです。

挑戦する者に機会を与える

できる者とできない者の差は出てきますが、あくまで挑戦する者には機会を与えるべきです。

前向きに挑戦する限り、強みや弱みは明らかになってきます。弱みによって仕事をさせることはできませんが、強みに相応しい仕事は用意できます。本人も自分の強みが自覚できれば、強みを生かせる仕事を考え、探すようになります。

問題は、挑戦しない者です。挑戦しない者に機会を与えることはできません。やる気のない者の強みを生かすことはできません。挑戦しない者に重要な立場や仕事を与えるなら、組織に害をもたらし、他の者のやる気を削いでしまいます。挑戦しない者には辞めてもらわざるを得ないでしょう。

ミッションを感じさせる

ミッションに共感し、自らの仕事がミッションの実現に貢献できていることの実感ほど、人にやる気を与え、奮い立たせるものはありません。

ミッションには条件があります。

ミッションの条件

ミッションは、明快でシンプルでなければなりません。理解でき、自らの仕事や行動がミッションに適っているかどうかを判断できることが必要です。そうでなければ、自分の仕事がミッションの実現に貢献できているかどうかを知ることができません。

人の目線を引き上げるものであることも必要です。高い基準を要求するものであり、どのような能力も上回るものです。そうであってこそ、人はチャレンジ精神を掻き立てられ、自らを成長させる意欲も持ち続けることができます。

世の中を変えることに貢献できたと思わせるものでなければなりません。報酬のためではなく大義のために働くことこそ、非営利組織の使命です。無給のボランティアにとって、大義のための仕事こそが報酬です。

情熱を維持させる責任

組織は、働く者の情熱を常に維持させる責任があります。そのために、常にミッションを意識し、問いかけることが大切です。

定期的に皆を集め、

  • われわれが誇りとするものは何か。
  • われわれはどのような素晴らしいことをしたか。

を互いに問い、確認し合うことが大切です。常に焦点を合わせるべきは、成果です。ミッションの実現にいかに貢献できているかです。

リーダーを育てる

非営利組織が成果をあげ続けて行くには、メンバーの主力であるボランティアの成長が不可欠です。

そのためには、次の方法があります。

  • 責任を与え、必要な意思決定を行わせること
  • 先生役をしてもらうこと

責任と意思決定権は、権限委譲に関わります。仕事にやりがいを持たせるには、権限委譲は不可欠です。

先生役は、努力し、成果をあげた者に対する最高の評価であり、名誉です。教えることは、多くを学べる機会でもあります。

一方、有給のスタッフについては、内部の仕事に集中することによって内向きになりがちですから、意識的に外の風に当てるようにしなければなりません。外部の会合に参加させたり、研修を受けさせたりする方法があります。

人の上に立つ者は、部下が力を持つことをおそれ、権限委譲に消極的になりがちですが、むしろ、仕事のできる部下からのプレッシャーを歓迎するようでなければならないと、ドラッカーは言います。「どうしてわれわれはもっとやれないのか。もっとよくやれないのか。」と問われるくらいでなければいけません。

チームを編成する

組織として成果をあげるには、チームを編成することが必要です。指揮命令の階層構造だけでは、部下を助手として使うだけであり、大きな成果をあげることはできません。リーダーの能力が組織の限界になります。

組織は一人の人間ができることを超えて成長しなければなりません。そのためにチームをつくり、メンバーの強みを生かし、弱みを補い合うことが必要です。

指揮命令の階層構造とチームの違いはそこにあります。指揮命令の階層構造では、リーダーの考えにしたがって、皆が同じように考え、行動するように仕向けようとします。チームでは、一人ひとりの強みを共同の働きに結びつけようとし、リーダーはそれをサポートします。

チームは自動的に育たない

チームは、黙っていても自然に生まれたり、つくっただけで自然に育ったりすることはありません。系統立った作業によって編成し、育てていくことが必要です。

  1. なされるべき仕事を明らかにし、鍵となる活動は何かを考える。
  2. メンバーの強みを知り、その強みを鍵となる活動に割り当てていく。
  3. 全員が、自らのなすべきことを明確にし、そのなすべきことをなすうえで必要なことを考える。
  4. 上司、同僚、部下に直接会って要望を伝え、また、相手の要望を聞く(半年ごと)。
    • こうしてもらえれば助かる。
    • これは困る。
    • 私がお役に立っていることは何か。
    • 邪魔になっていることは何か。

リーダーの責任

リーダーの最大の責任は、仕事をしたがっていて、能力をもっている人に、相応しい仕事をしてもらい、チーム全体として成果をあげることです。ドラッカーによると、「人が行うべきことを行えるようにする」人がリーダーの唯一の定義だと言います。

  • 彼らが必要とする道具と情報を提供する。
  • 彼らをつまずかせ、邪魔になり、仕事を遅らせる障害を除去する。

想像しているだけでは分かりません。メンバーに直接話を聞く必要があります。

メンバーが仕事をできないのであれば、リーダーが仕事をしていないからです。メンバーが仕事を立派にできたのであれば、リーダーが仕事を立派にこなしたからです。

ボス教育

「ボス教育」はドラッカー特有の表現です。部下から指導を受けるということではなく、リーダー自らが部下から学ぶということです。

リーダーが組織の全員に対し、「リーダーである私が知るべきことは何か」と直接問います。

ボス教育は、ボス自身のためだけではありません。メンバー全員が、自分の仕事、部署、担当を超えた発想ができるようになります。組織の一体性が確保されることにつながります。

トップの継承

トップを決めることは、最も難しい人事です。トップの経験は、その組織の中ではトップしかできませんから、トップとしての仕事ぶりは、トップにつけてみないと分かりません。

ただし、少なくともやってはいけないことをドラッカーは明らかにしています。

辞めていく人のコピーをつけてはならない

コピーは弱いと言います。良くてもコピーの元になる人を超えることはありません。

社会は変化しますから、それに応じて組織も変化しなければなりません。今までのままで生き延びられる組織はありません。必ず、今までとは違うニーズや課題、問題に直面しますから、トップに必要な人材も変わらざるを得ません。

辞めていく人の側近をつけてはならない

側近は、一般的にボスの意向をくむことには長けていても、自身で決定する意欲と能力があることは少ないと言います。そういう意欲と能力があるなら、補佐役に長くとどまることはあまりないと言います。

早くから後継者と目されてきた人物も避ける

そのような人の場合、あえて厳しい環境に置かれて鍛え抜かれたということはあまりないようです。厳しさから守られ、純粋培養されていることが多いと言えます。

成果が必要とされ、評価され、失敗し得る立場に身を置くことのなかった人たちです。

早期選抜をしようとすると、そのようになりがちです。

必要な人事とは、誰に対してもチャンスを与え、高い基準を要求し、自分にも周りにも強みと弱みが明らかになるようにすることです。

そうしなければ、強みを生かし、成果をあげる適正人事ができなくなります。相応しいトップも選べません。

強みと弱みが明らかになっている人材こそ、組織の貴重な財産です。それがなければ有効な人事計画も立てようがありません。

組織のニーズと候補者の成果を合わせる

トップはトップとしての仕事ができるかどうかが問題ですから、必要な仕事に焦点を合わせる以外にありません。

まず、これからの数年、何が最も大きな仕事になるかを明らかにします。組織のニーズを明らかにするということです。

次に、候補者がどのような成果をあげてきたかを見ます。

そして、組織のニーズと候補者の実績がマッチする者を選びます。