非営利組織における理事会とボランティアとコミュニティ

非営利組織に特有の存在と言えるのは、理事会とボランティアではないでしょうか。

組織のトップにとっては、特に理事会は頭の痛い存在で、いかに理事会の干渉を防ぐかに腐心しがちです。

理事会が干渉と受け取られるようなことをする理由は、明確な役割が与えられていないからです。やりがいのある仕事がないから、細かな活動に口を挟みたくなります。

非営利組織は、コミュニティの中に存在します。コミュニティのために自らのミッションを体現する存在であり、コミュニティのために働く存在です。

理事会やボランティアは、立場は違えど、コミュニティと非営利組織の両方に軸足を置く存在です。ともにコミュニティに対して重要な影響力を発揮できるはずです。優れた武器として積極的に活躍してもらわなければなりません。

組織の武器としての理事会

ドラッカーは、非営利組織に特有の機関として、理事会あるいは評議員会の存在をあげています。他の公的機関で言うと、学校であれば教育委員会、 行政機関であれば議会に当たるようなものです。

組織のトップは、多くの場合、いかに理事会が組織の活動に介入することを防ぐかを考えがちですが、ドラッカーは、理事会を組織の武器とすべきであると言います。

理事会の役割

ドラッカーは、理事会の役割として、次のような点をあげています。

  • 組織全体にミッションを考えさせ、守らせ、遂行させる。
  • 有能なマネジメント、適切なマネジメントを確保する。
  • 成果を評価する。
  • 危機にあって、火消し役として働く。
  • 資金集めに中心的な役割を果たす(理想的には、その組織が自分自身の最大の寄付先となる)。
  • 以上に関する自らの成果について目標を設定する。

理事会には重要な役割がありますが、実際のところ、それらを差し置いて、日常的な組織のマネジメントにあまりに口を出し過ぎる場合があるようです。

その理由として、ドラッカーは、「組織のトップが理事会に明確な役割を与えないままにしておくからである」と言っています。 やることがないから細かなことに口を出すけれども、明確な役割がないから仕事は何もしないという最悪の状態に陥っているわけです。

理事を社会的地位、地域の名手としての称号のようなものとしてととらえる人もいます。そのような間違った認識をもたれることがないよう、 「理事とは責任である」ことを明確にしなければなりません。

理事の使命はミッションへの献身であり、 そのために必要な役割があることをはっきりと伝えなければなりません。

ただし、理事会の仕事を具体化するうえでは、必ずしも一律に決定できるわけではありません。理事や会長にも強みや弱みがあるからです。

通常、CEOは選任の専門経営者であり、理事会のメンバーは外部の非常勤であることを前提として、仕事の役割分担をする必要があります。CEOが、ある程度自分の行うことやその方法を理事会メンバーの個性や強みに合わせることができなければなりません。

いずれにしても、期待されている仕事やその成果、目標とその評価方法などについて、具体的に明らかにすることが大切です。理事会のメンバーも、評価結果にしたがって進退が決せられることは当然のことです。

仕事が具体的に決まれば、その実施の過程で、理事会のメンバーと組織の担当スタッフが一緒に仕事をすることになるはずですから、その直接接触を制限することはできなくなります。ただし、CEOはその状況を把握しておかなければなりません。あらかじめ職務実施計画を作成し、定期的にCEOと理事会メンバー全員に報告するなど、ルールを取り決めることが必要です。

理事会に対するCEOの役割

CEOは、理事会を組織の武器とするために、積極的に理事会に関与しなければなりません。

まず、理事会の編成に全面的に関わる必要があります。理事の候補を見つけ、組織のミッションや活動について十分に理解してもらえるよう教育しなければなりません。

会員による選挙で理事が選ばれるような場合もありますが、そのように選ばれた理事は、特定の会員グループのために働くことが多いと言います。あくまで組織全体のミッションのために働く人でなければなりませんし、それができる人を選ばなければなりません。

理事会は、チームとして機能させることが重要です。理事会の役割を明確にし、何をやってもらいたいのかを知らせる必要があります。

理事会では、それを踏まえて議論し、具体的な仕事を明らかにします。仕事が実行されるためには、目標、期限、担当者を明記した計画にまで落とし込むことが 必要です。担当者を決めるに当たっては、個々の理事の強みを考慮しなければなりません。

決して、一部の理事と結託してはいけません。特定の理事とスタッフが懇意になって、直接仕事に介入するようなことをさせてもいけません。 チームとしての理事会の機能を損ない、理事間の信頼や組織と理事会の信頼を失うからです。議論すべき問題は、必ず、理事会の俎上に載せる必要があります。

ただし、根回しが否定されるものではありません。問題に応じて、キーパーソンに事前に詳しく話をしておくことは重要です。 賛成を強要するなど理事会の議論をコントロールするためではありません。問題について、キーパーソンに十分理解してもらうためであり、 組織としても十分理解するためです。

反対の意思は尊重されなければなりません。理事会の採決で反対して敗れた人に対しては、後で意見を言ってくれたことに感謝しなければなりません。 すべての意見を実行できないこともありますが、少数派に対する敬意を忘れてはいけません。

CEOは、理事会の良心とならなければなりません。問題を理事会に隠したり、操作してはいけません。議論を避けるために問題を意図的に小さく見せたり、 逆に成果を大きく見せたりしてもいけません。情報を提供し、十分なコミュニケーションを図ることが必要です。

反対を恐れず、共通の基盤に焦点を合わせます。

コミュニティとのコミュニケーション

コミュニティは「共同体」または「地域社会」と訳され、特定の感情や特質、慣習、伝統などを共有している集団を指しています。

非営利組織と社会との関係は、企業のような経済的な関係ではありませんから、非営利組織が存在している社会あるいはターゲットとする人たちとの関係は、コミュニティとの関係であるとの認識が特に重要になります。

コミュニティのための非営利組織

非営利組織のミッションは、コミュニティが抱えている特有の課題を扱います。自らのコミュニティにおいて自らのミッションを体現する存在であること、コミュニティのために存在し、働いていることを忘れてはいけません。

コミュニティとのコミュニケーションは重視しなければなりません。組織からコミュニティへの一方向の情報発信であってはいけません。一方的な宣伝やニーズの訴えではなく、コミュニティの声に積極的に耳を傾けることが必要です。

特に、組織のリーダーの役割は重要です。「申し上げたいことがある」ではなく、「お聞きしておくべきことはありますか」と問わなければなりません。この問いが問題を表に出します。問題のほとんどは、表に出たとたんに消えると言います。隠れていると大きな問題のように感じますが、表に出るとそれほどでもないという問題が多いようです。ドラッカーは、友人の言葉を引用して、そのような問題を「靴の中の小石」と表現しています。

非営利組織は利害関係者が多様ですから、多くの対立する問題が生じることがありますが、すべての問題を解決できるとは限りません。組織が目指す特有のミッションに相応しくない問題もあるかもしれません。

問題は残るかもしれませんが、大事なことは、特有のミッションを果たすために組織が機能していることです。問題が大切なことを邪魔しないようにすることが大事になります。

ボランティアの重要性

無給のボランティアは、非営利組織のミッションに共感して自らの時間と活動を奉仕してくれる存在です。コミュニティの課題を理解し、解決したいと願っているからに他なりません。 組織のメンバーであると同時に、コミュニティーを代表する存在ともなる貴重な人たちです。組織と外の社会をつなぐ存在となるべき重要な人たちです。

組織の側としては、コミュニティにおいて組織を代表する存在となるべくボランティアを訓練する必要があります。 コミュニティが組織に対してもつ疑問を、ボランティアが組織にもち帰りやすくすることも重要です。

つながりを保つ

非営利組織は、コミュニティにとってなくてはならない存在となることを目指さなくてはなりません。 かつて身内であった人たち、すなわちサービスの利用者、ボランティア、寄付者であった人たちを忘れないことが大切です。

定期的に連絡をとり、忘れていないことを伝えることです。 コミュニケーションを図れる人には接触し、現況を把握します。組織に対する不満や期待があれば、話を聞きます。