非営利組織のイノベーションとリーダーシップ

非営利組織といえども変化を避けることはできません。社会そのものが変化するからです。

さらに、組織が人とお金を引きつけるためには、成長が必要です。成長とは肥大化や膨張ではなく、質的な変化を要求します。古い事業を廃棄し、新たな事業に資源を移さなければなりません。

しかし、非営利組織は社会正義をミッションとするため、利益を事業の評価基準とすることはできません。社会正義は絶対善ととらえられ、事業が陳腐化し、役に立たなくなっていることを認めることが困難です。過去の成功がそれに拍車をかけます。

その結果、組織は硬直化し、変化を脅威として回避しようとしてしまいます。これこそが、非営利組織にとっての最大の危機です。

危機に対処するには、変化を機会ととらえ、イノベーションに利用することが重要です。そのためには、優れたリーダーシップが不可欠です。

変化はイノベーションの機会

非営利組織にとっても変化は避けられません。社会環境は変化するため、変化に対応できない組織は生き残っていくことができないからです。

いかなる組織にも危機は来ます。リーダーにとって最も重要な仕事は、危機の到来を予期することです。危機を回避するためではなく、危機に備えるためです。

成長のためにも変化は必要です。組織に人やお金を引きつけるには、勢い、柔軟性、活力、未来に向けたビジョンが必要だからです。

非営利組織が変化するためには、企業よりも意識して体系的な廃棄が必要になります。さもないと、組織は硬直化してしまいます。

硬直化こそ、組織にとって最大の危機です。変化を脅威ととらえて回避しようとするからです。

組織に硬直化をもたらし、変化から遠ざけようとする最大のきっかけは、失敗したときではなく、成功したときです。組織は自己陶酔に陥り、手持ちの価値ある資源が過去の栄光を守るために無駄遣いされます。

危機に備えるには、変化を機会ととらえて利用すること、すなわちイノベーションによって先手を打つことです。

変化は多くの場合、組織に問題をもたらします。その問題を正面から取り上げることが、変化を機会ととらえることになります。

イノベーションを成功させる

イノベーションは積極的に求めなければなりません。体系的にイノベーションを行う態勢を整えることが必要になります。

変化が明らかに現れてくるのを待つのではなく、積極的かつ体系的に探そうとしなければなりません。

非営利組織においてもマーケティングが重要です。実際に現場を見て、ニーズを聞いて、調べて、試してみることです。リーダーが先頭に立ち、新しいミッションのための顧客を創造するために、機会のターゲット(イノベーションに積極的に協力してくれそうな人たち)に働きかけます。

機会を見えるようにする

報告システムを改善し、機会を見えるようにしなければなりません。

通常の報告システムは、既存事業の問題が第一優先になっているため、議論や意思決定のほとんどは問題の処理に費されます。

イノベーションの7つの機会を報告する仕組みをつくり、優先的に議論し、意思決定する場を設ける必要があります。ドラッカーは、月に一度ずつ、問題を議論する日と機会を議論する日を分けて設定することを勧めています。

保険のかけすぎに注意する

やりがちな間違いは、イノベーションに昨日の仕組みを活かそうとすることであると言います。既存事業の仕組みをなるべく変えずに対応しようとします。

新しい事業には、新しい目標、仕事、評価が必要です。既存の資源を活用しなければならないことはありますが、失敗をおそれて保険をかけすぎるように既存の仕組みを活かそうと考えてはいけません。妥協であり、中途半端な結果をもたらします。

新しい部門は独立した部門として組織する

新しい部門を現業部門に置くと、日常の問題解決が優先されるからです。

機会を体現する人を見つける

理解力があり、新しいものを歓迎し、意欲がある人を担当にします。

地位も影響力もある人を配置することが、人を引きつけることにもなります。組織が新しい事業を重視していることを示すことになるからです。

企画段階から現業部門を巻き込む

現業部門の反感を買わないようにするためであり、重要なことを見逃して仕事が麻痺することを防ぐためです。

新しい部門は独立させて組織すべきですが、現業部門と無縁にしてよいわけではありません。新しい事業であったとしても、具体化し、実行するためには現業部門の協力が必要になります。

組織のリーダー(CEO)

利益という評価基準をもたない非営利組織にこそ、一層優れたリーダーが必要です。

その人がどのような強みをもち、その強みを生かして何をしてきたかを重視します。弱みに注意を払いすぎてはいけません。

組織のニーズ、すなわち、組織が置かれている状況を見て、組織のために行うべき重要なことは何かを考えます。ニーズに強みを組み合わせることが重要です。

真摯さは絶対に譲れない条件です。組織の模範となるべき人でなければなりません。自分の子供をその人の下で働かせたいと思うかが、ドラッカーの言う究極の判断基準です。自分の子供がその人のようになって欲しいと思うかどうかです。

組織の役割について大きなビジョンをもつことは重要ですが、自らのことではなく自らの役割について考えることができることも真摯さの表れです。多様な利害関係者を満足させなければならないため、多様な基準を考え、それらの組み合わせとバランスを考えることができなければなりません。

リーダーの役割

組織のミッションと価値観に沿った役割を果たす

リーダーは、自分中心ではなくミッション中心でなければなりません。

まず、リーダーの役割は、ミッションに基づいてなされるべき課題と適合し、寄せられる期待と適合している必要があります。

次に、リーダーの強みが役割に適合している必要があります。

成果に焦点を合わせる

成果に焦点を合わせるとは、なすべきことを中心に置き、ベストを尽くすということです。

なすべきことに資源を集中するために、なすべきでないことを廃棄しなければなりません。すべての仕事について定期的に見直すことが必要です。知っているべきことをすべて知っていて、なおそれを行うかを自問します。

次いで仕事の優先順位を考え、最も重要な仕事に資源を集中します。

ミッションでさえ陳腐化することを知り、繰り返しミッションを見直すことも必要です。

バランスをとる

非営利組織に優れたリーダーが必要な最大の理由です。多様な利害関係者が存在するため、様々なバランスを考えることが必要になります。

  • 個別的な問題と全体的な問題
  • 短期的な問題と長期的な問題
  • 集中と多様化
  • 慎重さと迅速さ(タイミング)
  • 機会とリスク

慎重さと迅速さについては、特に自らの悪い癖を知ったうえでバランスをとることが必要です。性格が影響するからです。

機会とリスクのバランスについては、失敗した場合に元に戻すことができるかどうかが判断基準です。組織として負えるリスクかどうか、失敗したときの被害は小さいかどうかです。

バランスに関して、ドラッカーは、他の組織や団体のために働くことの重要性を指摘しています。自分の組織に起こる問題を別の視点から見る機会をつくることができるからです。

人を生かし、育てる

リーダーが使うことができるのは、組織内の人材と、人材に課す要求です。

前提として、人は貢献することを好むということを受け入れる必要があります。高い要求基準が人を引きつけます。仕事の基準を高め、人の目線を高く保つことができます。ベストをつくすことを求めるためにも、高い基準が必要です。

人は仕事にベストをつくすことによって成長しますから、仕事を通じて人を育てるという姿勢も重要です。その仕事を今できるかどうかだけでなく、成長の可能性を盛り込むことによって、仕事の目標を高め、組織全体の水準を高めることにつながります。

高い基準は責任を求めることでもあります。リーダーは、権限を委譲する勇気ももたなければなりません。

ただし、高い基準と責任を与えれば、人は勝手に育つと楽観しすぎてもいけません。教育や訓練の機会もさることながら、先生役を用意することも大切です。高い要求をし、励まし、相談相手になる人が必要です。

優れた人材を引きつけ、成果への貢献を通じて自己実現する機会を与えるには、何よりも人を育てることを奨励することが重要です。人を育てることに率先して取り組む人を積極的に見出し、認め、褒め、報い、その事実を組織に知らしめることが必要です。

責任をもち、行動する者は、たとえ無給のボランティアであっても、その人自身がもはやリーダーと呼ぶべき存在です。社会の問題の解決に、組織を通じて貢献しようとする責任を引き受け、実際に行動する人こそ社会にとってなくてはならないリーダーです。

ボランティアに対するマーケティング

非営利組織の主力は無給のボランティアです。ボランティアの規模が、受け入れることができる利用者の規模、すなわち事業の規模を規定します。

ボランティアにとっては、仕事のやりがい、貢献の実感、仕事を通じた自己実現こそが報奨です。

ボランティアのニーズに対応するためのマーケティング、最高の学習機会、プログラムが重要です。

ボランティア向けの優れた魅力的な販促ツールを用意します。最初から関係者を巻き込んで丁寧に作成します。広告や郵送などの非人的手段に頼るのではなく、直接接触するための方法をすべて探り、勧誘することが重要です。

ボランティア向けに最高の学習機会を用意することも重要です。セミナーの質の高さが、ボランティアの大切さ、必要性や期待を伝えることにもなります。

ドラッカーは、ボランティア向けのプログラムとして、行うべき仕事を教えること、トレーニングを行うこと、必要な道具を与えることの重要性を指摘しています。これらを怠ることが、ボランティアの活用に失敗する理由であると言っています。

さらに、ボランティアが行った素晴らしい仕事に、はっきりと言葉で感謝を伝えることも大切です。

活動の評価

自分たちの活動は、継続して評価することが必要です。当初の期待を書きとめておき、成果をフィードバックします。

リーダーの資質

ドラッカーは、リーダー用の性格や資質は存在しないと言います。確かにより優れたリーダーは存在しますが、ほとんどの場合、教わることはできなくても身につけることはできるようなスキルの問題であると言います。

信頼

組織において模範となり、信頼を生むことができなければなりません。

信頼を得るには「私」を考えず、「われわれ」と考えることが大切です。チームを優先に考えます。仕事の手順や計画や成果についてチームのメンバーと合意しておき、メンバーの能力発揮に力を貸します。だからこそ、ボランティアであってもリーダーについていこうと思うようになります。

自らを仕事の下に置くことも必要です。仕事はリーダー自身より重要だからです。最悪のことは、そのリーダーが辞めた後に組織がガタガタになることです。自分中心であった証拠です。

責任を引き受け、逃げることをしてはいけません。なされるべきことを常に考えます。

言い訳もしてはいけません。思ったようにいっていなければ、「間違った、やり直そう」と言えることが大切です。本気で仕事に取り組む者に、本物のプライドが生まれます。

時節

リーダーには時節があると言われます。

確かに、危機に強いリーダーと平時に強いリーダーがいますから、現在、組織が置かれている状況に配慮して、配置すべきリーダーを決めることは必要です。

基本的能力

まず、聞く意欲、能力、姿勢があることです。聞くために大事なことは、口を閉ざすことです。

次に、コミュニケーションの意思があることです。自らの考えを理解してもらう意欲、忍耐が必要です。何度も言い、身をもって示さなければなりません。

リーダーがしてはならないこと

自分のしていることとその理由が、メンバーにとって明らかであると思ってはいけません。決定する前には、人と相談することが不可欠です。議論したり参画させたりし、自分を分かってもらうために時間を使わなければなりません。

組織内の個性を恐れてはいけません。できる人たちの多くは野心的です。自分を押しのけようとする有能な者に取り囲まれる方がリスクは小さいと言います。

後継者を自分一人で選んではいけません。まず、自分に似た者を選んではいけません。コピーは弱いからです。また、No.2を選んでもいけません。言われたとおりにできる人でしかなく、リーダーはできないからです。

手柄を独り占めにしてはいけません。部下を悪く言ってもいけません。リーダーたる者、部下に責任をもたなければなりません。