働き方改革や健康経営が生産性を高めるって本当ですか?

政府では、働き方改革や健康経営といった、従業員向けの取組みに力を入れています。

これらの取組が、

従業員の活力(やる気)向上につながり、生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながる

という考え方です。

これって本当でしょうか?

働き方改革と健康経営が目指すもの

「働き方改革」の目指すものは「魅力ある職場づくり」です。

具体的には、働きすぎを防ぎ、正規・非正規の待遇格差をなくすことです。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。

これらの取組が、従業員の活力向上につながり、生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながるという考え方です。

要するに、

  • 働き方改革は、処遇改善が従業員のやる気を高め、生産性を高める
  • 健康経営は、従業員の健康管理が従業員の活力を高め、生産性を高める

ということなのですが、これって本当でしょうか?

完全に間違っているとまで言い切るつもりはありません。

でも、はっきり言って、

正しくありません。

なぜなら、従業員の活力(やる気)の向上、すなわち、モチベーション(動機づけ)の理解が正しくないからです。

従業員の「活力」(やる気)とは?

悪い処遇や不健康な職場は、従業員の不満を増大させ、間違いなく生産性を落とします。これは正しいと思います。

しかし、処遇を改善し、健康管理を推進したからといって、従業員の活力(やる気)を高め、生産性を高めるとは言えません。

職場環境や処遇などといった周辺条件は、悪い状態になると従業員の不満を増大させます。これは「衛生要因」と呼ばれます。

「衛生要因」は、改善されると不満を減少させますが、満足は高めません。「活力」や「やる気」の向上といったモチベーションを高める要因にはならないのです。

では、何がモチベーションを高めるのでしょうか。

それは、従業員が日々取り組んでいる「仕事そのもの」です。仕事そのものにやりがいがなければ、モチベーションが高まることはありません。

生産性を高めるとは?

さらに言うと、従業員のモチベーションが高まったからといって、生産性が向上するとは限りません。

いくら従業員が熱心に仕事に取り組んでも、仕事の連なりである業務プロセスが生産的なものに仕組み化されていなかったり、事業そのものに価値がなければ、生産性は高まりません。

「生産性を高める」とは、少ないコストで顧客に提供する価値を増大させることだからです。

もちろん、従業員のモチベーションが高まれば、業務プロセスの改善や事業価値の向上につながるような提案活動が活発化する可能性はあります。

しかし、それについても、提案活動が活発化するような仕組みあり、かつ、組織の文化としても醸成されていることが必要です(参考:「成果中心の精神」)。

従業員のやる気がいくら高くても、その高まりを一定の方向に束ねることができる仕組みがなければ、ただの暑苦しい烏合の衆にしかならないのです。

経営者がそのような努力を行わないで、従業員向けに何か特定の便宜を図りさえすれば、歯車が回るように勝手に業績が向上する、ということはありません。

歯車は個々バラバラに回るだけであって、それらを一つひとつしっかりと噛み合わせて一定の方向に力を集めていく仕組みがなければ、意味がありません。

正に、ドラッカーの言うキャンペーン型マネジメントの弊害です(参考:「自己目標管理」)。

経営は、何か特定のことに取り組めばうまく行くようなものではありません。経営はシステムですから、多くの要素が互いに影響し合って全体を動かしています。

ですから、常に全体のバランスを見ながら、全体として向上していくような取組みを、あらゆる角度から行っていかなければなりません。

つまり、「生産性を高める」には、

  1. 従業員のモチベーションを高めること
  2. 従業員の高いモチベーションを顧客価値につなげるための優れたビジネスモデルと業務プロセスを構築すること
  3. それらの仕組みが常に改善・向上していくような組織文化(成果中心の精神)と仕組みを作ること

が必要です。

1.に関しては、「モチベーション」とはそもそも何なのか、「モチベーションを高める」とはどういうことなのか、ということを正しく理解しなければなりません。

モチベーションについて詳しく知りたい方は、「『モチベーション』とは何か?」を読んでみてください。

2.に関しては、経営戦略、組織構造、経営計画など組織全体の運営に関わるものですが、全体を貫く経営哲学としての「自己目標管理」が前提です。

自己目標管理は、「目標管理」という名で、単なる人事管理の一手法に堕してしまっていますが、本来の「自己目標管理」は、経営の本質そのものです。手法ではなく、組織が組織として機能していくうえで不可欠の精神であり姿勢です。一人ひとりの力を組織の力として統合していくための行動原理です。

自己目標管理について正しく知りたい方は、「自己目標管理」を読んでみてください。

さらに、3.に関して、モチベーションを高め、自己目標管理を定着させていくために必要な組織文化を醸成する方法について知りたい方は、「成果中心の精神」を読んでみてください。

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