売り込まない営業の極意

「営業は断られてナンボである」というフレーズを何度聞かされたことでしょう。

アポ取りのための電話掛けのノルマは過酷です。受話器を置くのが時間の無駄なので、片手を受話器に縛り付けた状態で、ひたすらアポ取り電話を掛け続けるという会社もあります。

ノルマが終わるまでは、たとえ夜中の12時を過ぎても電話を掛け続け、相手の迷惑などお構いなしです。「一体誰のために商売をしているのか」と言いたくなります。

「そうやって過酷な試練を乗り越えた者だけが、生き馬の目を抜く競争社会で生き残り、成功することができる」などと言われますが、本当でしょうか。まるで、車が高速で行き交う道路に度胸試しで飛び出して、怪我をしなかった者だけが生きる資格があると言わんばかりです。

そうは言っても、売り込まなくて営業で成約できる方法が果たしてあるのでしょうか。

おそらく、営業で本当に成功し続けている人の極意は、「売り込まない」ところに鍵があります。その方法を明確に体系化した一人がジャック・ワースであり、その方法論が「High Probability Selling」(高確率セールス)です。

神田昌典氏がご自身で実践して成果を確認し、日本にも紹介されました。日本語訳の書籍が出版されており、営業の必読書と言ってよいでしょう。神田氏曰く、セールスに関する限り最強の本です。

この記事では高確率セールスの要点のみを紹介しますが、具体的な質問の仕方や具体例は書籍に豊富に紹介されていますから、是非お読みください。

従来のセールステクニックの問題点

営業の方法論は十人十色と言ってよいと思いますが、従来のテクニックには重大な欠陥があると、ジャック・ワースは指摘します。

代表的なテクニックは、消費者心理の段階(AIDCA)に応じて展開される「5段階のセールスプレゼンテーション」です。5段階とは次のとおりです。

  1. A:Attention(注意)
  2. I:Interest(興味)
  3. D:Desire(欲求)
  4. C:Conviction(確信)
  5. A:Action(行動)

人が直接見込み客に接触する営業活動においては、この5段階モデルに基づいてセールスプレゼンテーションを行うと効果的であると考えるものです。

ジャック・ワースによると、この5段階モデルは、消費者がたどる心理プロセスとしては正しいが、これをセールスプロセスとして使うということは、見込み客にこのプロセスをたどらせるように「操る」ことを意味すると批判するのです。

見込み客が自然とたどるプロセスとしては意味があっても、売る側が故意にこのプロセスに見込み客を乗せようとするなら、見込み客は不愉快になるだろうと指摘します。

そもそも何故そんな無理をしなければならないのでしょうか。元々買う気がない人に売ろうとするからです。

何か特別なことをしなければ買ってくれないお客は元々「有望な客」ではないし、「有望でない客」に時間と労力をかけるのは無駄であるという根本的な考え方が必要です。

どうすれば「有望な客」にだけ営業の時間とエネルギーを投入することができるか、その方法論が「高確率セールス」です。それを支えるのは「質問」の技術であり、お客の「同意とコミットメント」を得る技術です。

有望なお客にだけ時間とエネルギーを投入する

高確率セールスには、「有望な客だけがセールスパーソンの時間とエネルギーの投入に値する」という基本的な考え方があります。

その狙いは、お客との間に互いに満足の行く双方向のビジネスが成り立つ下地があるかないかを見極めることです。「有望でない」という見極めが、なるべく早い段階で行えなければならないのです。

「有望な客」とは、見込み客のうち、次の条件にすべて合致する人です。

  1. 商品に対するニーズがある
  2. 商品を希望する
  3. 費用をまかなえる
  4. 今すぐにわが社から買う意志がある

以上の点は、セールスパーソンが判断してはいけません。お客に、各段階において明確なコミットメントをしてもらわなければなりません。しかも、最後にまとめてではなく、この順番で、各段階ごとに明確なコミットメントを得た上で、次の段階に進まなければならないのです。

セールスパーソンは、見込み客に質問をし、その答えを通してコミットメントを求めます。このプロセスをしっかりとコントロールしなければなりません。

お客の心をコントロールするのではなく、お客が自分の本心に従って明確にコミットメントできるよう、セールスパーソンは自らの心をコントロールする、すなわち「売り込みを自制する」ことが求められるのです。

見込み客には、上記の4段階のどこにおいても、「自分は有望な客ではない」ことを表明し、セールスプロセスから離脱する完全な自由を持っていることを自覚し続けてもらう必要があります。本心が「ノー」であれば、躊躇せず「ノー」と言ってもらわなければなりません。

この自由が完全に保証されるからこそ、「有望な客だけに時間とエネルギーを投入する」ことが実現できるのです。

ちなみに「コミットメント」とは、一般的には、自分の立場、考え、意志を明らかにすることを意味します。高確率セールスにおいては、売り手の質問に対して、見込み客が本心に基づいて「イエス」や「ノー」などの明確な答えをすることであり、互いに合意した内容の実行を請け負うことです。

なお、これらのプロセスを踏む前提として、次の条件が重要です。

  1. 互いに信頼し、尊敬し合える

見込み客の人となりを知ることができ、互いを信頼し、尊敬し合う人間関係づくりができることが、セールスプロセスを進める前提です。この前提がなければ、たとえ他の取引条件が良いものであったとしても、「有望な客」とはみなしません。

とにかく重要なことは、見込みのないお客に時間を浪費しないことです。すべての行動に費用がかかるのですから、最も貴重な資源であるセールスパーソンの潜在的な感情的消耗を極力なくし、有望な客と仕事をする時間を奪われないようにしなければなりません。

なお、高確率セールスについて更に詳しく知りたい方は、次の記事を参考にしてください。

おすすめ