起業に根本的に向いていない人とは

筆者は、経営コンサルタントとして、主に中小企業の経営者あるいは創業希望者と数多く会って相談を受けてきました。

経営には様々な理論があり、テクニックやノウハウに当たるももたくさんあります。それらの多くを知っておいたほうがよいのは間違いありません。しかし、はっきり言って、それらは学ぶことができますし、アウトソーシングできるものも少なくありません。

筆者の多数の相談経験から考えて、経営者の条件をあげ始めればきりがありませんが、これだけは絶対に外せないと思えるものがあります。

熱意がなければ成功しない

それは、やはり「熱意」だと思います。

コンサルタントを始める前であれば、「熱意」が大事だと聞くと、とても陳腐な言葉に聞こえました。確かに、多くの名経営者は「熱意」の重要性をあげますが、それは成功した人の後付の綺麗事のように感じていました。

しかし、その後の自分の経験から、やはり最後の最後まで外せないものは「熱意」だとつくづく思うようになりました。

もちろん、「熱意」であれば何でもよいと言うつもりはありません。熱意にも方向性があり、「事業が何のためにあるのか」ということと当然にリンクしていなければなりません。

事業は社会の役に立たなければなりません。人の幸福や成功、社会の健全な維持・発展に貢献できるものでなければなりません。だからこそ、対価をいただく価値があるものです。

ですから、金儲けにひたすら熱意があり、そのために嘘や誤魔化しをするような人は、経営者になる資格はもちろんないと思います。

創業希望者の4つのタイプ

創業の相談に来る人には、大きく分けて4通りのタイプの人がいました。

事業に熱意があり、ビジョンが明確である人

第一のタイプは、熱意があり、具体的なビジョンやビジネスモデルが明確にある人です。事業を起こしたいけれども、資金が不足しているので、融資などの資金調達のために事業計画書をつくりたいうという人です。

そういう人は、課題が明確で、事業に関して何か質問をすると、打てば響くように明確な答えが返ってきます。ただ、経営理論に詳しいとは限りませんので、資金調達のために事業計画を補強すべきポイントが漏れていることはあります。

こういう人の場合、宿題として考えてきてほしいとお願いすれば、ちゃんと考えてきます。中には、徹夜をして考えて、次の日にすぐ相談にやってくる人もいます。

考えても分からなければ、「この部分はどうしても分からなかったので、どう考えればよいか」と自分から聞いてきます。はっきりとした問題意識を持って聞いてきます。

理論の使い方が分からない場合は、そういうことはよくあります。これは経験や慣れの問題ですので、悪いことでは全くありません。

このタイプの人は、自分で情報を調べ、自分なりに解釈し、取捨選択して、独自のアイデアにつくり上げていくことができます。ここで重要なのは、頭の良さやテクニックよりも、熱意や使命感や問題意識です。

自分のやりたいことがはっきりしていることで、情報感度が高くなり、情報の選別や結合ができるのです。自分の中で芯の通った基準があるからです。同じ情報に触れていながら、アイデアがある人とない人の違いは、そういうところにあります。

このタイプの人は、人脈が広いことも多いようです。積極的なタイプなので、どんどん人間関係をつくっていけます。営業が苦にならない人も多いようです。

ビジョンはある程度明確であるが、熱意が感じられない人

ビジョンが明確な人は、ほとんどの場合、熱意があるのですが、熱意が感じられない人もいます。独自のアイデアで事業を起こすというよりも、今までの経験でそのまま独立するタイプの人によくあります。

こういう人は起業の動機も曖昧です。成り行きでやるとか、収入が増えそうだからとかいう理由しか見当たらないことが多いです。

このタイプの人は、打てば響くような反応がありません。質問しても、答えは曖昧なことが多いです。中には、こちらの質問や要求に対して、メモも取らない人がいます。事業計画書の修正をお願いしてもメモを取らないのです。

そもそも筆記用具を持ってこない人も多いです。「何をしにきたのか」と思ってしまいます。中には、「筆記用具を忘れたから、私が質問することにあなたが答えて、その答えをメモにして、私に後でコピーしてくれ」と要求する相談者もいました。唖然としてしまいました。

このタイプの人は、期限を守らない人が多いです。平気で遅刻してきます。やると約束したことをやらないことも多いです。筆者が要求したことではなく、自分がやると宣言したことであってもです。

それでいて、自分から謝りもしません。こちらがそれを指摘しない限り、知らん顔をしています。バレなければ構わないと思っているところがあります。

筆者が経験した中では、このタイプの人で、実際は起業が目的というよりも、起業を理由に融資を受けて、別の借金返済に当てることを目的としている人が数人いました。そういう人は、融資が通ることはほとんどありません。ヤミ金のようなものでもない限り、借金の情報を隠すことは難しいからです。

明らかに嘘をついていることが後で分かった人もいました。それが分かっても、謝罪するどころか、「それがどうした」という感じの態度で、言い訳をするだけでした。

このタイプの人は、熱意がないだけでなく、誠意も感じられませんでした。顧客のために仕事をするタイプにはどうしても見えませんでしたし、自分がそういう会社と取引したいとはまったく思いませんでした。

ただ、中には営業経験者で言葉が巧みな人はいます。そつのないやり取りをするのですが、しばらくすると、「ああ言えばこう言う」的な言い訳や誤魔化しが多いことが分かります。

いずれにしても、顧客のために誠意をもってサービスするタイプではありませんので、事業が成功することはありません。

制度や手続きにこだわる人

第二のタイプは、制度についてやたらと聞いてくる人です。個人事業を開業するにはどのような手続きが必要か、社会保険の手続きはどうしたらいいか、自宅の家賃は経費にできるか、などです。

このようなことは、ググればすぐに出てきます。いずれも法律などで決まっている制度ですから、相談する内容ではなく、確認する内容です。白か黒かの世界であって、役所に聞けば答えははっきりしています。考える必要もないことです。そのようなことを相談しに来るのは、時間の無駄です。

社会保険の手続きなどは、制度で決まっていても面倒ですから、アウトソーシングすれば済みます。自分でやる必要はありません。

そもそも、経営というものは一つの答えなどありません。やり方も方向性も千差万別です。人によってまったく違うやり方をして、どちらも成功することがあります。正解がないものだからこそ、考えることや相談することに意味があります。

そういう人に「そもそも、やろうとしている事業の内容はどのようなものか」と聞くと、「それはまだはっきり考えていない」などと答えます。それを考える前に手続きを相談しても意味がありません。

なぜそのような状態になっているかというと、起業の動機が「今の仕事を辞めたい」とか「もっと金儲けしたい」とか「楽をしたい」といったことだからです。だから起業することだけを先に決めて、何をやるかは後で考えようと思っているのです。

そういう人が気にすることは、制度や手続きです。というよりも、制度や手続きのことしか思いつかないのです。

このタイプの人が、後々実際に起業できたという話を聞くことはありません。「いつか起業したい」と思いながら、いつまでも起業できない人です。なぜなら、起業するために最低限必要な準備ができないからです。つまり、「何をやるつもりか」を決められないということです。

やりたいことが明確にあって、その次に、自分で起業をするかどうかを決めることになるのであって、起業は手段にしか過ぎません。起業を目的にして、その手段として「何をやるか」を決めようとしても、本末転倒ですから、普通の人にはそんな決め方はできません。

ただし、例外的に、金儲けが大好きで、どんな事業をやっても一定程度成功できる人はいます。才能があるとしか言いようがありません。このような人は、情報感度がきわめて高く、アイデアも豊富ですから、やりたいことははっきりしています。制度や手続きに興味はなく、士業に任せます。特定の事業に熱意を持っているわけではなく、強いて言えば、金儲けや成功に熱意があるといったところでしょうか。

自己中心的な人

第三のタイプは、実のところ、いちばん厄介なタイプです。自分に自信があることは間違いなのですが、「自分の能力をこのような形で活かしてこのような人たちの役に立ちたい」という意味で自信があるのではなく、「自分にはこんな能力があるから、この能力をどう役に立てて事業ができるか考えろ」あるいは「自分の能力をお前の役に立たせてやるから、お前は何をやっているか教えろ」という相談の仕方をしてきます。

このような発想は、要するに自己中心です。一倉定氏がよく仰っていた「天動説」型です。自分を中心に世界が回っていると思っている人です。熱意の方向が明らかに間違っています。

いくつか具体例をあげてみます。筆者が自治体の経営相談員をしていたときの話です。

自分が考えたアイデアがいかに素晴らしいかを力説し、「自治体で買い取ってほしい」あるいは「管轄内で自分のアイデアを製品化し、販売してくれる業者を探してほしい」と言ってきます。要するに、自治体に対して、お客を見つけるか、自分たちがお客になれと要求するわけです。このような例は意外と多いです。

経営でいちばん大変なのは、営業活動です。実際にお客を見つけ、買ってもらうことです。これが経営でいちばん難しく、いちばん大事なところです。これができなければ、事業はうまくいきません。事業のニーズがないということだからです。売ることができない人は経営者にはなれません。

そんな経営の中核的仕事を、自治体にやれと言うわけです。「そんなことはできない」と言うと、「こんな素晴らしいアイデアに協力しないとは自治体としてけしからん」となります。

自分のアイデアに自信があるのは結構ですが、ニーズがあってこその自信であり、アイデアの素晴らしさを決めるのはお客であるということが分かっていません。

経営者としていちばん大変な仕事を、よりによって自治体にやらせようとするわけです。自分の金儲けのために、市民の税金を使わせろと言うわけです。

もう一つの具体例は、「事業を起こして、ここの自治体とコラボをしたい。でも、この地域に引っ越してきたばかりで詳しいをことを知らないので、この自治体でどんな問題があり、どんな施策に力を入れているか教えてほしい」というものでした。

筆者は経営相談員であって行政官ではありませんので、「具体的な事業経営に関する相談や経営支援施策に関する説明には対応できるが、それ以外の全般的な行政施策について答えられる立場にはないので、具体的に聞きたい分野があれば担当課を教える」と回答したところ、怒り出しました。

そもそも、行政施策については自治体のWebサイトに詳しい情報が出ているため、それを調べればほとんど分かります。調べても分からないことがあれば、そこに掲載されている担当課に問い合わせることもできます。そのことを説明したところ、「自分で調べろと言うのか。説明するのが筋ではないか。」と、またまた怒り出しました。

行政サービスとして良くない対応をしているという意見もあるかもしれませんが、この相談者が経営者として相応しくないことは明らかです。自己中であることも明らかです。これは、自治体が相手であるということを離れて、一般の人同士の商談として考えれば分かります。

これから事業を始めようとする人が、ある著名な人のところにやってきて「私はあなたが著名であることを知っている。ぜひ、あなたと事業でコラボをしたい。でも、私はあなたがやっていることをよく知らないので、あなたが何をやっているかを教えてほしい。そうすれば、どのような形でコラボできるかが分かるから。」と言ったとしたら、その著名な人はどう思うでしょうか。

普通に考えれば、見ず知らずの他人が自分とコラボしたいとやってきて、でも自分のことを知らないから説明しろと言われたら、明らかに無礼だと思うのではないでしょうか。

コラボしたいのであれば、まず相手の情報を詳しく調べて、相手の強みや弱みを理解して、「私はこのような形であなたのお役に立てるから、お互いにWin-Winの関係が築ける」という提案をするのが筋ではないでしょうか。

例えば、著名な作家のところに見ず知らずの人がやってきて、「私はあなたが署名な作家であることを知っている。でも、あなたの本を読んだことがないので、どんな内容の本を書いているのか、私に説明してほしい」と言ったら、普通、その作家は怒るでしょう。

「私は能力があり、あなたとコラボしてやるから、あなたの情報を教えろ」というのは、明らかに自己中心的です。能力があるのであれば、それがどう相手の役に立つのかを、自分から提案して、相手を納得させるのが筋です。

これができないのであれば、「自分の商品の素晴らしさが分からないなら、分からない客のほうが悪い」という類の経営者と同じです。このような経営者が成功することはありません。

相談するということ

調べること、考えること、意思決定すること、そして相談すること、これらの違いをよく分かっていない人が多いように思います。

調べて、考えて、意思決定するのは、経営者あるいは創業希望者が自分で行わなければならないことです。

ところが、上の例であげた相談者の多くは、ネットや本で調べればすぐに分かる事実を、調べることが面倒だから、「相談する」と称して安易に教えてもらおうとします。

考えることも自分の仕事です。これも面倒だから、「相談する」と称して、自分の代わりに考えてもらおうとします。自分のビジネスモデルや戦略を代わりに考えてもらおうとします。これは経営者であることの放棄です。

意思決定についても経営者の仕事ですが、「相談する」と称して、自分の代わりに決めてもらおうとします。「AとB、どちらがよいか、決めてもらえませんか。決めてもらえたら、そのとおりにやります」という経営者さえいます。これも、経営者であることの放棄です。

調べて、考えて、意思決定するというプロセスは経営者のものです。いつもこれらを繰り返すことで、知識を増やし、経験を重ね、洞察力を磨き、直感力を高めます。

その過程で、参考とするために、相談ということをします。一人で行っていると、どうしても考えが偏ったりするからです。

「このような情報を収集し戦略を立案しようとしているが、他に収集すべき情報はあるか。」、「自分はこう考えるが、意見がほしい。」、「このような戦略を考えているが、何か漏れている点、考慮すべき点、間違っていると思われる点があるか。」、「AとBのうち、こういう理由で自分はAを選択すべきと考えるが、どう思うか。」などが、相談するということです。

事業に情熱がある人というのは、調べて、考えて、意思決定することを、徹底して自分で行おうとします。それを放棄して、他人にやってもらおうとはしません。ここが重要なところです。

最初から完璧にできるはずはありませんし、その必要もありません。まず、自分でできるところまでやってみて、そのうえで相談するから学びがあるのです。

起業に向いていない人かどうか

「熱意」のない人は起業してもうまく行かないでしょう。これは間違いないと思います。

経営には一つの正解があるわけではありません。分からないことだらけの中で、自分で情報収集し、顧客の意見を聞き、従業員や取引先の意見を聞いて、考えて考えて、なすべきことを決定していかなければなりません。自分でどんどん勉強することも必要です。熱意がなければ続けられません。

自分から調べて学ぶという姿勢がなく、自分でやる代わりに教えてほしいというだけの人が、日々の経営で意思決定を続けていけるはずはありません。

ただし、熱意があるから起業してうまくいくとは限りません。それが事業の難しいところです。熱意がある人は多いです。熱意がある人たちの間で競争して勝ち抜かなければなりませんから、熱意がないことは失敗の条件になりますが、熱意があることだけが成功の条件にはなりません。

努力し続ける姿勢は必要です。才能があること、向き不向きがあることも認めざるを得ません。ですから、起業したいという人には、よほどのことがない限り、それを勧めません。

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