俊敏な競争を行うための4つの戦略的特質 − 「俊敏な企業(アジル・カンパニー)」とは何か?②

俊敏性とは、新しい顧客機会に対して、社内の業務と社外の関係を絶えず適応させていくことです。絶え間ない変化への対応であり、変化をマネジメントする継続的なプロセスです。

変化する状況に応じて、文字どおり「俊敏」に対応するところに意味がありますから、何か一律の手法や厳格なステップが存在しているわけではありません。

重要なことは、企業の俊敏性に関する考え方を理解したうえで、具体的な企業目標や戦略を構築し、実践することです。

この場合に、外せない4つの基本的考え方(戦略的特質)が示されています。これらの特質は、それぞれが密接に関連しています。

顧客を豊かにする

製品の本質は、顧客に価値を与えることです。その価値は、顧客にとっての価値であり、顧客の最終利益を豊かにするところにあります。

企業顧客であれば、一つは、顧客が業務、在庫管理、その他のインフラストラクチャに関わるコストを低くする方法です。もう一つは、顧客の市場への浸透、市場シェア、新規市場開拓能力を増強する方法です。

あるいは、顧客を豊かにする何かを容易にすること、顧客が深刻な制約条件を減らす機会を得られるようにすることによって、間接的に顧客を豊かにする方法もあります。

コストを下げるにしろ、売上を上げるにしろ、その具体的な豊かさの中身は、顧客の戦略によって決まります。したがって、何をもって顧客を豊かにできるのかは、顧客に聞かなければなりません。

そこで、顧客との協働関係の構築が不可欠になってきます。

顧客の問題解決としての製品

俊敏な企業は、顧客を豊かにするために価値を提供します。製品は、顧客の個別の問題を解決してくれる手段として認知されるものです。顧客が代価を払うのは、製品に対してではなく解決に対してです。

顧客の問題解決に至るプロセスに明確にコミットしなければなりません。実のところ、そのプロセスの総体が製品であると言えますから、自ずと物理的製品に情報やサービスが融合されます。

伝統的な製品は、顧客の利益に間接的な影響しか与えません。製品は、何らかの影響力をもたらす前に、まず、顧客が企業であればその事業活動の中に、一般消費者であればその消費活動の中に組み込まれなければなりませんが、それにかかる費用(時間や行動の手間など)は一般に顧客が負担します。

しかし、解決自体を販売することになれば、顧客の事業や消費に組み込まれ、実際に問題を解決して初めて販売されたことになります。

企業は、個別の顧客に解決を提供する観点から、自らの製品が本当は何なのかを考え直す必要があります。誰が買うのか、製品とは何か、それらはどのように作られ、売られるべきか、そして買う側はそれにいくら支払うべきか、といったことです。

企業のマーケティング戦略も、解決を売ることに伴う顧客価値に基づいて立案、実行されます。

解決というのは、多元的です。物理的製品と情報とサービスの組み合わせによって、変化する要求事項に対応します。解決によって提供する価値の本質は、個々の顧客のニーズや問題に対する知識、専門技能、情報の応用であり、それらのプラットフォームの役割を果たすのが物理的製品です。

解決型製品では、デザインが重視されます。この場合の「デザイン」は、製品開発の単なる一工程ではなく、生産者から顧客までに至る全体的なプロセスを包含します。開発され、完成された製品というよりも、その提供、カスタマイズ、顧客における利用、再設定、グレードアップのみならず、再生、再利用、廃棄に至るまでの循環・発展を包含します。製品そのものの中に、そのような循環・発展の余地が組み込まれていることが求められます。

生産資源としての中核的能力

俊敏な企業の最も重要な生産資源は、中核的能力の集合体です。それはまず人であり、次いで技術や知識です。

個々の顧客の必要に合わせて、製品、サービス、情報の組み合わせを調整する能力、そのために必要な資源の調達力が重要になります。

情報は、会社にとって価値ある知的資産でもありますので、評価し、共有し、保護しなければなりません。もちろん、情報そのものも単独で商品となり得ます。

顧客との長期的な協働関係と製品の継続的進化

顧客を豊かにするための「解決」の内容は、顧客によって固有のものであり、顧客が独自に定める戦略的目標の達成に関わります。したがって、解決を売ることは、長期にわたって持続可能な相互依存と対話の関係を必要とします。

顧客は、彼らの進化する必要を満たすことができる新しい製品が何かを明らかにするために、売り手と協働していくことを求めるようになります。

顧客の要望に応じて顧客関係チームを組織し、顧客と共に働くことによって、常に顧客の潜在的ニーズを先取りしようとする企業もあります。

このような協働は、「解決」を現実のものとするために、製品開発から製品の利用に至る全てのプロセスに及ぶはずです。売り手の企業側では、プロセス全体に関わる機能横断的なチームが対応しなければなりません。

顧客が製品開発に積極的に参画することができれば、無駄なコストを省きながら付加価値を高める方法を見出すことができる可能性も高まります。チームには十分な情報や権限・責任を与え、成果への直接的な報酬を与えることによって、在庫の削減、製品品質の改善、工程改善、リードタイムの短縮を達成する例は、すでに一般的です。

長期的な協働関係は、継続的な解決型製品が世代として進化する可能性を生み出します。つまり、顧客の問題の進展の段階に沿って、長期にわたり解決方法が発展するということです。カスタマイズやグレードアップを容易にする前提でデザインされるようになります。

さらに、協働関係が深まるにつれて、顧客について深く知ることができるようになるため、顧客機会を創造できる可能性が出てきます。顧客の潜在ニーズに気づくことができれば、それを望むに値するものとして提示することができます。

以上のような協働関係は、主に企業顧客を想定していますが、一般消費者に対しても同等の関係を築くことは可能です。それは、マス市場の顧客を「個」として扱える情報処理能力によって可能になります。つまり、個々の顧客データを深く取り込むことを意味しています。顧客が注文した特定の製品の特徴を明細に記し、それらを直接に物理的生産プロセスに伝達できることが必要です。

生産者による最終消費者へのダイレクト・マーケティングは、個々の顧客中心の生産を特徴づけるものです。ダイレクト・マーケティングによって、生産者は消費者と直接に関係し合うことができるので、顧客が望むものを明らかにするを助け、顧客のために付加価値を高める新しいサービスの機会が開かれます。

なお、製品の個別化や継続的進化には、注文に応じてあらゆる生産単位で多量の生産を行える能力が不可欠です。自社の生産システムがそのようにフレキシブルであることも必要ですが、顧客機会に応じて柔軟に生産資源を組織化する「仮想的組織構造」を活用し得る能力を身につけることも重要です。

増価と報酬の連結ダイヤグラム

アジリティ・フォーラムのサプライヤー・サポート・フォーカス・グループが、顧客企業と供給元との相互作用の程度を図示する方法を開発しました。「増価と報酬の連結ダイヤグラム」と呼ばれ、3つ次元の軸によって、顧客企業と供給元との連携の程度が測られます。

第一の軸は、「増価」軸です。製品の定義に関わるもので、製品がどこまでの範囲を指すのかを表します。原点に当たるのは、単品としての物理的で標準的な製品です。軸の目盛りが増すにしたがって、情報やサービスが付加されたり、カスタマイズやグレードアップの余地が増したりします。つまり、第一の軸は、顧客を豊かにする程度を表すということができます。言い換えると、製品の定義や開発における顧客との協力の程度を意味します。

第二の軸は、「リスク・報酬」軸です。供給元と顧客の間の財務的取り決め、すなわち供給元が顧客から受け取る報酬に関わります。原点に当たるのは、単品製品の一回限りの単価に相当します。軸の目盛りが増すにしたがって、成果報酬的な性質を帯びるようになります。つまり、顧客が収益を増やしたり、コストを削減できたりする成果をどの程度共有する形で報酬を受け取るかということです。共有の程度が増すということは、供給元にとっては、それだけ報酬のリスクが増す、すなわち、報酬が高くなることもあれば、低くなることもあるということを意味します。

第三の軸は、「ビジネス・プロセス連結」軸です。供給元と顧客のビジネス・プロセス上の結びつきの程度を表します。原点に当たるのは、単品製品の注文・販売のみで完結する関係です。軸の目盛りが増すにしたがって、連結の度合いが増し、恒常的な取引関係、情報システムの連携による受発注のやり取り、顧客の販売情報を供給元に提供することによる自動納品、製品開発プロセスからの協力、全面的な業務統合などへと進みます。

3つの軸は、それぞれが垂直に交わる3次元軸として表現されますが、実態は3つの軸がまったく独立に動くわけではありません。第一の増価軸の目盛りが増加するにしたがって、第二のリスク・報酬軸の目盛りが増加することが一般的です。また、第三のビジネス・プロセス連結軸の目盛りが増加するにしたがって、第一の増価軸と第2のリスク・報酬軸の目盛りが増加することが一般的です。自然にそうなるということではなく、そのような方向に進むのが、俊敏な経営につながるということです。

競争力強化のために協力する

俊敏な競争においては、可能な限り速く、高い費用対効果で、俊敏な製品を市場にもたらすことが求められます。その実行においては、企業内および企業間での協力が重要です。競争しながら協力することも可能であり、競合同士が協力する例は増えています。

協力を不可欠にしている環境要因には、製品サイクルが短くなっていることがあります。必然的に、製品開発および市場化のためのコスト、失敗の可能性も高まります。

協力によって、これらのリスクを分散したり、小さくすることができます。互いに得意分野に特化することによって中核的能力を活用し合うことができるため、問題解決の可能性を高めつつ、埋没原価やリスクを減らしつつ、開発時間を短縮できます。

逆に、そのような効果が期待できない協力に意味はありませんから、誰とどのように協力するかを考える上では、目的を定め、明確な基準に従って協力相手を評価しなければなりません。目的には、サイクル・タイムの削減、開発および営業コストの削減、リスクの縮小、技術移転の加速化、短い製品の利益寿命による影響の削減などが考えられます。

協力を可能にし、円滑に活用するためには、チーム・マネジメント、新たな評価・報酬制度、知的所有権を守りつつオープンに情報交換できる環境の創造、協力のための明確な基準(ビジネス・プロセスにおける相互接続の基準など)、信頼を維持するための倫理規則、互いの法的・財政的利益の保護などが不可欠です。

協力は、市場において競争力を持つ限りにおいて維持されるべきものです。市場の変化に応じて再編成や再構築がなされるべきものであり、その判断基準も明確でなければなりません。

仮想的組織構造

機会中心主義に基づく中核的能力の提携を、特に「仮想的組織構造」と呼んでいます。企業の内外に分散している適切な能力を持った人々を、明確な問題に的を絞ったチームへと組織化することによって、実質的な組織として機能させます。

相互補完的な中核的能力を明らかにした上で、それらを特定の顧客機会の満足のために意図された完全な生産能力へと低コストで統合できることが求められます。

敵対的な社会環境は、企業の内部、外部を問わず、俊敏性を妨げます。信頼、尊敬、配慮を特性とする関係が不可欠です。コミュニケーションにおいては、几帳面かつ正直で、オープンであること、完全であること、すべての倫理、健康、安全の問題について先を見通す姿勢を持つことが必要です。

信頼は経験の共有を通して深められますが、まずは顧客価値への献身に共鳴できることが必要であり、明確に定式化された意思決定の方針に基づき開始されるものでなければなりません。

仮想的組織構造は、関係する人々と企業同士が一つの企業体において平等な参加者であるという相互の承認に基づくものです。その企業体は、その中の誰もが完全には所有せず、あるいは誰もその企業体に所有されてはいません。

特徴は、当事者間の対話型の関係、物理的な場所に制約されない統合、不確実な市場の変化に対応しつつ発展する性質、すべての当事者によって受け入れられた共通の成功に対するあらゆる面での責任です。

仮想的組織を定常的に形成する能力は、それ自体が強力な競争優位性です。通信と情報交換の技術がしかるべきところにあり、自由自在の接続を支援する能力があり、企業内のみならず、企業間の情報統合が可能でなければなりません。物理的な場所に制約されず、情報の統合によって実現されるのが仮想的組織構造です。

企業間の柔軟な提携ができる企業は、それ以前に、企業内の機能横断的な統合が可能でなければなりません。従業員への権限委譲、自己組織化的で自己管理的な機能横断チーム、業績および専門技能に基づく報奨、より水平的な経営管理階層、問題発生地点での意思決定などが、企業内において実現できてきることが前提です。

俊敏な競争のために仮想的組織構造が求められる理由は、いかに大きな企業でさえ、生産の価値連鎖のはじめから終わりまで、世界一流の能力を維持するのが不可能になったからです。製品やサービスの利益寿命が短くなっているため、新しい生産資源を頻繁にかつ同時並行的に創造あるいは組み合わせることが不可欠になっています。しかも、求められる生産資源は、それぞれに世界一流の専門能力でなければなりません。また、変化する顧客機会に速やかに対応できなければ、競争に破れ、淘汰されます。

成功は、自社の持つ世界一流の能力を明確化し、それらを他企業が持つ補完的能力との統合のために調整できる場合に限られます。ただし、提携には、情報通信技術の進展により場所的な制約はないため、真にグローバルな提携が可能です。それは同時に、競争もまた真にグローバルになるということでもあります。

今日ますます、グローバル市場もまた断片的になっています。特定の性能仕様や多様な社会の顧客の好みに応じて、世界製品をカスタマイズする必要があるということ、そして、高付加価値市場においては継続的な新製品の導入と既存製品群の絶えざる改善に重きが置かれるということです。

とりわけ、急速に変化する断片化した高付加価値市場では、新製品のデザイン、配送、そしてサービスに必要な種々の専門技術を素早く同時にもたらす能力が、競争優位性に決定的に重要です。

変化と不確実性を自在に操るための社内組織

組織化は、変化している市場機会を有利に活用するために行うものです。

必要とするすべての資源を社員が応用し、コンセプトからキャッシュを生み出すまでの時間を短くすることができなければなりません。そのための組織は、革新的で柔軟な構造を持ち、経験権限の分散化を通じて素早い意思決定を可能とするものでなければなりません。

中核的能力を基盤とする組織

組織の競争力を決定する重要な資源は、中核的能力です。

他の部門や事業部、あるいは他の企業にある中核的能力に常日頃から手を伸ばせるようになっていて、多くの顧客のために個別的に生産するという目標を達成する上で最良の方法を見出すことができなければなりません。

企業の中核的能力を明らかにして、その活用を優先することを全社員と共有することによって、組織の統合性とコミュニティ意識を醸成します。

ただし、企業の中核的能力は不変ではありません。その評価と優先度は、市場や顧客機会によって変化しますから、従業員に対する継続的な教育とトレーニングが必要です。教育やトレーニング自体が、従業員の献身を維持することにつながります。

なお、中核的能力の評価や優先度の変化は、外注、提携、ジョイント・ベンチャー、仮想的組織構造の選択についての判断基準ともなります。

俊敏な組織の条件

俊敏な組織は、最新鋭の病院の救急治療室にたとえられます。人材、技術、施設などの資源が蓄積、共有化され、利用可能な状態になっており、多様な問題を持つ人々の特定の要請を満たすために、素早く組み合わせることができます。熟練の知識や技能を持った人材が、自ら必要なチームを形成します。

組織が、救急治療室と同様に機能するためには、次のような条件を満たす必要があります。

  • 豊かな熟練技能と知識を持つ人々で全従業員を構成し、維持すること
  • 変化する市場機会とそれぞれの顧客の要求に応えるために、それらの人々に必要な資源を供給すること
  • 組織の壁の構造を変え、企業内の人々、技術、情報への連結、直接的な競争相手をも含む他の企業に分散した適切な資源への連結を可能にすること

新たな顧客機会の競争における緊急性に即応するために、物理的な距離を超えて適切な設備や知識へのアクセスを可能にしながら、専門知識を統合することです。この統合は、新たな顧客満足を創造するための生産資源を仮想的に生み出すことを意味します。

なお、「組織の壁の構造を変える」とは、組織の壁をなくすことではありません。知的財産は、共有しつつ保護されなければならないからです。何を共有し、何を保護するのかを、顧客機会に応じて変える必要があり、その都度、その範囲を明確にしなければなりません。

俊敏な組織のマネジメント

俊敏な組織のマネジメントは、命令と統制に代わって、リーダーシップ、動機づけ、信頼によって行われます。

リーダーシップは、戦略的目標の設定と、それらを満足させるのに必要な人的、技術的資源の獲得と維持において発揮されます。明確な企業理念と公約のビジョンを掲げ、大胆な目標を設定することが大切です。

全従業員が企業の目標、経営の原理、優先順位、企業が勢力を傾けていることを理解できるように、内部のコミュニケーションに十分な投資を行うことが必要です。従業員が目標達成に向けて自らの貢献を考え、行動するためのコミュニケーションであり、リーダーによる支援提供の場です。

動機づけの目的は、起業家精神を持った従業員を生み出すことです。すべての従業員が、全社的な問題を共有し、全社的な責任感覚を持ち、全社的な成功に貢献するためのイニシアティブを発揮できるようにすることです。そのために必要な道具は、従業員に与えられなければなりません。

各従業員が設定する個別目標の調整と、進捗状況のレビューも不可欠です。個別目標が適切なものとなるためには、企業目標への支持が不可欠であり、企業目標やその戦略計画の策定プロセスに従業員を巻き込むことも望まれます。

信頼とは互いの強みに依存することであり、起業家精神を持つ従業員が協力するために不可欠です。信頼なくして協力はありません。顧客への問題解決を提供する現場の従業員が、その方法を一番良く知っているということを信じなければなりません。

人と情報の影響を最大限に活用する

企業が用いる資源のうち、原材料、生産設備、マーケティング・テクニックなどは、どこの企業でも素早く入手できるようになっているため、それらが競争力の源泉にはなり得ません。

容易に入手できないのが、知識、専門技能、イニシアティブ、動機づけ、人々の献身などです。それらこそ、企業間での際を生み出す随一の要素です。

実のところ、企業が本当に売っているものは、顧客との長期の関係における技能や知識、専門技術です。顧客が豊かになるために提供される価値は、働く人々の技能、知識、創意から生み出されます。

俊敏な企業は、従業員がもつ知識や専門技能、イニシアティブが最大限に発揮され、情報が最大限に活用されるような企業文化を有します。そのような企業文化では、従業員一人ひとりが起業家としての意識を持ちます。権限を分散化し、従業員が必要とする資源を供給し、共通の成功のための相互責任の風土を強化し、革新に対して報いることによって培われる文化です。何より重要なことは、従業員が自ら考える組織になることです。

経営者の重要な責任は、従業員に、生産や情報通信に関わる技術、常に変化している情報や知識資源へのアクセス権を与えることです。従業員とのコミュニケーションを重視し、必要な投資を行うことも重要です。

意思決定権限の分散は、動機づけを強めると言われています。とりわけ、顧客満足についての問題を全員の仕事として共有させることは大きな影響をもたらします。

俊敏な職場でうまく能力を発揮するためには、人々は高いコミュニケーションの技術を持たなくてはなりません。その技術はチームで働く環境に適合し、変化する仕事の割当に直面して柔軟であることが必要です。距離を超えたネットワークを持つチームに参加できるよう、情報技術を活用できることも求められます。

全員がオーナーのように考え、成功のための責任を共有し、その種の献身をもって行動する必要があります。

継続的教育の重要性

多くの企業に欠けているのは、従業員がすでに持っている専門知識や、競争すべき市場に参入するのに必要な専門知識についての体系的な「能力の目録」と、従業員が現在持っている専門知識から今後持たせるべき専門知識へと移行するための「知識の地図」です。

従業員に一定の雇用を保証したうえで、常に新しい中核的能力に必要な知識や技能を身につけるための教育訓練を提供しなければなりません。

チームが有効に機能するためには、チームで学習できること、テーマ別ではなく問題別に組まれたカリキュラムも重要です。

能力発揮に不可欠な報酬制度

起業家精神の発揮を求めるなら、それに相応しい報酬制度も用意しなければなりません。従業員が機能横断的なチームで仕事をするなら、そのチームの成果およびその成果への貢献によって報酬が支払われなければなりません。元の所属である機能部門の評価基準を適用するなら、機能部門の利害代表となってチーム内での対立を生むおそれがあります。

チームを作っても、報酬制度は以前のままであることが少なくありません。このことは、チームが機能しない致命的な原因の一つです。

多くの研究の結果、金銭的な報酬に非金銭的な報酬が加えられると、動機づけと献身が持続されることが分かっています。同僚からの尊敬や、自分で設定した目標の達成から生まれる満足は、同様に強力な動機付けとなります。

権限委譲の留意点

権限委譲は無謀であってはいけません。業務遂行に責任を持つ人間にのみ、意思決定を行い、行動を起こし、リスクを引き受ける能力を与えるものでなければなりません。

問題解決の権限は、問題の存在する場所で、その問題と取り組んでいる人に、できるだけ近づけることが原則です。彼らが最良の問題解決法を知っているはずだからです。彼らを誠実に扱い、彼らの知性を尊重して、適時、価値ある情報を提供することで育成し、それに基づいて行動する権限を与えます。

ただし、自ら考え、行動する権限を与えるということは、失敗の可能性も広がることを意味します。大抵の従業員は、考えて行動することを求められたとしても、失敗は容認されないと思っています。失敗できないと思えば、人は積極的になることはできません。この場合にも、重要なのは信頼です。学習や成長の機会として、失敗を容認し、評価し、報いることが必要です。

情報の活用

従業員の能力としては、情報を革新的に活用できることが重要です。製品の中核には情報があるからです。情報をパッケージ化すること、情報へのアクセスを提供すること、様々なソフトウェアなど情報の道具が、独立して価値ある製品となっています。

情報を集め、評価し、編成し、流通させる行為は、製品の俊敏な開発と提供そのものでもあります。それを可能にするインフラストラクチャーは必要条件です。

俊敏性に必要な教育においても、情報に関わる能力の付与は必須です。情報を集め、そのまま提供するだけでは意味がありません。自らの技術や知識を活用して、その情報から学び、顧客にとって価値ある情報に転換できる能力を身につけることが重要です。

主体的に情報を収集し、学び、自分たちの仕事について積極的に考え、改善された方法を生み出す能力がなければなりません。