理想のチームプレーヤーとは?

理想のチームワークを実現するためには、それを可能とする適切な人材によってチームを構成する必要があります。

アメリカの経営コンサルタントであるパトリック・レンシオーニによると、そのような人材が持つべき美徳は、①謙虚、②ハングリー、③スマートです。

ありきたりに思えるかもしれませんが、大事なことは、この3つの美徳をすべて兼ね備えている必要があるということです。

ただし、これらの美徳は生まれながらの資質というよりは、人生経験や家庭や職場での個人的な選択を通して、成長したり維持したりするものです。

レンシオーニによると、この3つの美徳は、チームが陥りやすい5つの機能不全を防ぐために、チームメイト一人ひとりが持つべきものです。

この記事では、レンシオーニの著書『理想のチームプレーヤー』に基づき、3つの美徳について概略を紹介します。

ただし、実際にそれらの美徳を見極めるのは簡単ではありません。本書には、様々な場面で3つの美徳を見極めるための質問、3つの美徳を育成するための方法などが詳細に語られています。経営者や管理者は必読です。

3つの美徳とは

3つの美徳はありきたりのようで、単純に見分けられると思うかもしれませんが。決してそうではありません。危険なのは、安易なレッテル貼りに使われることです。

一つひとつの美徳は単純に見えても、3つのうち1つが欠けているような場合、欠けている1つを他の2つが覆い隠すことがあるため、判断が一層難しくなります。

判断は慎重に行う必要があります。いろいろな人の意見を聞き、多面的に見極めることも必要です。

見極める目的は、単なる分類ではなく、理想のチームプレーヤーの構成要素をよく理解し、採用や選考や育成に役立てることです。

謙虚

謙虚な人は、過剰なエゴや上下関係のこだわりがありません。周りの貢献はすぐに気づいて讃えますが、自分に注目を集めることはしたがりません。

成果は分かち合い、自分よりチームを強調し、個人ではなく全体の成功を考えます。

謙虚さは、チームプレーヤーにとって欠かせない最重要の要素です。スキルを優先して謙虚でないメンバーに我慢していると、チームにとってかけがえのない謙虚なメンバーが辞めていきます。

謙虚さに欠ける人のタイプには2種類あります。共通項は「不安」です。不安の表れ方が異なります。

まず、過剰に傲慢な人です。不安が過剰な自信として表れます。何から何まで自分のことばかりで、自慢したり注目を集めたがったりする傾向があります。エゴに突き動かされる典型であり、怒りや分断や社内政治を生み出してチームワークを弱めます。

次に、他人に寛大で、ポジティブですが、自信に欠ける人です。不安であるため、自分の力を低く見積もる傾向がありますが、周りからは謙虚に見えることがあります。傲慢であるとは言えませんが、自分の価値に対する認識不足が謙虚さを損ねる要素になります。

必要以上に自尊心が低い人は、自分のアイデアを主張しなかったり、問題に気づいても注意を呼びかけなかったりして、チームに損失を与えます。

『ナルニア国物語』の原作者であるC・S・ルイスによると、謙虚さは、自己評価を減らすことではなく、私心を減らすことです。

ハングリー

ハングリーな人は、常に今以上を求めています。もっと多くのことをしたい、もっと学びたい、もっと責任を負いたいなど、常に次のステップや機会のことを考えています。

自分の中に動機があり、勤勉ですから、上司から急き立てられる必要はありません。

ハングリーでない人は、基本的に仕事に情熱をもって取り組む姿勢に欠けますので、言われたことしかしない、率先して人の手伝いをすることがないといった傾向を示します。

ただし、チームに悪影響を与えるハングリーさもあります。自分の利益を追求することにハングリーになる場合です。極端なまでに仕事にハングリーになる結果、働くことにアイデンティティを占領され、人生が支配されてしまうこともあります。

チームワークに貢献するハングリーさは健全な種類のものであり、よい仕事への貢献をコントロールしながら持続させ、本当に必要なときには普段以上の働きをすることです。

スマート

チームワークにおいてスマートであるとは、常識的に人と接することを指します。相手に気を払って適切に振る舞うためのあらゆる能力が含まれます。

チームに起きている事態を把握し、最も効果的な方法で周りと接する方法を知っています。よい問いかけをし、相手の発言に耳を傾け、会話にしっかりと集中したままでいることができます。

チーム内に生じる関係性の微妙な変化や、自らの発言と行動の影響を直感的にうまく察知します。そのため、メンバーの反応を考えないまま発言したり行動したりすることがありません。発言や行動をしそびれることもありません。

スマートさに欠ける人は、自分の発言や行動が周りにどう受け止められるかを理解していないため、意図せずチーム内で他人との問題を生み出してしまいます。ただ、悪意なくやってしまうところがあるので、改善を指摘すると、案外素直に受け止めることができます。

ただし、スマートであることは、それ自体が良いとは限りません。スマートさを悪用することができるからです。人を楽しませたり、好感をもたせることができるので、自分を装うことができます。謙虚に見せることもできます。自分の利益のために、スマートさを活かすことができるのです。

採用時の面接

チームにとって最も望ましいのは、3つの美徳を兼ね備えた人材を採用できることです。3つの美徳を、面接でできる限り確認していくことになります。

重要なことは、具体性のない面接にしないことです。チェックすべき行動や特徴をあらかじめ定めておく必要があります。

次に、人を替えながら何度か面接をする場合は、ある人が面接を行う都度、別の担当者に報告し合うことが必要です。そうすることによって、より深く掘り下げて見るべき点、あまり時間をかける必要がない点などを見極めることができます。

複数の面接官で面接することは効果的です。面接官が同じ場面を見ますので、より効果的に意見をすり合わせることができます。候補者が複数人を前にどのように対応するかを見ることができますので、チームプレーのスキルを判断することができます。

面接は、オフィスで型苦しく行うだけでは、その人の本質が分からないこともあります。むしろ、日常的な場面、例えば、オフィスの外に出て、型苦しくない環境で、候補者が他の人にどのように接するかを見るのも効果的です。

無駄を省くために、同じ趣旨の質問を何回もすべきではないと考えるかもしれませんが、決してそんなことはありません。一回の答えでは取り繕うことができても、角度を替えて同じ質問を繰り返すことによって、本心が分かることがあるからです。レンシオーニによると、3度聞くと正直な答えが返ってくることが多いといいます。

自分の長所や短所などを答えさせることは多いですが、自己評価が正しいという保証はありません。他人の視点、例えば、「上司はあなたの○○についてどう評価するか」、「部下はどうか」、「同僚はどうか」などと質問すると、客観的な視点が入り、自己評価とは違う答えが返ってくることがあるようです。

専門的な職種で採用するのであれば、模擬課題を与えて、面接官の前で実演してもらうこともできるかもしれません。3つの美徳を見分けられる可能性がより高まります。

人の評価ですから、面接官の直感も無視できない要素です。直感的に疑念が残るのであれば、それを無視するべきではありません。結論を出す前に、もう一度調査すべきです。直感を無視したために、後々採用を後悔する例は後を断ちません。

面接を重ねていくと、3つの美徳を備えている可能性が高い人が選別されていくはずです。最終候補者に対しては、3つの美徳を求めていることを改めて伝え、それらを備えていなければ、採用後に大変な目に会うことを念押しします。3つの美徳を備えている人なら、素晴らしい職場になることを期待して、むしろ喜ぶはずです。

現在の社員の評価

現在の社員を評価し、3つの美徳を備えているかどうかを見きわめることも必要です。欠けている要素があれば、改善に取り組んでもらう必要があります。改善を受け容れない社員は、その欠けている美徳が悪影響を与えない仕事に異動してもらうか、最終的に解雇するしかありません。

レンシオーニによると、3つの美徳は、本人に意思があれば身につけることができるといいます。

判断は慎重でなければなりません。見極めが難しい場合も少なくないからです。はっきりしないときは、しばらく一緒に仕事をし続けてみるべきです。間違った理由で貴重なメンバーを失うことほど大きな損失はありません。

もちろん、慎重であるべきは見極めが難しい場合です。3つの美徳にどこか欠けていることが明らかで、現にチームによくない影響を与えている人を許容する言い訳に使ってはいけません。

評価方法は、自己評価、管理者による面談での評価があります。本書には、その場合に活用できる具体的な質問も豊富に掲載されています。

同僚同士によるディスカッションも効果的です。互いに自分の評価をさらけ出して話し合うことで、行動の変化が促され、チームメイトが互いのよきコーチになることができます。

美徳を身につけるための育成

欠けている美徳を育成するうえで重要なことは、日常的に絶えずリーダーがリマインドやフィードバックをすることです。欠けている点が表面化したときは即指摘し、うまく対処できたときは即褒めることです。うまく行かないときの励ましも重要です。さもないと諦めてしまうこともあります。

欠けている美徳について、その美徳が優れている人をコーチにつける方法が効果的です。チームメイトが互いに互いのコーチになれると、個々人の成長だけでなく、チームにより強固な責任感や説明責任がもたらされるといいます。

もちろん、リーダーや管理者は、率先して3つの美徳の価値を伝え、見本を示す必要があります。リーダーや管理者にも欠けている点があるかもしれませんが、その点を前向きに改善しようと努力する姿勢を見せることが重要です。

謙虚さの育成

謙虚さの育成には、最も繊細な取り組みが必要です。仕事やチームに参加するよりも前の子供時代や家族の問題に、謙虚さか欠如した原因があることが多いからです。原因は何らかの形で不安に関係しているといいます。

原因について、本人は自覚していることがあるので、管理者やコーチがそれを特定できれば、それだけでも大きな前進になります。チームメイトも共感や寛大さを持って接することができるようになり、コーチングもやりやすくなります。

原因が本人の性格タイプに関係していることもありますので、MBTIやDISCなどの性格診断テストを活用することもできます。

謙虚さに欠けることを本人が自覚できるなら、日頃から謙虚であるかのように行動することで成長することができるといいます(エクスポージャー療法)。意識的に他人を褒めてみたり、自分のミスや弱点を認めたり、仲間に意識的に関心を持ったりすると、自ら謙虚さの価値を実感できるからです。この方法では、具体的な行動目標を提示してあげる必要があります。

ハングリーさの育成

ハングリーさは明確に行動に現れ、結果として出ることが多いので、分かりやすい美徳ではありますが、最も変えることが難しい美徳であるといいます。

仕事のアウトプットそのものを増加させるための手段やツールはありますが、これらを使って仕事をさせるだけであっては、ハングリーではありません。必要以上の督促など、外部からの動機づけがなくても、自ら要求以上の仕事に取り組もうとすることがハングリーだからです。

本人に改善の意思があるなら、その都度のリマインドやフィードバックを根気強く続けることで改善していきます。成果や目標だけでなく、具体的な行動を明確にし、説明責任を求めることが重要です。

ハングリーになれない理由の一つは、自分がやっている仕事が、周りの人にどのような影響を与えるのかを分かっていないことにあります。自分のやっている仕事の重要性や影響度を認識できなければ、大きな変化は期待できません。

最も効果的なのは、ハングリーなチームメイトとチームワークをさせることです。チームメイトの日頃の姿勢や考えに触れて、情熱が伝染することがありますし、自分の仕事がそのようなチームメイトの役に立っていることが分かって、気持ちが変わっていくことがあります。

スマートさの育成

スマートさに欠ける人は、チームメイトとの間に問題を生もうと意図しているわけではありません。機微が理解できず、自分の発言や行動が周りにどのような影響を与えるかが分からないだけです。

このことを本人や周りが理解し忘れないでいれば、スマートを目指すプロセスはより簡単で効果的になるといいます。

本人が自覚していないのですから、その都度指摘し、なすべき行動を教えてあげることが何よりも重要になります。

3つの美徳を組織の文化にする

3つの美徳が重要であり、それをメンバーに身につけて欲しいのであれば、日頃からそのことを率直に言葉にしなければなりません。全員に伝え、理解してもらう必要があります。

できれば、取引先や顧客にも伝えるべきです。3つの美徳は重要であり、顧客や取引先の選択基準ともなるべきだからです。

育成の場合と同様ですが、3つの美徳を体現した行動は、見逃すことなく即讃え、模範例として皆に伝えます。即時に行うことで、皆も同じ行動が強化されます。

逆に、3つの美徳に反する行動は、即時にその行動が適切でないことを伝え、理解してもらわなければなりません。たとえ些細なことであっても、否、些細であるからこそ、本人の自覚がないことが多いので、見逃さずに指摘することが重要になります。

これは組織文化を作るためであり、育成のためであること、決して違反を処罰するためではないことを、皆が自覚する必要があります。

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