基本と原則

ドラッカーの『マネジメント』は、「基本と原則」を記した書籍です。「基本と原則」とは、変化の中にあって「変わらざるもの」です。

変化の激しい時代を生きる今だからこそ、「変わらざるもの」としての「基本と原則」を知り、変化に対して適用していくことが大事になります。

「基本と原則」とは何か?

ドラッカーは、「マネジメントには基本と原則がある」と言います。

「基本」とは、存在、判断、行動、方法などのよりどころとなる大もとを意味します。

「原則」とは、共通に適用される基本的な決まり、特に人間によって社会に適用するために決められた規則を意味します(対して、物事を成り立たせる根本的な決まりのことを「原理」と言います)。

この「基本と原則」が、変化の中にあって変わらざるものです。

変化しているからといって、目的や戦略を闇雲に変えてしまっては、逆に生き残ることはできません。同じように、「基本と原則」に反するものは「例外なく破綻する」というのが厳しい現実です。ですから、生き残るためには「基本と原則」を知らなければなりません。

だからといって、同じことをやり続ければよいということでもありません。それはむしろ「基本と原則」に反します。

変わらざる「基本と原則」を知り、変化に応じて、あるいは、置かれている国、文化、状況に応じてどのように適用していくかが大事になります。

ドラッカーの「経営哲学」?

ドラッカーの『マネジメント』を「経営の哲学書」と称する人たちがいます。

「哲学」を文字どおり「世界や人生などの根本原理を追求する学問」という意味で使っているなら、そのとおりだと思います。『マネジメント』には、経営の本質ともいうべき基本と原則に満ちているからです。

しかし、「抽象的で分かりにくい」、「現場で使えない」、「答えがない」といった意味の揶揄する言葉として使っているなら、適切な評価ではありません。

そのようなことを言う人たちにとって、「具体的で分かりやすい」とか「答えがある」とかいうことは、何を指しているのでしょうか? 巷に溢れるビジネス書の類でしょうか? 確かに、『〇〇ができるたった1つの方法』などといったタイトルのビジネス書は多いようですが。

そもそも、「答え」とは何でしょうか?「問題」があって初めて「答え」があります。「問題」が違えば「答え」も違います。

経営の目的も違えば、経営者の個性も違います。経営環境も違えば、働いている人たちの個性も違います。そのような経営の実態において、同じ経営上の問題などあるのでしょうか?

そもそも、書籍の中に答えがあるとするならば、もはや「あなたが経営者である必要はない」ことを意味していると思ったほうがよいでしょう。

要するに、そのような人たちが言う「具体的で分かりやすい」とは「答えが単純で簡単に実践できる」という意味であり、「抽象的で分かりにくい」とは「やることが多くて、面倒くさい」という意味ではないでしょうか。

ドラッカーは、ピーターズとウォーターマンの『エクセレント・カンパニー』について、「極端に単純化している」と批判しました。

流行りのイノベーション関連本に対しては、「ほとんどが問題を正面から取り上げていない」、「ほとんど誤解を招くもの」と批判しています。

「答え」は急速に陳腐化する

『マネジメント』は、全般にわたって基本と原則を記しています。「何をなすべきか」を中心に説いており、「いかになすか」、「どのようにうまくやるか」は中心ではありません。

しかし、豊富な事例は載っています。基本と原則の適用例として、変化によっても陳腐化しにくいと思われるものを厳選してあります。変化の中にあって具体的な答えを羅列したところで、あっという間に陳腐化し、使い物にならなくなるからです。

繰り返しますが、変化の中にあって大事なことは、変わらざる「基本と原則」の適用によって変化に対応するということです。だから、経営者がなすべきことは、

自らの経営に特有の問題に対して、基本と原則を適用して、自ら答えを出していくこと

しかありません。

これが、変化の中にあって変化に適応し続けるということです。理想的には、変化をつくり出し、その先頭に立つということでもあります。生き残り、成長していくための方法です。

なすべき事

常になすべきことは、

  1. 今直面する課題は何か
  2. 問題は何か
  3. 行うべき意思決定は何か
  4. 適用すべき基本と原則は何か

を考え抜くことです。

「答え」を他人に求めることは、考えることをやめることです。経営者であることを放棄することです。

まず、あなたが立てた経営の目的に立ち返ってください。そこに理想があるはずです。使命があるはずです。それを携えたうえで、顧客の声に耳を傾けることです。様々な情報を収集することも必要です。

でも、それは「答え」を得るためではなく、「問題」を明らかにするためです。決めるべき事を明確にするためです。

実際の「答え」、すなわち商品やサービスと提供方法などの具体的な解決方法については、基本と原則に則って、自ら判断していかなければなりません。

経営においては、数学の計算のように、一意に答えが決まるようなことはありません。経営は人が行うものであり、意思による「判断」というものが常に伴うということもまた、経営の本質です。決まるのではなく、決めなければなりません。