社員は何故こんな簡単な仕事を間違うのか?

顧客が求める納期はどんどん短くなり、少量多品種は当たり前になっています。

その要望に応えるには、作業の無駄をなくし、時間を短縮することが必要です。

仕事をできるだけ単純な作業に分解し、一つひとつの仕事を分析して、無駄な部分はなくし、非効率な部分は改善します。

人件費はできるだけ減らしたいので、単純作業の部分はパートに受け持たせ、正社員はパートができない判断作業などに集中させます。

ところが、その単純作業でミスが起こります。

「こんな単純作業で、なぜ間違うのか!」と思いませんか?

そう思いつつも、パートだから仕方がないと思い直し、さらに作業を単純になるように分解して、特定の部分だけを集中的にやらせてみます。

「作業を細かく分担して、集中させれば、慣れてきて作業も速くなるだろう。できるだけ単純にしたからミスもなくなるだろう。」

そう思ってしまいますが、実際は、前以上にミスが多発することもあります。

なぜ、そんなことになってしまうのでしょうか?

答えは、それこそ単純です。

単純作業だから間違うのです。

仕事を効率化する方法

仕事を効率化する方法は確立されています。主に製造業で実績を積んできた「インダストリアル・エンジニアリング(IE)」と呼ばれる手法です。

細かいツールやテクニックはたくさんありますが、ごく簡潔に説明すると、次の手順を踏みます。

  1. 構成される要素作業を洗い出します。できれば、さらに細かく要素動作まで分解します。
  2. 各要素作業・動作を分析します。無駄をなくし、簡単にし、時間を短縮します。
  3. 各作業・動作で必要な道具類は、無駄なく取り出し、利用できるよう、配置を工夫します。
  4. 改善された要素動作・作業を、論理的で効率的な順序に再構成します。

こんな手法は製造業でしか使えないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。ホワイトカラーの仕事にも使えますし、サービス業や病院などでも実際に効果をあげています。

IEの盲点

IEは、産業の発展に大きく貢献しました。生産性を著しく高めることに成功したからです。

仕事を要素作業・動作に細かく分解し、分析し、再構成することは、仕事の生産性を高めるうえで不可欠です。

しかし、盲点もありました。

そこで起こった間違いは、一人の仕事を、その細かく分解した特定の要素作業・動作に限定し、集中させようとしたことです。ベルトコンベアによる流れ作業のイメージです。

仕事の生産性と人の生産性は違う

なぜ間違いかというと、人の生理的な面を無視しているからです。

人は、一つの動作だけを長くさせられると著しく疲労し、間違いが増えます。いくつかの作業を組み合わせた方がよく働けます。

人は、同じスピードとリズムで働くことに適していません。スピードとリズムを変える方がよく働けます。しかも、あらゆる人に共通のスピード、あるべきリズムというものはありません。

そうした生理的な側面を無視していると、人はどんどんストレスを高め、違うところで不満を爆発させます。

「給料が安い」、「休みが少ない」、「あの上司の口のきき方が気に食わない」、「社員食堂の昼飯が不味い」などと言い始めます。

多くの企業では、福利厚生を充実させることで不満を解消しようとしてきました。労働組合の力で、給料も上がりました。

しかし、本質的な仕事の部分は変わらず、それどころか、仕事の生産性を高めるために更なる作業の単純化が進み、ますますストレスは高まる方向に行きます。

福利厚生や給料での不満解消は、いわばドーピングのようなものです。一時的な効果しかなく、不満はますます高まっていきます。

ですから、IEによって効率化された仕事は、人に割り振る際に、人の特性に配慮しなければなりません。

ドラッカーの『企業とは何か』に掲載されているGMの事例をご紹介します。

GMが大規模な従業員意識調査を行った結果、従業員が製品や企業との一体感を求め、仕事や品質に責任をもちたがっていることが明らかになりました。

その内容を基に、仕事改善プログラムをつくろうとしたところ、GMと労働組合の幹部たちが反対し、中止となりました。理由は「従業員が欲しているものは金である」ということでした。

その後、オートメーション化の最新鋭工場が建設され、稼働が開始されることになりました。作業はより単純化されたことでしょう。給料も最高だったので、生産性と品質も最高になるはずでした。

ところが、規律は最悪となりました。当初、新規採用の若年工員が責任を与えて欲しいと要求したそうですが、かなえられないことが明らかになり、生産性と品質も最悪となったと言います。

高給で従業員のやりがいを買うことはできません。

(参考:「人と仕事の関係性」「働くことの力学」「職務への統合と割当」

人に仕事を割り振る一般的な方法

人に仕事を割り振るときは、多様性を考慮することが必要です。

ひとまとまりの段階として割り振る

一つの完結したものにする必要はありませんが、多少なりとも達成感を感じられるようにすることが大切です。

単純化された要素作業・動作を、たった一つではなく、ある程度のまとまりを感じられるくらいの数は持たせる必要があります。

スピードとリズムを調整できるようにする

割り当てられた仕事は、自分のスピードとリズムで行えるようにしなければなりません。自分の裁量でスピードやリズムを変えることができなければなりません。

前の段階の仕事のスピードでプレッシャーを受けすぎたり、次の段階にプレッシャーを与えすぎるような仕事の分け方は望ましくありません。

挑戦できるようにする

高度である必要はありませんが、一定の技能や判断を必要とする要素、計画や段取りの要素を持つことが大切です。

マニュアル整備や教育を怠らない

パートだから単純作業でも間違うわけではありません。正社員でも単純作業は間違います。

もちろん、高度な作業には高度な能力が必要ですから、パートに何でもやらせればよいということではありません。

それでも、人には感情があり、個性があります。多様な作業を行ったり、自分でコントロールしたり、判断したりすることが、人間特有の能力です。このような能力を発揮できることが、人間の尊厳でもあります。

パートも正社員も、人間の尊厳に変わりはありません。

ただし、マニュアルの整備や教育を怠ってはいけません。いい加減で曖昧な指示・命令は不安を煽るだけでなく、軽んじられたと感じられ、自尊心を傷つけます。

親切なマニュアルと教育は、それだけでも尊重されているという印象を与え、社員の自尊心やモチベーションを高める要素になります。

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