経営者の最も重要な仕事の一つは、従業員の力を結集して企業の経済目標を達成することです。従業員の力を結集するためには、従業員の考え方や行動を「統制」できなければなりません。
「統制」のための手段は、従業員が協力を惜しまないよう、従業員に適した方法を選ぶ必要があります。この手段の選択において、経営者の考え方が大きな影響を与えます。
その考え方には、大きく2つの種類があり、ダグラス・マグレガーは、それらを「X理論」「Y理論」と呼びました。
「統制」は、相手の人間性を自分の望みに合わせるように強制することではなく、自分が相手の人間性に合わせた方法をとることによって、初めて機能すると考えなければなりません。
経営者の重要な役割
経営者の最も重要な仕事の一つは、従業員の力を結集して企業の経済目標を達成することです。経営者が意思決定し、従業員が行動します。
経営者がうまくやれるかどうかは、従業員の考え方や行動に見通しをつけ、これを統制できるかどうかにかかっています。
しかし、従業員を統制する手腕があると胸を張って言える経営者はほとんどいません。「統制」の性質を誤解しているからです。
統制の手段
「統制」は、目標を達成するために「皆の力を結集する」ところに主眼があります。そのための手段は、従業員が協力を惜しまないよう、従業員に適した方法を選ぶ必要があります。
例えば、自然を統制するためには、自然法則を無視して自然を意のままにしようとするのではなく、自然法則に則って調整することが必要です。
同様に、経営者が従業員を統制するためには、従業員の行動に関する「自然法則」を考慮しなければなりません。
ところが、経営者の多くは、その「自然法則」を誤解してきました。間違った手段で統制を行い、従業員の人間性を損なっているため、従業員の意欲を削ぎ、経済目標の達成がままならないのです。
個別奨励給の問題
従業員の行動に関する「自然法則」を誤解した手段の代表が「個別奨励給」です。「人は金を欲しがるものであり、金を出すほど一生懸命に働く」という考え方に基づきます。
この考え方が完全に間違っているわけではないため、一定の効果はありますが、別の問題を伴います。
例えば、生産高を故意に落とすようになります。管理者に敵愾心を抱いたり、非倫理的行為(工具を隠す、備品を私物化する、日報に嘘を記載するなど)が横行したり、不平不満が増加したりします。従業員間の協調性も失われるようになります。
このような問題が起こる理由は、人間のある行動特性の見落としているからです。「同僚から仲間として認めてもらうことを重視する」という特性です。同僚から認められるために必要であれば、割増賃金も顧みないことがあるのです。
経営者が「どんなに生産高をあげても割増率は絶対変えない」と保証しても、従業員は納得しません。努力して生産高を上げると、いずれはそれが標準になって、割増率が適用されなくなることを度々経験しているからです。
経営者がどんな統制方法を考え出しても、普通の従業員なら誰でも、その抜け穴を見つけてしまうものです。
統制の背景にある考え方の重要性
経営者が考えた統制方法がうまくいかないと、大抵の場合、その方法が間違っているとは思わず、その方法に従わない従業員の愚鈍さや不真面目さを責め、統制を一層強める方向に行きます。
経営者は、自分が考えた統制方法がうまく行っても行かなくても、その背景にある考え方を強化する方向に行動してしまうのです。
本来、統制方法がうまくいかないのであれば、その背景にある考え方を変えなければなりません。
「統制」は、相手の人間性を自分の望みに合わせるように強制することではなく、自分が相手の人間性に合わせた方法をとることによって、初めて機能すると考えなければなりません。
経営者は、人間の価値に目を向け、積極的に倫理綱領を意識し、自制しなければなりません。これは「社会的責任」の観念でもあります。
「X理論」と「Y理論」
経営者の間で暗黙のうちに了解されていた考え方は、「人間は生来仕事が嫌いである」というものでした。このような考え方を、ダグラス・マグレガーは「X理論」と呼びました。
この考え方に基づく統制手段は、権力に基づく命令や賞罰が中心でした。強制したり、褒めたり、罰したりすることによってしか、人は熱心に仕事をしないと考えられたからです。
その後、人事・労務管理における人間の問題についての研究が進み、新たな考え方が出てきました。
「人間は仕事が生来嫌いであるということはなく、条件次第で、自ら進んで責任を引き受け、工夫を凝らして仕事に熱心に取り組む」という考え方です。このような考え方を、マグレガーは「Y理論」と呼びました。
この考え方に基づく統制手段は、従業員自らによる自己統制です。経営者の役割は、個人の目標達成と企業の目標達成とを一致させるような条件を整備することです。