経営者が決定を下し、措置をする背景には、必ず人の性質・行動に関して何らかの考え方があります。
その中には、大抵の経営政策で暗黙のうちに了解されている伝統的見解があります。マグレガーはこれを「X理論」と名付けました。
X理論は、次のような考え方です。
- 普通の人間は生来仕事が嫌いで、できれば仕事はしたくないと思っている。
- 大抵の人間は、強制されたり、統制されたり、命令されたり、処罰するぞと脅されたりしなければ、企業目標を達成するために十分な力を出さない。
- 普通の人間は命令されるほうが好きで、責任を回避したがり、あまり野心をもたず、何よりもまず安全を望んでいる。
要するに、人間は仕事が嫌いなので、そのような人間を組織で働かせるためには、報奨と罰則(アメとムチ)を背景とする権限に基づいて命令しなければならないと考えるものです。
この考え方は、欧米で根深く存在しているようです。マグレガーは、「知恵の樹の実を食べた咎でアダムとイヴがエデンを追放され、働かなければ食べていけない世界にやってきた」という聖書の物語に起源を求めています。
X理論は日本でも無縁ではありません。働き方改革や労働時間短縮を推奨する政府の方針の背景にあるように思えます。元々日本にはなかった考え方で、欧米の影響であるという意見もあります。
「一日の適正労働量」、「業績をあげれば報奨する」などの施策の背景には、X理論があります。
「水増し雇用や生産統制は悪いことだ」と経営者が主張するのも、生来仕事嫌いである従業員の性向に抵抗する姿勢の表れであると言うことができます。
考え方というものは、それが正しいかどうかにかかわらず、それを持ち続け、それに基づいて行動し続けると、一定の影響力を持ちます。
経営者が、X理論に基づく言動を繰り返し、施策を行い続ければ、従業員もそれに従った反応するようになります。
X理論を前提に褒美をやり続けると、従業員の側は段々高い褒美を要求するようになります。そのうち褒美だけでは効き目がなくなり、罰という脅しをかけて初めて目的を達するようになります。
人間関係論によって、いわゆる「まあまあ主義」や「民主主義的経営」などの温情主義的経営が取り入れられたものの、結局うまく行かず、再びこの考え方が支持され始めたといいます。
恩情主義的経営がうまく行かなかった理由も、結局は、人は仕事が嫌いであるという根本的な考え方を背景にした施策だからです。
以上のX理論は、企業内の人間行動を説明できるところもあります。だからこそ、この考え方が長い間維持されてきたということもあります。
しかし、この人間感に合わない現象が、企業の内外にたくさんあることも分かっています。