権威の理論 − バーナードの組織論⑪

公式組織における伝達(命令)には「権威」が必要です。

組織の貢献者(構成員)が、その伝達にしたがって、組織に関わる行為をなしたり、なさなかったりする場合、その伝達には「権威」があると言われます。

その伝達が、自らの行為を支配または決定するものとして貢献者に受容されていることを意味します。

伝達、権威、専門化および目的は、すべて調整に含まれる側面です。すべての伝達は、目的の定式化、行為を調整する命令の伝達に関係します。伝達にも能力が必要です。

「権威」は、協働体系の要求に服従しようとする個人の意欲と能力の別名です。伝達を受け取る側が権威を付与するからです。

権威の源泉

あるルールが遵守されるかどうかは、そのルールの発令者によって決定されるのではなく、そのルールを遵守しようとし、あるいは遵守しないとする人自身が決定しています。

人があるルールを遵守しようとするとき、そのルールには「権威」があるとされます。その人がそのルールを遵守すべきものとして受容することによって「権威」が生じるということです。

組織は活動あるいは諸力の体系とみなされています。活動を促すのは命令を初めとする「伝達」ですから、権威が属するのも「伝達」です。

実際の永続的な組織においては、伝達の「無関心圏」が存在し、その圏内では、伝達の権威の有無を意識的に反問することなく受容しているということです。

伝達の「無関心圏」は、組織における共通感として安定的に維持される傾向があります。この共通感が「権威は上から下へ下降し、一般的なものから特殊なものに至る」というフィクションを抱かせます。

このフィクションが、上位者からの命令を受け入れやすくしています。

権威の客観化

権威は、公式組織における伝達が持つ性格であり、組織行為でなければ権威を持つことはありません。人が公的に行動するときにのみ、権威が生じ得るということです。

伝達の公的性格を確立するために、伝達についての時間、場所、輻輳、儀式ならびに認証などが重視されます。これにより、公式に定められる組織情報の源泉(センター)から伝達が発せられるときに権威を持ちやすくなります。

職位の権威とリーダーシップの権威

もし上位の職位から送られる伝達が、その職位にふさわしい優れた視野と展望とに一致しているならば、人々はこれらの伝達に権威を認めます。これは「職位の権威」です。

しかし、明らかに優れた能力を持っていると理解されている人は、職位とは無関係に、その人が発する言葉に他の人々が権威を認めることがあります。これは「リーダーシップの権威」です。

リーダーの言うことに価値が認められるためには、彼らの特別な知識や判断が、具体的な組織行為に適用できると理解されていなければなりません。その意味で、個人の人格とは別に職位を持つことが望まれます。

リーダーシップの権威が職位の権威と組み合わされると、無関心圏を越えて権威が認められるようになります。このような信頼が生まれると、伝達への服従自体が一つの誘因になることもあります。

客観的権威

このような状態に至って、「客観的権威」が存在しているとみなされるようになります。客観的権威が維持されれば、上位権威のフィクションや無関心圏が成り立ちます。

職位には責任が伴います。リーダーが責任を自覚することは、その職位にあって自身の意思決定が組織に支配されていることを自覚することでもあります。この自覚を持つ人に権威が帰属します。

ただし、権威の決定は受容者の側にあることに変わりありません。権威ある職位にリーダーとしての能力を持つ人が就き、その職位に対して、適切な情報や伝達の便宜を提供することが必要です。

以上のように、権威を維持するためには、個人の協働的態度と、組織の伝達体系の適切な運用の両方が必要です。

組織の伝達体系は、一般に「権限のライン」あるいは「命令系統」と呼ばれます。客観的権威としての伝達体系には、持つべき性質がいくつかあります。

第一に、伝達の経路が明確に知らされていることです。公式的任命を周知させ、各人をそれぞれの職位に配置し、その公示、組織図、教育の努力、習熟・慣行化など、実行可能なあらゆる努力が必要です。

第二に、全ての構成員が公式的伝達経路に含まれることです。すべての人は、報告すべき上司を持ち(上方への伝達)、伝達すべき部下を持ち(下方への伝達)、あるいはその両方を持ちます。

第三に、伝達のラインができるだけ直接的で、短いことです。伝達は言葉によるため誤解を招きやすく、解釈を要するからです。また、段階が多いほど時間がかかるからです。

伝達を発する職位がより上位であるほど、より一般的に述べられ、下位に伝達されるほど特殊化されます。段階を経る度に、何かが失われ、何かが加えられます。

組織目的と技術的条件に応じて、伝達のための組織上の慣行や工夫が利用されます。各段階における管理組織の拡大、スタッフ部門の使用、管理業務の職能的部局への分割、定期や臨時の会議または委員会などを通じて調整をしつつ責任を委譲する方法などです。

第四に、原則として、完全な伝達ラインが用いられることです。段階の飛び越えなどが起こると、伝達の矛盾が生じかねません。解釈の必要性と責任の維持のためにも必要です。

第五に、伝達のセンターとしての役割を果たす人々の能力が適格であることです。組織がより大きく、伝達の職位がより中心的であるほど、組織全体の業務に関してより一般的な能力が必要です。

伝達センターの職能は、目的に応じて、外部環境(機会、脅威、困難、危険など)や活動の進展(成功、失敗など)に関して入ってく伝達を、予備的処置や新しい活動などの形で外への伝達に変えることです。

この職能を果たすためには、必要な技術、従業員の能力、非公式組織の状況、補助組織の性格と状態、目的に関する行為の原則、環境要因の解釈などに多少とも精通することが必要です。また、受容され得る(権威を持つ)伝達と、受容され得ない(権威を持たない)伝達とを弁別する力が必要です。

大規模組織における伝達センターの職位に相応しい能力は、個人によって満たすことが困難であるため、伝達センター自体が補助者やスタッフなどによって組織化されます。

伝達センター組織の中で権威ある職位を占めるのは、通常一人であり、他のメンバーは補助的または助言的です。ただし、理事会、委員会などの組織自体が権威を持つ場合もあります。

第六に、伝達のラインが中断されないことです。重視されるのは個人よりも職位であり、在職者の不能ないし不在の間、自動的に職位を補充できるような仕組みが必要です。

第七に、伝達が認証されることです。その職位を占める人が知られ、その伝達が職位の権限内にあり、その伝達が実際にその職位から発せられたことが明らかであることです。

叙任、就任、宣誓、公示、紹介などの諸儀式は、誰が実際に職位を占め、その職位が権威として何を含むかを知らせる役割があります。