管理手段

マネジメントの役割として、仕事を管理する活動があります。

一つは、既存の事業について経営資源の生産性を高め、より少ないコストでより大きな成果を出すための活動です。もう一つは企業家的活動です。成果の小さな分野から、成果の大きな分野、成果が増大する分野へと資源を振り替えることです。

両者はバランスを取る必要があります。

前者の活動は定量化でき、測定も容易な場合が多いです。後者の活動は外部への成果に関する活動ですので、定量化が難しく、測定も困難です。ですから、測定しやすい前者の活動ばかり重視しないように気をつけなければなりません。

管理手段には特徴があり、満たすべき要件があります。重要なことは、自己管理のための手段であるということです。管理のための行動を起こすことのできる者に、確実に測定結果が到達し、行動につながる必要があります。

管理手段は、賞罰のシステムに優るものではありません。管理手段の設計は、人事を抜きにしてはありえません。人事、賞罰と整合した管理手段であることが重要になります。

管理手段の特徴

近年、マネジメント手法の発展と情報処理能力の増大により、管理のための手段が急速に向上しつつあります。ただし、管理手段はあくまで手段です。

目的は、一人ひとりを動機づけ、組織の成果につなげることです。

トラッカーによると、管理手段には3つの特徴があります。

客観的でも中立的でもありえない

管理手段は主観的行為であり、何らかの偏りを持たざるを得ません。

まず、管理手段の対象となる者を変えます。選ばれ、注目されるため、新たな価値が加えられます。組織において重視されていることを表明するのと同じ効果を持ちます。

さらに、測定する者も変えます。知覚の経験が大きく変わると言います。

根本の問題は、いかに管理するかではなく、何を測定するかです。測定の対象が、組織の価値観や目標を定めることと同等の意味を持つからです。

成果に焦点を合わせなければならない

通常、管理的な活動の対象になっているのは、内部にあるものです。内部にはコストしかありません。

しかし、活動の成果は外に表れます。社会、経済、顧客に対する成果です。組織の目的はそこにあるからです。

組織の成果は、企業家的な活動の対象になります。ところが、価値ある外部情報を記録し、定量的に把握する手段はほとんどありません。これが今、最も求められています。

定量化できないものに対しても適用しなければならない

測定できるのは過去のものであり、ほとんど内部の事象です。

未来についての事実はありません。外部に発生する重要な事象は測定できません。測定できるときは、すでに過去の事象になっています。最も必要であった時期、すなわち何かできた時期には、変化を測定することは不可能です。

ですから、測定できないものの管理を考えなければなりません。測定と定量化できるものだけに注目してはいけません。

よく管理されていると見えるほど、それだけ管理していない危険があります。

管理手段の要件

管理手段が有効であるために、満たすべき7つの要件があると、ドラッカーは言います。

効率的でなければならない

労力が少なく、少ない手段でなければなりません。まず検討すべきは、管理のために最小限必要な情報は何かです。

  • 事態を把握し、将来を予期する上で必要最小限の情報は何か。
  • 全体像を教えてくれる最小限のデータは何か。

意味あるものでなければならない

重要なものを測定しなければなりません。成果に影響を与える事象です。

  • 主な目標に関わるもの
  • 優先順位の高いもの
  • 基幹活動(組織の目的を達成するために最も重要な活動)に関わるもの
  • 良識活動(基幹活動に関わる基準、ビジョンを設定する活動)に関わるもの

定量化できるかどうかは問題ではありません。成果に影響を与える事象は外部に発生するため、定量化できないことがほとんどです。

事業の目標に関わりないことは、時折、単に活動の劣化を防ぐためにデータをとるだけでよいと、ドラッカーは言います。管理は例外管理でよいと言います。

  1. 基準を定める。
  2. 定期的にサンプル調査を行う。
  3. 重大な基準との乖離を知る。

対象に適していなければならない

現実を正しく伝え、行動につながるものでなければなりません。事象を表面的に捉えるのではなく、事象の構造を教えるものである必要があります。

ドラッカーは、いくつか例をあげています。

苦情のような社会現象は正規分布をしないため、統計数値では意味がありません。どこでどのような苦情が起こっているかを明らかにする必要があります。たとえ少ない件数でも、組織の重要な活動に関わるものであれば、組織にとって致命的になる可能性があります。

また、売上の90%は全体の2〜5%の種類の商品によって占められ、注文の90%は売上の4〜5%を占めるに過ぎないと言います。どの研究所でもイノベーションのほとんどはごくわずかの研究者が生み出しており、売上の3分の2から4分の3は10%にも満たない販売店がもたらしています。

全体の話や平均の話だけでなく、その中身や構成が重要です。

対象に適した精度でなければならない

ドラッカーは、哲学と論理学の大家であるアルフレッド・ノース・ホワイトヘッドの言葉「偽りの正確さの危険」を引用しています。

無意味な正確さは人を誤らせます。正確な測定が困難であり、幅をもってしか評価できない情報こそ重要であると言います。

詳細より概算、概算より数字の幅、幅より「より大きい」「より小さい」などの表現が、十分に定量的であり、より正確で厳格であると指摘します。

時間間隔が対象に適していなければならない

頻繁な報告がより良い管理を意味するわけではありません。

プロセス生産の工程のように、温度などの微妙な変化が製品の品質に影響する場合は、リアルタイムの管理手段が必要です。

研究開発を間断なく評価しても意味はありません。

単純でなければならない

複雑になると、管理の対象ではなく、管理の方法に関心が移ってしまいます。管理手段が目的にならないように注意しなければいけません。

行動に焦点を合わせなければならない

管理の目的は行動です。検討や分析が行動となる場合もあります。

特に重要なことは、管理手段は、すべて管理のための行動を起こすことのできる者にまで到達しなければならないということです。測定結果を使う者とそのニーズに合っていることが大切です。

ドラッカーは口を酸っぱくして繰り返していますが、管理とは、上司が部下を支配するための管理ではなく、「仕事のための自己管理」でなければなりません。

真の管理とは何か

資源の生産性を高め、成果をあげるために、適切な管理手段を設計することが必要です。

しかし、ドラッカーは最後に指摘します。組織は人の集合であり、メンバーの欲求やニーズを満たすものが必要であると。

賞罰のシステムに優る管理手段はないと言います。賞罰、各種の奨励策、抑止策に優るものはありません。

個人の欲求に応えるための環境は、給与のように定量化できるものではありません。一人ひとりの人間の姿勢と行動の誘引となるべきものが必要です。

組織の目的、価値観、自らの位置づけと役割を教えるものでなければなりません。

結局のところ、管理手段の設計は、人事を抜きにしてはありえないということです。