組織構造

組織構造に関する研究は古く、主に2つの組織構造が提案され、実際に利用されてきました。

  • 機能別組織
  • 連邦分権組織

前者は中小メーカーで、後者は大規模メーカーで、最も有効に機能しました。後者の連邦分権組織でも、分権化された各組織は機能別組織でした。

その後、新たな組織構造を求めるニーズが生まれてきました。新たな企業形態の出現、知識労働者の中核化、イノベーションのための組織の必要性です。

組織構造に関する研究は長い歴史を持ちますが、ドラッカーは、そこから得られた知見の中で、学ぶべきこと、捨てるべきことを明らかにします。

そして、改めて体系的なアプローチによる組織構造の設計を提案します。ただし、それは理想的な組織構造の提案ではありません。各組織の戦略に応じた組織構造の設計方法です。

戦略の実現に不可欠の基幹活動を明らかにし、それが成果をあげるための組織構造の必要性を提案します。

重要なことは、

  • すべての組織に当てはまる理想的な組織構造は存在しない
  • 一つの企業においても、活動の目的に応じて複数の組織構造を併用しなければならない

ということです。

代表的な2つの組織構造

機能別組織

1910年頃にアンリ・フェヨールが提案しました。当時は製造業の組織構造が問題となっており、職能に着目して組織構造をつくりました。単一製品のメーカーや中小企業、特に中小メーカーで有効に機能しました。

連邦分権組織

1920年代の初めに、GMのアルフレッド・P・スローン・ジュニアが提案しました。連邦制のように事業ごとに権限を分権し、本社が全体の方向づけを行いました。

分権化された組織には、機能別組織が適用されました。

複雑かつ大規模なメーカー、多様な製品を抱える大企業で適切に機能し、世界中の大企業の組織モデルになりました。

新たなニーズ

その後、これらの組織では間に合わないニーズが出てきました。以前とは異なる企業の形態が現れてきたからです。

  • 顧客へのサービスを中核とする製造業
  • 製造業以外の企業
  • 多種製品、多種技術、多種市場の企業(複雑性と多様性の組織化)
  • グローバル企業(複数の国と市場が同等の重要性を持つ)

特に、多種製品、多種技術、多国籍の企業は、情報の流れに合わせて組織を設計しなければならないと、ドラッカーは言います。

さらに、企業全般に関わる変化もありました。

  • 知識による仕事と知識労働者の増加
  • 起業家精神とイノベーションのための組織の必要性

知識労働者は企業の中核的な労働力になりました。誰もがマネジメントとして機能しなければならない時代になっています。

また、変化の激しい時代にあって、すでに存在するものをマネジメントする「管理のための組織」だけでなく、イノベーションに必要な「革新のための組織」が求められています。

組織構造に関するこれまでの学び

組織構造に関する研究には長い歴史がありますが、その中で学んできた多くのことがあります。組織構造を設計するうえでは、それらの学びを生かさなければなりません。

組織は、戦略を実行するための手段ですから、自然に進化するようなものではありません。人間の体系的なアプローチにより設計し、選択し、改善していかなければならないものです。手段である以上、唯一の理想的な組織構造なるものは存在しません。

組織構造に関してこれまで学んできたことについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

組織構造の設計プロセス

理想と現実の並行アプローチ

組織構造の検討は、理想と現実の両面から、並行してアプローチしなければなりません。

理想とは、組織の設計原理のことです。ドラッカーが紹介した5つの設計原理を詳しく知る必要があります。

  • 職能別組織
  • チーム型組織
  • 連邦分権組織
  • 擬似分権組織
  • システム型組織

また、組織構造には、その目的にかかわらず、共通に満たすべき仕様があります。

  • 明晰さ
  • 経済性
  • 方向づけ
  • 理解の容易さ
  • 意思決定の容易さ
  • 安定性と適応性
  • 永続性と自己革新の容易さ

それぞれの設計原理が、要件、限界を持ち、満足できる仕様に違いがあります。あらゆる状況に適合する設計原理はありません。ですから、設計原理を機械的に当てはめても、必ず失敗します。組織構造は常に妥協、譲歩、例外を必要とします。

組織の設計原理と仕様について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

理想を知る一方で、現実的にアプローチしなければなりません。組織はあくまで手段ですから、事業の目的、目標、戦略、優先順位からスタートし、まず基幹活動を検討し、組織の基本単位を明らかにします。4つの分析が必要です。

  • 活動分析
  • 貢献分析
  • 決定分析
  • 関係分析

現実をありのままに検討します。複雑な状況を複雑なままに精査しなければなりません。状況を理解し、理想的な設計原理の前提に適合するかどうかを検証します。

組織の基本単位を明らかにする方法について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

組織は戦略に従います。戦略の具体的実行体制が組織です。したがって、戦略と組織構造には密接な関係があります。ドラッカーは、戦略と組織構造の関係について典型例を示しています。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

組織構造を設計するためには、理想と現実の両方の視点が必要ですが、往々にして理想の組織のみにとらわれ、現実の分析をおろそかにし、現実を無理に理想に当てはめようとすることによって起こるといいます。その結果、組織には、さまざまな看過できない問題が現れてきます。

ドラッカーが指摘する「悪い組織」の典型について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

シンプルであること

組織構造は道具であり、目的達成のための手段であることを忘れてはいけません。道具自体に良い悪いはありません。適切に使うか使わないかです。

組織構造は、シンプルで、かつ状況に合っていることが必要です。重要な成果を生むために必要な基幹活動に焦点を合わせ、できる限りシンプルに組み立てます。

情報化組織

知識社会においては、知識がもっとも重要な資源です。他のあらゆる資源を生産的にするのも知識だからです。

知識は知識労働者に体化されており、有用な情報として外部と交換することによって、自分たちの仕事の方向づけと、位置づけを行っています。

したがって、各人が情報の担い手となり、自らの目標、貢献、行動について自ら徹底的に考え、他のメンバーに知らせ、組織全体の目標に合致した成果につなげる責任を負わなければなりません。

ドラッカーは、そのために必要な組織構造を「情報化組織」あるいは「情報型組織」と呼んでいます。情報化組織について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。