組織の設計原理と仕様

組織の基本単位を明らかにし、相互の位置づけを理解したら、次は、それらを具体的に組織構造に落とし込んでいきます。組織構造の設計です。

組織構造をつくるにあたって満足させるべき条件は、次の3つです。

  • 成果のためのものであること。管理的能力や専門的能力によってではなく、成果によって評価される者の数を多くするものであること。
  • 必要とされるマネジメントの階層数を最小限にし、命令系統を最短にするものであること。
  • 明日のトップマネジメントの育成と評価を可能にするものであること。

ドラッカーは、組織を設計するために、5つの基本原理、すなわち5種類の原則的な構造を明らかにしています。これらは、何を中心にして組織を設計するかによって、3種類にまとめられます。

  • 仕事中心の組織:機能別組織、チーム型組織
  • 成果中心の組織:連邦分権組織、擬似分権組織
  • 関係中心の組織:システム型組織

これ以外に、組織構造には目的にかかわらず共通に満たすべき仕様もあります。しかしながら、上記5つの設計原理のうち、これらの仕様を完全に満たすものはありません。それぞれの設計原理が、要件、限界を持ち、満足できる仕様に違いがあります。

それらの違いを理解したうえで、いくつかの設計原理を併用しながら、自らの組織構造を設計する必要があります。組織構造はオーダーメイドでなければなりません。

組織の設計原理

組織を設計するために利用できる原理があります。現在のところ、5つの設計原理が明らかになっています。これらの原理は、何を中心軸にして組織を設計するかによって、3種類にまとめることができます。

仕事中心の組織

仕事を中心に組み立てる設計原理です。次の2つがあります。

  1. 機能別組織
    • 仕事の段階(製造、マーケティングなど)とスキル(会計など)は不動(固定)で、それらの間を仕事(商品など)が動きます。
  2. チーム型組織
    • 仕事は不動で、スキルのスペシャリストが同時並行的に協力しながら作業します。
    • 仕事の進行度合いに従って、適用されるスキルの内容やレベルが変わっていきます。

これら2つの組織は補完関係にあり、併用することが望まれます。

詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

成果中心の組織

成果を中心に組み立てる設計原理です。次の2つがあります。

  1. 連邦分権組織
    • 連邦制のように事業ごとに権限を分権し、本社が全体の方向づけを行います。
  2. 擬似分権組織
    • 機能別組織を使うには組織が大きすぎるけれども、連邦分権組織を使えない場合に、代用品として使われます。

詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

関係中心の組織

関係を中心に組み立てる設計原理です。次の組織があります。

  1. システム型組織
    • 関係が複雑で、他の設計原理を適用できないような場合に、最後の手段として使われます。

「関係」という言葉の意味は曖昧であり、一意に決まるものではありません。仕事や成果のように定義することはできません。多様な関係を包含するために、「関係」という一般的な言葉が使われていると言えます。

詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

組織の設計仕様

あらゆる組織構造が、目的の如何にかかわらず満たすべき必要最小限の要件があります。組織の設計仕様と呼ぶべきものです。

明晰さ

明快であること、分かりやすいことです。ただし、単純さと同じではありません。

必要としている情報、協力、意思決定などを、どこに行けば手にすることができるのかを、容易に知ることができなければなりません。

それらを知るために、いちいち組織マニュアルを読まなければならないとすれば、無用の摩擦、時間の浪費、論争や不満、意思決定の遅れにつながります。

ドラッカーは、明晰さと単純さの違いを建築物に喩えて説明しています。

ゴシック建築は複雑ですが、明晰です。自分の現在位置が分かります。建物を見て、目的やコンセプトが分かりやすい構造です。

近代ビルは単なる四角形で単純ですが、明晰ではありません。見取り図を見ても、自分の現在位置が容易に分かりません。目的やコンセプトもほとんど分かりません。

経済性

明晰さとも密接に関係します。人を成果に向けて動かすために必要なものは少なければ少ないほどよいという考え方です。

他人によるマネジメント、組織、管理、コミュニケーション、人事などの力をなるべく借りないで、自らをマネジメントでき、動機づけられることです。

方向づけ

関心を成果に向けさせられることです。努力や職人的技能、仕事が目的にならないようにすることです。努力や技能、能力ではなく、成果や業績によって評価される者の数を、できる限り増やせるようにします。

簡単ではあっても、古びた製品や事業に関心を向けさせるようではいけません。困難ではあっても、成長の期待される新しい製品や情報に関心を向けさせるようでなければなりません。

理解の容易さ

自分の仕事が、容易に理解できることです。共同の仕事、組織全体の仕事も容易に理解できることが必要です。

自分の仕事が組織全体のどこに位置しているのか、全体の仕事が自分の仕事、貢献、努力にとって何を意味しているのかが理解できることです。

組織構造がコミュニケーションの障害になってはいけません。コミュニケーションは、下向きだけではありません。上向きにも横向き(部門を超えて)にも容易に行われる必要があります。

意思決定の容易さ

意思決定を、組織の活動や個人の仕事に移すことが容易でなければなりません。

常に高いレベルでしか意思決定ができないなら、意思決定の障害になります。機能別組織で、何事も社長しか意思決定ができないという組織は多いです。

重要な問題の発生がわからない、間違った問題(縄張り意識など)に関心を向けさせる組織構造も障害の元です。仕事の流れが分かりにくい、明晰でない組織でもあります。

安定性と適応性

組織は、働く人にとっては「わが家」であり、コミュニティでもあります。互いに知り合っている人がいること、その関係が安定していることが重要です。

しかし、硬直的であってはいけません。硬直的な組織は、脆く、安定していません。新しい状況やメンバーに適応できることが大切です。

永続性と自己革新の容易さ

明日のリーダーを内部から調達できることが、組織が永続できるために最も重要な条件です。組織内の人材が、仕事を通じて学び、成長していくことを助けるものでなければなりません。

組織にいるかぎり、継続学習ができなければなりません。現在のレベルの仕事が、次のレベルに上がる準備をさせ、テストするものになっていることが重要です。

新しい考えを受け入れ、進んで新しいことを行うことができる組織でなければなりません。

トレードオフとバランス

すべての仕様を常に完全に満足させる組織構造はありません。5つの設計原理は、いずれも一長一短があり、限界があり、満たせる仕様に違いがあります。

しかし、仕様をすべて、かなりの程度満たさなければ、組織は成果をあげ、永続することができません。

したがって、いくつかの組織構造を同時に適用しながら、バランスをとる必要があります。