組織の基本単位の明確化

組織構造は目的を達成するための手段ですから、戦略に従います。戦略を変えれば、組織構造は分析し直さなければなりません。

組織構造を設計するには、組織が求める成果から始めなければなりません。間違っても、特定の組織構造を機械的に当てはめるようなことをしてはいけません。

特に過去に成功した事業を持つ企業では、既存の組織を前提に考えると、すでに陳腐化した活動が重視され、将来の成功の目を持つ活動が軽視されます。ですから、先入観を廃して、戦略を起点に、白紙の状態から始めます。

まず、戦略の成功に欠くことができない活動、すなわち「基幹活動」を明らかにします。基幹活動が「組織の基本単位」となります。

ドラッカーは、組織の基本単位を設計するに当たって検討すべき4つの視点を提供します。

  1. 何を組織の基本単位とするか。
  2. 何を一緒にするか、何を分離するか。
  3. いかなる大きさと形にするか。
  4. いかなる位置づけを行い、いかなる関係をもたせるか。

これらによって、基幹活動の洗い出し、分類、相対的な位置づけや関係を大枠でつかみます。その後に、組織の設計原理や満たすべき仕様に従って、組織構造の具体的な設計に入ります。

まずは基幹活動を洗い出すための活動分析を行い、次に活動を分類するための貢献分析を行います。

基幹活動の分析

組織には「一般的にあらゆる事業に適用できる機能が存在する」という意見があります。メーカーの場合は、生産、マーケティング、エンジニアリング、経理、購買、人事などです。

それらは大枠の区分であり、入れ物にしかすぎません。大事なのは、その入れ物に入れるべき活動です。その活動を特定しなければなりません。

事業が違えば、同じ活動が違う入れ物に入ることもあります。空っぽの入れ物も出てくるかもしれません。それらを特定するために、基幹活動を分析します。

組織は戦略に従います。求める成果からはじめなければなりません。

まず知るべきは、組織の重荷を担う部分、すなわち基幹活動です。組織の目標の達成と戦略の成功に欠くことのできない活動あり、組織の中核です。基幹活動が「組織の基本単位」であり、組織に必要な最低限の構造です。

基幹活動を知るには、次の質問に答える必要があります。

  • 組織の目的を達成するには、いかなる分野において卓越性が必要か。
  • いかなる分野において成果があがらないとき、致命的な損害を被るか、いかなる分野に最大の弱点を見るか。
  • 本当に必要な価値は何か。

戦略で具体化されている内容であっても、基幹活動を知るために、改めて問うことが有益です。

例えば、安全性、品質、サービスなどがあげられるかもしれません。これらに必要な活動を明らかにし、組織的な裏づけが失われないようにします。

貢献分析

次に、どの活動を一緒にするか、あるいは分離するかを決めます。

歴史的には、工務と商務、ラインとスタッフ、職能の種類などで、一緒にしたり分離したりしてきました。しかし、これらの分類も一種の先入観であり、機械的な当てはめになりがちです。

目的を達成するための組織構造を設計するので、貢献の種類によって分類することが必要です。技術的な専門分野が同じかどうかは関係ありません。

  • 果たすべき貢献の種類が違う活動は、別個に扱う。
  • 同一の貢献を果たす活動は、同一の部門にまとめ、同一のマネジメントの下に置く。

ドラッカーが提供する分類は、大きく次の4つです。

  1. 成果活動
      組織全体の成果に直接あるいは間接の関わりを持ち、測定可能な成果を生む活動
  2. インプット活動
      自らは成果を生むことなく、自ら生み出すものが他の組織単位によって利用されて初めて成果を生む活動
  3. 家事活動
    • 組織全体の成果とは間接的にも関わりのない付随的な活動
  4. トップ活動
    • トップマネジメントの活動

成果活動

さらに3つに分けられます。

直接成果活動

マーケティング、イノベーション、財務活動(資金の調達、管理)が少なくとも含まれます。

成果貢献活動

企業全体の成果や主要な部門の成果に貢献する活動です。

一般的には、製造、求人、教育訓練、調達、物流、エンジニアリングなどが含まれます。

情報活動

直接成果活動に必要とされる情報を供給する活動です。特定のプロセスではなく、全体のプロセスに関わる情報です。

ドラッカーは、この活動に特殊な位置づけを与えています。原子を例に「2価」の活動、すなわち2つの部門と結合する活動であると言います。

部局の長と結ばれる実線、本社と結ばれる点線を持ちます。集権化していると同時に、分権化していなければなりません。

特殊な位置づけから、他の仕事とは別に組織します。ただし、どの情報を一緒にし、どの情報を別にするかについての明確な答えはなく、目的や戦略に応じて考えます。

ドラッカーは、情報活動に分類される情報として「経理」と「OR(オペレーションズ・リサーチ)」を例にあげています。

「経理」はお金を扱うため財務と一緒にされることがありますが、それは適切ではありません。財務は、資金の調達や管理を行う直接成果活動です。経理が扱うのは、お金という共通単位で表した成果としての「数字」です。目標達成状況を評価するための情報です。

インプット活動

さらに3つに分けられます。

良識活動

組織にとって卓越しなければならない分野において基準を設定し、ビジョンを描き、それにしたがって仕事ぶりをチェック(監査)する活動です。

組織が行うべきでありながら、実際は行っていないことを知るための活動です。対象は、企業の成功と存続に中心的かつ致命的に重要な分野のみに限定します。

ドラッカーは次の分野を例示しています。

  • 人事
  • マーケティング
  • イノベーション
  • 企業活動の環境に対する影響、社会的責任に関わる問題
  • 地域社会との関係

この活動には、少数、できれば尊敬されている一人のトップマネジメントが携わることが望ましいと言います。独立した活動とし、他の活動の下に位置づけたり、一緒にしたりしてはいけません。

担当する任期は短期にすべきです。やがて鈍感にならないとは言えないからです。功成り名を遂げた者の最終ポストに相応しいと言えます。

ただし、あらゆるレベルのマネジメントが、この仕事に参画する必要があります。決定権は、少数または一人のトップマネジメントが持ちます。

助言活動

典型的なスタッフ活動が含まれます。他の活動を行う人たちの能力を増大するための活動です。他の活動に対していかなる貢献をなすかを問います。

助言活動は、予算によって運営されるがゆえに肥大化の危険を持っています。したがって、次の原則を守る必要があります。

  • 極力小さくしなければならない。
    • 基幹活動だけを対象にし、スクラップ&ビルドが原則です。
  • 他の人に手柄を立てさせることを欲する気質を持たなければならない。
    • 自ら現業の仕事を行ってはならず、人が学び取るまで待たなければなりません。現業の仕事を邪魔したり、現業部門の主人になろうとしてはいけません。
    • 自分たちが奉仕する現業部門の業績によって評価されます。自分たちが立案したプログラムがどれだけ採用されたかで評価されるものではありません。
    • 手法や道具、方法論を画一化してはなりません。現業部門のための方針や手続き、プログラムなどを作成し、採用を強制してはいけません。それらの作成は現業部門の仕事であり、少なくとも現業部門のマネジメントが選んだ人たちに行わせます。最終的な採用の決定は、現業部門のマネジメントの権限です。
  • 現業の部門が共通して必要とするスペシャリストは、独立した部局に一括して配属しなければならない。
  • 独占的な地位は与えてはならない。
    • 現業のマネジメントには、外部の専門能力との選択の自由を与えます。
  • 長期の仕事にしてはならない。
    • 現業の仕事を軽く見るようになり、正しさよりも頭の良さを大事にするようになります。
    • 自らの成果を手にできないため、欲求不満に陥ります。
    • ただし、トップになる者は必ず持つべき経験です。権限なしに効果をあげる能力を身につけるうえで優れた訓練、経験となります。

関係活動

法律部門、特許部門などが該当します。

家事活動

健康管理、清掃、食堂、年金・退職基金の管理、政府指定の記録類の管理など、種々雑多な活動が含まれます。

本業とは異なる種類の人間、価値観、評価基準が必要とされます。本業のマネジメントからの監督は必要ありません。そのため、軽く見られがちです。

だからといって、軽く扱うと、組織に害を与えます。法的な義務を怠り、働く人たちの志気を下げ、社会的な責任に背くおそれがあります。

ドラッカーは、望ましい方法として、次のいずれかを提案します。少なくとも、他の活動からは分けておかなければなりません。

  • 職場コミュニティに任せる。
  • 外部のスペシャリストに任せる(アウトソーシング)。

それぞれの提案について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

トップ活動

トップマネジメントの活動は、別に扱います。

以上の貢献分析によって、活動を分類することができます。貢献の種類が違えば、取り組み方も変わります。活動の重要度と位置づけが変わってくるからです。

貢献分析によって、最低限満たすべき組織構造上のルールを、ドラッカーは次のように指摘しています。

  • 直接成果活動を他の活動の下に位置づけてはならない。
  • インプット活動を直接成果活動や成果貢献活動と同一に扱ってはならない。分離して置かなければならない。