「標準作業」とは何か? − 「トヨタ生産方式」とは何か?⑤

トヨタ生産方式では、ムダを明らかにするために「目で見る管理」を徹底させます。その基本となるのが「標準作業」です。各作業場所には必ず標準作業が示されていなければなりません。

現場の人間は、標準作業を自らの手で書いてみなければなりません。他人に分からせるには、まず自らが十分に納得できるものでなければならないからです。

標準作業を基にして、設備の内容、機械の配置、加工方法の改善、自働化の工夫、治工具の改良、搬送方法の検討や仕掛品手持ちの適正化などによって、ムダの徹底的な排除を行います。

標準作業において肝要なのは、効率的な生産を遂行するための諸条件を考慮して、物と機械と人の働きを最も有効に組み合わせることです。

この組み合わせの過程が「作業の組み合わせ」であり、その集約された結果が「標準作業」です。

標準作業表には、①サイクル・タイム、②作業順序、③標準手持ち、の3点が明確に記載されます。これらを「標準作業の三要素」と呼びます。

サイクル・タイム(タクト)

「サイクル・タイム」とは「タクト」とも呼ばれ、一個あるいは一台を作るために必要な時間です。生産数量(必要数)と可動(稼働)時間によって決定されます。

サイクル・タイムを決めても、実際は、作る人によって個人差が出ます。「時間は動作の影」とも言われ、人による作業時間の違いのほとんどは、動作・手順が違うことによって生じます。ここで「作業順序」が重要になります。

現場の監督者が、手順や急所やコツなどを教え込み、表示などを明確にすることによって、やり直しや部品の取り違えといったムダな動作から早く抜け出せるようにします。

同時に、トヨタでは、作業者と作業者のつなぎの工程は「助け合い」ができるように作られています。リレーのバトンタッチ・ゾーンのような役割です。これが人間の和を育てます。

作業順序

「作業順序」は、作業者が物を加工する場合に、物を運び、機械に取り付け、取り外すなど、時間の流れとともに作業をしていく順序のことです。

作業手持ち

「作業手持ち」とは、作業をしていくために、これだけは必要だという工程内の仕掛品のことです。機械に取り付けている物も含めます。

作業手持ちは、理論上、作業を加工工程の順に沿って行う場合(push方式)、各工程の機械に取り付けられた物だけあればよく、工程間の手持ち在庫は必要ありません。

工程が進む逆の順序で作業をする場合(pull方式)、後工程が引き取れるよう、前工程が完了した仕掛品がなければいけないので、工程間に一個ずつの手持ち在庫が必要です。

「標準」の意味

「標準」は、上からのお仕着せではなく、生産現場の人間が作り上げるべきものです。ただし、企業全体の大きなデザインの中で工場全体のシステムが設定されてこそ、生産現場の各部分の「標準」も緻密で弾力的なものになります。

大野氏は、「標準」の考え方に関し、ヘンリー・フォード一世の考え方をたたき台にしたといいます。

フォードは、「標準化」には「惰性」を表すものと「進歩」を表すものがあるといいました。それは、生産者側の視点で見るか、消費者側の視点で見るかの違いです。

国や業界が定める「標準」は、多くの場合、生産者の視点で作られ、生産者は「標準」のために生産することが目的になり、「惰性」になります。

消費者の視点による「標準」は、消費者のニーズを重視して、それをいかに安いコストで効率的に生産するかという生産部門内部での工夫の賜物ですから、「進歩」になります。

「進歩」である以上、「標準」は最善であると思ってはいけません。あくまで改善のためのベースであって、刻々変わっていかなければならないものです。

「標準に従う」というと「決められたことを守る」というイメージですが、「標準」は現場の人間が作り上げるものであり改善のベースであることから、「自分たちが決めたことを守る」というのが「標準に従う」という意味です。

一旦「標準」と決めたものは、まずそれに従ってやってみなければなりません。やっていくうちに改善案が出てくるので、それを提案し、承認して、新たな「標準」とします。

「標準」があってこそ、上から下まで「打てば響く人間集団」になるといいます。「標準」が共通認識となり、それをベースにして、上からはより大局的な提案が、下からはよりきめ細かな提案が出てくるようになります。

「稼働率」と「可動率」の違い

トヨタでは、「稼働率」と「可動率」は厳密に区別されます。「稼働率」は、その機械の生産能力(フル稼働したときの生産量)に対する生産実績の比率です。

「可動率」は、動かしたいときにいつでも動かせる状態になっているかどうかを比率で表すものです。理想は100%です。動かしたいときに、故障していたり、段取り替えなどの準備ができていなかったりすると、この比率が下がります。

「稼働率」が低いと、一般的に、生産性が低いと理解されます。しかし、この考え方こそ「作り過ぎのムダ」を生みます。重要なのは「可動率」を100%に近づけることです。

「稼働率」に似ていて、生産性の誤解を生じさせるものに、「一人当たりの生産量」があります。例えば、以前は10人で100個(一人当たり10個)の生産であったのに、同じく10人で120個(一人当たり12個)生産できるようになったら、生産性が上がったと言われます。

これによって生産性が上がったと必ずしも言えない理由は、もし必要量が100個またはそれ未満だったとすれば、「作り過ぎのムダ」が生じることになるからです。

この場合に、はっきりと生産性が上がったと言えるためには、原価低減すなわち必要人数を減らすという措置がとられ、余剰人員が別のところで付加価値を生むことが必要です。

トヨタ生産方式においては、必要数が変わらなかったり、減産しているときに、量を増やして能率を高めることを「見かけ(計算上)の能率アップ」と呼びます。

「必要な量」だけ作ることが絶対に必要です。これは市場の動向から決まるものであって、生産現場が勝手に決めるものではありません。

与えられた必要数を作るための原価を低減させることが重要であり、そのためのムダの排除です。人間の作業の一部を「自働化」して余剰分を別の仕事に回すなどによって、できるだけ多くの仕事(働き)をしてもらうことでです。