経営組織は社会的構造を持ち、個々人は時間的にも空間的にもその中を絶えず移動し、組織はこれによって活動を続けます。
社会的構造は人々共通の感情、価値、信念に裏付けられた固有の行動型によって特徴づけられ、時間を経るにつれて比較的安定したものとなります。
安定した社会的構造は、組織が効果的な機能を果たすために必要です。安定した構造が変化に対する抵抗を示すようにもなります。社会的構造を通して、人々は、社会的承認、安定、新しい経験、協力といったものに起因する満足感を得ることができます。
均衡の条件
経営組織は、次の3つの構成要素を持っています。これらが相互に密接に関連し合い、依存し合って、均衡の条件を作っています。
- 組織を構成している個々人の社会的学習
- 行動の社会的規範、集団的信念および感情
- 個人的技能
- 偏執的・非合理的先入観といった対社会的態度
- 経済的利害
- 論理的能力
- フォーマルな組織
- 組織内におけるフォーマルな行動様式およびそれらを裏付けている感情と信念の体系であり、社規、社則、経営方針などによって規定され、個人はそれらに服従を強いられる。
- インフォーマルな組織
- 特定の作業集団におけるインフォーマルな行動様式およびそれらを裏付けている感情と信念の体系であり、地域集団における自然発生的な行動規範や慣例として、個人はこれらにも服従しなければならない。
変化の速度は、それぞれに相違があると考えられます。一般的に、フォーマルな組織はインフォーマルな組織に比べて急速に変化することが可能です。経営者の意思により、形式上速やかに変更することができるからです。
また、インフォーマルな組織は、その成員個々人の社会的学習の速度に比べてより急速に変化することが可能であるとされます。これは集団効果であり、一部のリーダーによる変化の強制ではありません。
このような個人と組織の間における変化の相違が社会的不均衡の原因となりますから、その原因を取り除き、均衡を維持しようとすることこそ、協同現象の処理に当たって、経営管理の熟練家が絶えず考慮しているものです。
経営管理者が統制を実施できるのは、この均衡の条件および不均衡を招来するような諸原因についての理解を通してです。また、その時その場で取るべき処置についての正しい判断は、均衡の条件に対するプラスの要因とマイナスの要因とをはっきり認識することによってのみ可能です。
不安定の影響
均衡状態は、常に維持されているとは限りません。
局所的な不安定は、技術的変化、雇用、抜擢、異動、昇進など様々な原因から起こり得ます。その不安定が是正され得るものであっても、放任されると、やがては組織に広範な影響を引き起こすおそれもあります。
その結果、組織内の一集団が他のすべての集団と対立的に分離してしまうようなこともあります。
工員集団の対立的分離
近代産業社会には、次の場合に、工員集団が組織内の他の集団から対立的に分離してしまう傾向が見られたといいます。
- 工員集団を他のすべての集団から差別するような社会的作用が強く、かつその集団と他の集団との間に異動がほとんど行われない場合
- 集団内の工員たちが相互に差別し合わず、強力に団結しようとする傾向がある場合
- 経営者的立場から設けられた社会的区別が、社会生活における一般人の価値感情を無視していたり、それに逆行している場合
- 現実の経営管理がしばしば工員の感情を無視して実施される結果、工員層でフォーマルな管理に対抗してインフォーマルな防御組織を形成するような場合
工員集団は、作業条件、作業方法、作業基準などの点で、ことごとく事務職員、技術者および監督者集団と区別されていました。作業の質と量を測り、それに従って賃金を支給しようとする方式も、主として工員集団を対象として実施されてきました。
当時の産業社会においては、能率に従って人々を区分する評価が極端に利用され、逆に、日常社会生活における慣例に従って人々を区分する評価(人間価値を考慮する評価)は、ほとんど用いられなくなっていました。
能率の論理のみによる評価で昇進し、管理者となっていくならば、その人は、部下の感情を無視し、能率の論理のみによって人を管理するようになるかもしれません。また、昇進に取り残される人々は、自分たちの人間価値を評価してくれる別の組織に拠り所を求めるようになるかもしれません。
円滑なコミュニケーション
社会的不安定は、円滑なコミュニケーションの欠如から起こることもあります。経営者は従業員層における具体的状況を把握できなくなるからです。
このような障害のいくつかは、監督者側における誤った考え方と不十分な人間評価から起こります。
現存する状況と、上層部が期待している状況との間にかなりの開きがある場合、監督者は、上層部の命令を実行すれば従業員層に反発が起こることを承知しているため、上層部に対して口先だけの追随をし、ラインを通して実情に反した報告をしがちです。実際、上役に対しては、インフォーマルな社会的評価に従ってよりは、紋切型の能率基準に従って報告を行う場合のほうが、伝達事項は楽に運ばれ、受け入れてもらえることが多いからです。
ラインを構成する各層の間に存在している諸関係や、監督者と従業員との間の諸関係の中に生ずる諸々のコミュニケーションの問題は、これを単純かつ直接的な仕方で診断したり、調整することは困難です。しかし、問題の正しい理解なくして解決はありません。