協働体系における物的制約と生物的制約 − バーナードの組織論②

人間は達成したい目的を持つ一方で、物的、生物的、社会的な制約を受けて生きています。その制約を克服して目的を達成するために、協働が生じます。

ここではまず、物的、生物的な制約の克服という観点から、協働について考えます。目的も、物的、生物的なものに限定します。社会的な目的や制約は、別のところで論じられます。

協働の有効性

目的達成の制約として、個人の生物的才能や能力ならびに環境の物的要因を考えます。

制約とは何か

そもそも、目的のないところに制約はありません。さらに、それぞれの制約は相互に関連し、結合した状態で目的の達成を制約します。

単純な例をあげると、大きな石を動かそうとする場合、一人の人間の物理的力に対して、その石が大き過ぎ、重過ぎることが制約になります。また、石を動かす場所の環境も制約になります。例えば、粗い面で動かそうとするのか、斜面で動かそうとするのか、などです。

この例では、人間の物理的力、石の大きさや重さ、場所といった制約は、それぞれが独立しているのではなく、結合した状態で制約を作っています。人間の大きさや力との関係で、石の大きさや重さが制約になります。また、人が石を動かそうとするから、その場所の状態が制約になります。

複数の制約が結合しているとはいっても、すべての制約を克服しなければ目的を達成できない、ということはほとんどありません。

制約の中には変化させることが容易なものと困難なものがあり、ある一つの制約に変化を加えることによって結合された制約を克服し、目的を達成できることが少なくありません。

人が何かを制約とみなす場合、最初から克服できないと分かっているものは、最初から着目されることはありません。

石を動かす例では、本来、重力の存在が制約になりますが、重力を変えることはできないため、最初から制約と認識されません。孤立した一人の人間が石を動かそうとするなら、自分の物理的力を大きく変えることはできないため、その物理的力も最初から制約として認識されません。

ある制約を克服すれば目的が達成できると予想される場合に、それが制約(克服されなければならないもの)として認識されます。

目的の細分化

一つの大きな目的を細分化し、その細分目的の一部を当面の主要目的として限定し、達成していくことによって、最終的に当初の大きな目的の達成に近づいていくことができます。

制約の克服は、目的に対する手段に相当します。手段が存在しない目的は、掲げられる意味がありませんので、制約を克服できない目的は取り下げられます。

協働のための構造

人間一人がある目的を達成しようとする場合、生物的力(能力、体力、才能などを広く含む。)を大きく変えることができないため、通常、その他の物的条件を制約として認識します。

2人以上の協働が可能であり、協働によって物的条件の制約を克服できると予想される場合には、制約として認識されるものが変化します。つまり、物的条件は制約ではなくなり、目的を達成するために必要な生物的力の増大を協働によっていかに可能にするかということが制約になります。

協働が有効的である(目的を達成し得る)ためには、一人ひとりの個人的努力を整然と結合できなければなりません。

分業による結合、すなわち、機能と努力を専門分化するための構造(仕組み)を生み出すことによって、協働は有効的になります。

協働の目的

協働の目的は、個人的行為の目的とは種類や質が変化しますので、協働の目的が達成されたからといって、個人的目的が達成されることはほとんどありません。

個人的目的が達成されるためには、協働によって得られるものを分配する過程が必要です。

協働が始まると、それが一時的なものでない限り、協働自体を維持すること、そして促進することを目指すようになります。前者は運転資本の確保、後者は固定資本の確保に相当します。

環境変化と協働過程の適応

環境条件は変化するため、協働に対する環境の制約も絶えず変化します。協働体系を維持するためには、この環境変化に継続的に適応していかなければなりません。

適応能力の獲得自体も、協働のための制約的要因となるため、適応の過程およびそのための専門的な機関が発展します。

この適応過程がマネジメント・プロセスであり、その専門機関が管理組織です。したがって、この過程と機関が、次なる協働の制約となります。

目的の変更と協働過程の適応

協働体系の不安定性は、物的環境の変化や、協働体系内の適応過程や管理過程の不確定性から生じます。さらに、目的達成の可能性が変化することに伴って、目的の性格が変更されることからも生じます。

新しい制約が克服される度に、あるいは制約の克服に失敗する度に、新しい目的が現れ、古い目的が破棄されます。

協働体系の発展の伴って、通常、目的の数やその範囲が拡大します。その拡大自体も協働における不安定要因となります。協働が発展し、より複雑になるにつれて、不安定要因は増大するでしょう。