協働体系における心理的および社会的要因 − バーナードの組織論③

「心理的要因」とは、個人が起こす行動の内部的要因となるもの、すなわち「動機」です。そのうち、人間関係に関わる要因のことを「社会的要因」と呼びます。

個人には経験の能力あります。過去から作用し続けてきた諸要因およびそれらに対する反応や解釈が心理的要因として形成され、現在の行動のうえにも様々な影響を与えます。

心理的要因が作用する過程を「条件づけ」と呼びます。

個人には、限られていはいるものの、選択力があります。選択力が有効に働くためには、範囲の限定や制約がむしろ必要あり、その人の経験やその時の状況に応じて選択力を働かせる要因になります。

人間に選択力があるために、現在の諸条件に対して単なる反応以上のことをして、環境に適用しようとする活動が可能になります。

心理的要因の意義

協働体系に関わる人々に対しては、2つの評価が必要です。能力(どんな人か、何ができるか)、そして決断力または意欲(何を欲し、何をしようとしているか)です。

人間同士の満足な関係を確立するために、これら2つの評価に基づいて、さらに2つの方向で相手に働きかけを行うことができます。相手の選択の機会を狭める方向か、拡大する方向です。

前者は、相手に自分の邪魔をさせないようにすることです。相手の動きを阻害するように外部の状況を変えたり、相手の心理状態に影響を与えて相手の欲望を制限させたりします。自分のために他人を操縦しようとする考え方です。

後者は、相手の役に立つものを与えて、相手の可能性を広げてあげることです。他人のことを、欲求を満たすべき主体として尊重することを意味します。

社会的要因の意義

「社会的要因」とは、個人の行動の原因となる心理的要因のうち、人間関係に関わる要因のことです。社会的関係、すなわち個人間または個人・集団間の相互作用によって生じます。

社会的要因は個人に影響を与えますが、ここでは、個人が協働体系その他の社会的関係に働きかけることは想定しません。

社会的要因は、他の様々な要因と不可分に混じり合った形で、協働体系内の人々の精神的、感情的な性格の中に組み入れられ、個人の動機に変化を起こします。

その変化は、協働体系に「調和」を生み出す場合もあれば、「不調和」を生み出す場合もあります。「調和」は、協働のための必要条件の一つです。

なお、相互作用は、個人と集団との間でも生じます。集団は個人の集まりですが、個人の総和以上のものです。集団自体が一つの社会的単位であり、社会的行為の主体となります。

協働体系の維持・発展を目的として、意図的に個人に対して影響力を行使することが必要とされます。

個人を協働体系内に引き入れようとすること、協働体系内の個人の行為を統制することです。

公式的な協働体系には目的や目標が必要です。目的や目標自体も協働によって設定されます。

協働の目的と個人の目的とを完全に区別することは重要です。一人ではできないことをするために他人の助けを借りるような場合でも、その目的は個人的なものから集団的なものとなり、その結果から集団のメンバーに満足が生じます。

協働の目的が達せられた場合には、その協働は「有効」であったと言われます。「有効」の程度は協働の観点から評価され、個人的観点とは無関係です。

協働において個人の努力が「有効」であったという場合、個人の努力が協働の成果にいかなる意義を持つかを、協働の観点から判断することになります。

「有効」かどうかの判断において個人的観点は無関係ですが、実際に「有効」な努力を個人から引き出すためには、その人の個人的動機を何らかの方法で満たす必要があります。

個人的動機を満たしているかどうかは、協働の「能率」に関わります。メンバー全員の個人的動機がどこまで満たされるかが、協働の「能率」を決めます。

個人的動機がまったく満たされないのであれば、その人は協働に参加する動機がなく、一旦参加したとしても、直ちに離脱するでしょう。協働に対して個人がどれだけ努力を注ぐかは、個人の意思によります。

個人的努力と協働の能率との関係は、その個人の立場や役割によって違いが生じるはずです。すべてのメンバーが同程度に貢献しているということはなく、ある人の貢献度が協働の能率を決定する上で致命的に重要であるという場合もあるでしょう。

個人の行為は、求めていた結果を生じると同時に、求めざる結果を伴うことが常です。その結果は、個人に満足または不満足をもたらします。

つまり、個人にとっての特定目的の達成とは別に、協働に参加することから生じる個人的満足・不満足があるということです。それは個人の相互作用の結果であり、社会的なものです。

同じく、協働行為にも、必然的に求めざる結果を伴います。その結果には、社会的なものも物的なものも含まれます。それに対する満足・不満足が、協働の「能率」に影響を与えます。

協働の結果は、協働に参加した人々だけでなく、協働に参加しない人々に対しても、社会的条件づけになります。協働によって人々の動機は絶えず修正され、協働自体に変化を与えます。