社会的責任の遂行は、マネジメントにとって第3の役割です。
あらゆる組織のマネジメントが、自らの活動によって、他人、環境、社会に与える影響について責任をもたなければなりません。
また、自らの活動とは関わりのない社会的な問題についても、解決を期待されています。
企業の社会的責任の変化
企業に求められる社会的責任は、歴史的にも大きく変化してきました。
ドラッカーによると、かつて企業の社会的責任として議論されていたのは、次の3点でした。
- 私的な倫理と公的な倫理との関係に関わる問題
- 企業人は私人であるか公人であるか。
- 両者について、どのように折り合いをつけるか。
- 働く者に対する責任に関わる問題
- 経営者あるいは資本家が、労働者から搾取する問題
- 職場環境の改善
- 地域社会への貢献という意味での責任に関わる問題
- 公益活動への参加、協力
- 慈善活動への寄付や公益活動の後援など
主体は、企業ではなく企業人の社会的責任の問題でした。企業人が本業以外の場でどのような貢献をなすべきであり、なすことができるかということが主眼でした。
その後、企業そのものがなすべき貢献に重点が移りました。原因は、個人の資産形成が困難になった一方で、法人による寄付が優遇されたからでした。
企業に対する社会の要求は、さらに高度になっています。
企業の事業活動とは直接関係のないことであっても、社会に存在する問題に対して積極的に関与し、解決を図るべきであるという考え方です。人種差別などの社会問題や、自然環境の保全などの問題に対する貢献に重点が置かれています。
企業の社会的責任には、限界がないかのようです。社会の良心として、あらゆる社会問題に責任を持つべきであると要求されています。企業以外の公的・サービス機関に対しても同様です。
企業への社会的責任の要求が高度化した理由
なぜ、そのような要求が出てきたのでしょうか。ドラッカーは、2つの理由を指摘しています。
マネジメントに対する過信
企業への敵意ではなく、過信であると言います。企業が社会に対してあげてきた実績、成功の代償です。
政府に対する幻滅
社会の問題を解決する政府の能力への不信です。これほど政府は大きくなってきたのに、多くの問題を解決できないでいるという不満があります。
両者が相まって、企業のマネジメントが社会のリーダー的な階層としての地位を受け継いだという考え方です。企業は、自らの既存の事業の範囲を超えて、より積極的に生活の質を向上させ、より良い社会をつくるべきであると要求されています。
企業の社会的責任に伴う危険性
企業が積極的に社会問題を解決し、より良い社会をつくっていくということは、素晴らしい貢献であると言えますが、そこには危険も潜んでいるとドラッカーは警告します。
企業の経済的機能を損なう危険性
本来の事業をおろそかにし、企業自体が立ち行かなくなる事態になるおそれがあります。
本来の役割を損なってしまうことは、社会に果たすべき貢献を果たせなくなるということであり、社会全体を損なう危険に発展します。
権限のない領域でマネジメントに権力を行使させてしまう危険性
よき意図で始めたことであっても、元々権限のないところで権力を行使する結果となり、社会に良くない影響を与えてしまうかもしれません。
ドラッカーは、具体的に3つの例をあげています。
- ウェストバージニア州ビエナの町
- 高失業地域への工場立地を図り、当時では高性能であった公害防止設備も設置しました。
- 当初は、救世主のごとく称賛されたものの、後に公害に対して激しく批判されることになりました。
- スウィフト・デ・アルヘンティーナの悲劇
- 高失業地域で、経営的に厳しかったものの工場を維持しました。
- 努力を尽くしましたが、最終的には閉鎖に至り、債権者への債務返済を提案しました。債権者には了承されたものの、法廷では不正として不承認とされました。
- 公民権とクエーカーの良心
- 鉄鋼メーカーが、人種差別のひどい地域で、黒人への人員配置の配慮をしようとしました。
- 担当者に現地対応をさせましたが、労働組合からストライキの警告を受け、結局、受け入れられず、辞任しました。
- 何年か後、人種問題についてリーダーシップをとらなかったと攻撃されることになりました。
社会的責任もマネジメントが必要
マネジメントは、自らの組織に責任を負っている以上、よき意図や良心だけで社会的責任を果たすことはできません。自らの組織を危険に陥れたり、社会に予期しない悪影響を与えたりするからです。
だからといって、社会的責任を回避することはできません。そこに解決すべき社会のニーズがあり、現代社会にはマネジメント以外にリーダー的な階層が存在しないからです。
社会的責任も、基本と原則に従ってマネジメントしなければなりません。
- 自らの役割を徹底的に検討する。
- 目標を設定する。
- 成果をあげる。
社会的責任のマネジメントについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。