企業とは何か

「企業」は、社会の中に存在する組織の一つであり、社会にとって有益な機能を果たすために存在を許容されています。

企業は、社会に対して果たすべき機能、すなわち目的によって定義されなければなりません。

企業の目的は「営利」や「利潤追求」ではなく、「顧客の創造」です。お金を払ってでも購入したいと思う財やサービスを提供することによって、満足を得る人たちを生み出すことです。

顧客を創造した結果、企業が得るものが「経済的成果」、すなわち「利益」です。利益は、顧客が満足した証として支払った対価の集積であり、企業の成果を測る成績表です。

“企業=営利組織” ではない

組織を分類する一つの基準として、よく使われるのが「利益」です。「営利」か「非営利」かで区分され、企業は営利組織とされます。

分類としては成り立っているように見えますが、「企業とは何か」という説明にはなっていません。何のために存在するのかが、まったく分からないからです。

利益は、非営利組織にも必要です。利益がなければ費用を払えず、投資をして事業を拡大することもできません。利益を処分することはできませんが、組織としての機能を果たすためには、利益は絶対に必要です。

「営利」、「非営利」の区分は、利益を処分することができる(株主や役員などに配分することができる)かどうかを説明しているにすぎません。

利益の意味について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

企業の目的は顧客を創造すること

企業とは何かを知るには、企業が何のために存在するのか、すなわち企業の目的から考えなければなりません。

先に述べたような、企業を営利組織と定義する考え方は、企業の目的を「営利」や「利潤追求」とする誤った考え方を導きます。企業の目的を「営利」とするなら、企業は自己のために存在し、社会から富を吸い取るために存在していることになってしまいます。

このような誤った考え方が、社会に著しい害毒を流してきたことを理解すべきです。この点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

企業もまた社会の機関です。社会のニーズを満たすことによって存在することを許された機関ですから、企業の目的は、企業の外である社会に求めなければなりません。

企業が着目する社会のニーズは、財やサービスに対する欲求(需要)です。

  • すでに欲求が感じられているところへ、それを満足させる手段を提供すること
  • いまだ感じられていない欲求を明らかにし、それを満足させる手段を提供すること

それらの欲求は、大きく2種類に分けることができます。一つは、財やサービスの受益者自身がお金を払ってでも満たしたいと考える欲求、すなわち「有効需要」です。もう一つは、受益者に支払う意思がない、あるいは十分な支払い能力がないものの、受益者にとっても社会にとっても益になるものです。

後者は、公共の利益、社会福祉などに属するもので、社会的なインフラの整備、国防、治安維持、公教育、麻薬等の撲滅、ホームレス対策などがあるでしょう。

企業がターゲットにする欲求は、前者になります。なぜなら、企業は、主に私人が資金を出し合い、従業員を雇用して組織され、出資者も従業員も通常は経済的報酬を期待しているからです。独立自営での存続が求められているからです。

財やサービスへの欲求は、企業が決めることはできません。実際にお金を払う意思を持つ人々、すなわち「顧客」しか決めることができません。しかも、顧客が価値を認め購入するものは、財やサービスそのものではありません。財やサービスが提供する効用です。

顧客こそ、企業が存続するための基盤です。

企業の本質は経済的成果

企業の目的は、経済的報酬を支払う顧客を創造することであり、そのために社会から経済的資源を負託されています。

つまり、企業を他の組織と区別する本質は「経済的な成果」が生み出されることです。

「経済的な成果」とは、直接的には企業のボトムライン、すなわち、損益計算書の最終利益を意味します。経済的報酬を支払うことをよしとするほどに顧客を満足させた証であり、成績表が、利益であるということです。

しかも、負託された経済的資源の合計よりも大きな経済的成果を生み出すこと、すなわち社会に存在する富の創出能力を増大させることが企業にとっての成功です。

それぞれの経済的資源がバラバラに活用されていては、生み出される経済的成果は小さなものです。しかし、バラバラの経済的資源を企業という組織に集約し、組み合わせて上手に活用することで、より大きな経済的成果を生み出すことが可能になります。これこそ、企業が存在する意味になります。

逆に言うと、バラバラの経済的資源の合計よりも大きな経済的成果を生み出せない企業、すなわち赤字を生み出すだけの企業は、社会に存在する富を減らす存在であり、存在する意味はありません。

バラバラの経済的資源を企業という組織に集約し、組み合わせて上手に活用すること、この機能のことを「マネジメント」と呼びます。

顧客の創造を目的とする企業において、マネジメントすべき基本的な機能は、マーケティングとイノベーションです。この点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

また、これらの基本的な機能を成果あらしめるためには、経営資源を生産的に使用することが不可欠です。そのような機能を、ドラッカーは「管理的機能」と呼んでいます。この点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。