リエンジニアリングの失敗 − リエンジニアリング革命⑤

リエンジニアリングは、成功例があるものの、失敗例も少なくないといいます。しかも、同じ失敗が繰り返し起こっているといいます。

それらの失敗を導く過ちを知り、避けることができなければ、リエンジニアリングが成功することはありません。

プロセスの修正

この過ちは典型的です。改善がうまく行かなかいことをもって、「リエンジニアリングに効果はない」と決めつけてしまう話をよく聞きます。

逆に、改善によって一定の生産性向上が得られることをもって満足してしまうこともあります。

例えば、現在のプロセスのボトルネックを見つけて、その部分を情報システムによって自動化しようとします。確かにスピードアップするため、ボトルネックは解消されるかもしれませんが、プロセスは何も変わっていません。プロセス自体が顧客のニーズにマッチしていないのであれば、ボトルネックが解消されたことによって、不適切なプロセスが温存されることになります。情報システム化することによってスピードが上がるため、プロセスをより複雑にし、ブラックボックス化し、プロセスの理解を困難にしてしまうことも少なくありません。

オペレーションズ・リサーチの数理計画法などを使って、プロセスを最適化しようとする場合もあります。この方法も現行のプロセス(システム)が前提ですから、リエンジニアリングとは関係ありません。

既存のプロセスは、たとえ問題があったとしても、人はそれに慣れてしまっており、組織や資源もそれに適応していますから、それを存続させるほうが組織にとって楽だと思いがちです。しかし、組織にとって楽であっても、顧客のニーズとのギャップが生じているのであれば、企業の衰退は必至です。

ダウンサイジング

プロセス全体を処理する大々的な情報システムを導入し、人件費を大幅に減らそうとします。これをリエンジニアリングと称している例は少なくないようです。

これは単なる既存プロセスの組織的なダウンサイジングであり、いわゆる人員のリストラでしかありません。情報システム化によって逆に仕事が増えることはよくあります。既存のプロセスのままで、情報システム化するだけであれば、人員削減によって作業負荷は増加する可能性があります。

ビジネス・プロセスに焦点を当てない

世の中には、さまざまな経営改善手法が出回っています。新しい手法が出てくる度に、それに飛びつき、タスクフォースをつくって取り組み、何の成果も得られないということがよくあります。

エンパワーメント、チームワーク、イノベーション、顧客満足など、いろいろなテーマがありますが、いずれも単独でそれ自体に取り組む意味も方法もありません。

これらをリエンジニアリングと関連づけるのであれば、顧客満足を高めるために必要なアウトプットを明確にし、それを実現するためにリエンジニアリングを行います。リエンジニアリング自体がイノベーションです。リエンジニアリングしたプロセスを実行するために、必要なエンパワーメントやチームワークの内容が明らかになります。

人々の価値観や信念を無視する

リエンジニアリングされたプロセスは、実行されなければなりません。

適切に実行され、成果をあげるためには、あらゆる種類の変革が伴わなければなりません。職務デザイン、組織構造、評価・報酬・昇進制度、教育制度などのあらゆるマネジメント・システムの変革を要求するのが常です。

特に、マネジメント・システムの背景にある企業文化や態度、その前提となる価値観や信念を無視することはできません。これらを不明確にしたままリエンジニアリングを行おうとしても、どこかの段階で妨げられ、潰されることになります。

企業に根づいている文化や態度、その前提となる価値観や信念を直接的に変えることは非常に困難ですから、それをまず明らかにし、変革すべきことを宣言し、マネジメント・システムの変革とリエンジニアリング、およびそれらの実行によって、文化や態度、価値観や信念の改革にまでつなげていくことが大切です。

むしろ、価値観や信念の改革の具体化がリエンジニアリングであるさえ言うことができます。新たな価値観や信念を従業員が受け入れない限り、リエンジニアリングが成果をあげることはありません。

ところが、プロセスのリデザインが行われた後、マネジメント・システムへの波及が明らかになった途端、リーダーは二の足を踏み、プロジェクトが頓挫する例は少なくありません。仮にリエンジニアリングされたプロセスの実行のみを行ったとしても、既存のマネジメント・システムとの齟齬があれば、間違いなく失敗します。

マネジメント・システムに経営者の本気度が現れますから、その変革に二の足を踏むのであれば、経営者にリエンジニアリングの覚悟がなく、本気ではなかったということで終わります。

あまりに早く諦めてしまう

リエンジニアリングに抵抗はつきものですが、最初の問題が発生したときに、すぐに諦めてしまうことがあります。

変革には苦痛が伴うため、最初の小さな成功で終わりにしてしまうこともあります。

問題の定義とリエンジニアリングの範囲をあらかじめ設定してしまう

リエンジニアリングは、プロセスの目的、すなわち顧客のニーズに遡って、プロセスを抜本的につくり直そうとするものです。リエンジニアリング自体が問題を定義し、範囲を明確にすることを含んでいます。ですから、あらかじめ問題や範囲を限定したうえで行うものではありません。

問題や範囲が限定された取組は、リエンジニアリングではなく、単なる改善でしかありません。

リエンジニアリングをボトムアップで起こそうとする

リエンジニアリングには、トップダウン的な取組が必要です。このことは、ボトムアップ的な意見や取組を認めないということではなく、経営トップの明確な意思やコミットメントや支援が不可欠であるということです。

リエンジニアリングは、部門を超えた取組だからです。抜本的なプロセスのつくり直しは、既存の部門をまったく前提としない取組です。ところが、現場の従業員やマネジャーは、特定の部門において専門的な仕事をしているため、通常、そのような広い視野をもつことが困難です。

もちろん、顧客との接点にいる従業員が、顧客の立場から提案することは重要であり、それが経営トップによるリエンジニアリングの決意につながることはあり得ます。部門を超えた広い視野で抜本的な改革提案をする従業員がいることもあります。

しかし、部門のマネジャーは、リエンジニアリングによって自部門が消滅する可能性があるならば、それを恐れ、部下の提案を阻止するインセンティブが働く可能性があります。そのような障害を超えられるのは、最終的には経営トップのみです。

リエンジニアリングに必要な資源を惜しむ

必要な資源を投資しなければ、何事もなし得ません。

投資すべき重要な資源の代表は、最高の人材とその時間です。リエンジニアリングが重要であるといくら主張しようとも、優秀な人材を既存の事業から離さず、それほど優秀ではない人材を投入しようとするならば、結局のところ、リエンジニアリングの優先順位は低いことを宣言しているのと同じです。すべての従業員に、リエンジニアリングより既存の仕事を優先すると言っているのと同じだからです。

人材のなかでも、リーダーの人選は、リエンジニアリングを成功せるためのもっとも重要な選択です。

リーダーはリエンジニアリングを理解し、それに強く関与していなければなりません。事業志向であり、業務成果と財務結果の関係を評価できなければなりません。プロセス志向で、価値連鎖全体を考えることができなければなりません。

権威や肩書や年齢だけで務まる仕事ではありません。ところが、経営者の肝いりの改革プログラムと称して、権威のみで役員をリーダーに就けるものの、ほとんど下に丸投げするだけのお飾りであることは少なくありません。これによって、従業員は経営者が本気でないことを簡単に見抜きます。協力は表向きだけであり、嵐が過ぎ去るのを待つだけです。

資源を惜しむということは優先順位が下がるということであり、リエンジニアリングもやるが、他にも重要な課題があるということです。リエンジニアリングは、基本的な価値観や信念の変革に関わる困難な取組ですから、優先順位が下がれば、ほとんど何もできないで終わることになります。

リエンジニアリングと並行して、さまざまな改善プログラムや事業改革プログラムを実施する場合に、このようなことが起こりやすくなります。それぞれのプログラムで予算や人員の取り合いになります。リエンジニアリングが能力も権限もないスタッフ部門に任されて、最後は報告書を作成して終わりになります。

多くのリエンジニアリング・プロジェクトにエネルギーを分散してしまう

リエンジニアリングを最優先するにしても、あまりに多くのプロセスを対象にしては、結局、一つひとつに割く資源は分散されてしまいます。

ただでさえ困難な取組ですから、できる限り焦点を絞り、自制することが必要です。

CEOが退職間際にリエンジニアリングを試みる

CEOが自らの経歴の最後を飾るためにリエンジニアリングに着手するような場合、うまく行くことはほとんどありません。トップがすぐに代わることが分かっているので、部下たちが本気になることはほとんどありません。

むしろ彼らが気にするのは後継者の意向であり、後継者が本気でリエンジニアリングを引き継ぐ意思があるかどうかを見極めるまで、極力リスクを避けようとします。

不幸になる人がいないようにリエンジニアリングしようとする

リエンジニアリングは、多くの従業員にやりがいのある仕事を提供するはずです。

しかし、組織に痛みを伴うことは間違いありません。現在の仕事に慣れ親しんだり、既得権益をもったりしている人は、自分の仕事がなくなることに抵抗します。リエンジニアリング後の仕事に馴染めない人もいるでしょう。責任を引き受けることを拒絶する人もいます。

リエンジニアリングは、一義的には、すべての従業員を楽にしたり喜ばせたりするために行うのではなく、顧客を一層喜ばせるために行うものです。

抵抗が起こることを前提に、それを予測して管理しつつ、努力を後戻りさせないようにしなければなりません。

プロセスの再設計から実行までに時間を空ける

リエンジニアリングの改革綱領を作成したら、速やかに実行に移さなければなりません。

リエンジニアリングは、社内の人すべてにとってストレスのたまるものですから、実行にあまりにも時間をかけ過ぎると不快感が広がり、我慢できなくなります。小さな成功を積み重ね、モチベーションを維持し、できれば高めていかなければなりません。