事業を多角化するためには、新たな事業のための資源やスキルを取得しなければなりません。その手段には、内部で取得する方法と、外部から取得する方法があります。
多角化は新たな事業を行うことですから、リスクは不可避です。問題が明らかになったときにどうすべきかを知っておかなければなりません。
共通の市場に見えていたものが違っていたときにどうするか、自らがすでに持っているものと調和しなかったときにどうするかです。
多角化のための手段
自力開発と買収による方法があります。相互に代替的な手段ですが、ある重要なケースでは相互に補完的にもなります。
両者は異質であり、どちらもうまく行う組織はあまりありません。いずれが自分たちの気質、方法、能力に合っているかを知っておく必要があります。
いずれにしても、戦略に基づいていることが大切です。「われわれの事業は何か、何でなければならないか」からスタートします。
自力開発
自力開発に成功したら、自分たちにどんな貢献をしてくれるかを問います。いかなる能力、強み、市場、技術を与えてくれるかです。
買収が自力開発を生産的なものとするための手段となることがあります。自力開発が規模の不適切さを招き、大きな流通網や総合的な技術力を手に入れる必要を生むことがあるからです。
買収
買収は事業上の理由によるものでなければなりません。財務上の操作による金儲け目的がうまくいくことはありません。
ドラッカーは、企業買収が成功するための5つの原則を示しています。自力開発の経験が基礎として役に立ちます。
何を貢献できるか
新しいことが成功するためには、既存の能力がそこに生かせることが重要です。
同じように、新しい事業を買収するときは、買収する側が、買収される側の成果に貢献できることが必要です。この点がいつも抜け落ちますが、ドラッカーはいつもここを最重視します。
買収しようとしているのは、感情をもった人の集まりです。買収する側のメリットだけを考えていては、買収される側の人材が流出します。
貢献できる能力には、マネジメント力、技術力、販売力などがあります。資金力だけではうまくいきません。
共通の核をもつ
自社による多角化と同様、技術または市場における共通性が必要です。ただし、生産工程についての経験や専門能力を共通の核にしてうまくいく場合もあると言います。
共通の核が、共通の文化や文化的類似性として結びつきをつくります。
敬意をもつ
買収する側が、買収される側の製品、市場、顧客に敬意をもっていることが必要です。体質の一致を意味します。
敬意がなければ、買収される側の事業を大切に思えず、意思決定が重視されることも、うまくいくこともありません。
自前の経営陣を送り込む
買収によって経営陣を買うことはできません。ほぼ間違いなく、買収される側の経営陣はいなくなります。経営陣が部下になることに甘んじることはないからです。
一年以内に経営陣を送り込めるようにしておくべきです。
双方の人間を異動、昇進させる
買収した最初の一年間は、双方の人間を垣根を越えて多数異動、昇進させなければなりません。買収が双方の人間にとってメリットになったことを早々に確信させるためです。
若手にこそ一層これを適用します。買収後の事業を担う若手に希望を与える必要があるからです。
不健全な多角化を正すための手段
分離
うまく行っていない事業は、できるだけ早く惨めな状態から解放すべきです。
分離は、売却ではなくマーケティングと考えます。いくらで売りたいかではなく、誰にとって価値があるかが重要です。顧客を創造する必要があります。顧客の欲求からスタートするのがマーケティングです。
合弁
3つの種類があります。
- 2つの企業の強みを合わせる方法
- 単独では成立しない規模の事業を合体させる方法(量的合弁。親会社は同種類の貢献をします。)
- 二重国籍の取得(他国の企業との合弁)
合弁は、最も柔軟ですが、最も難しい手段でもあります。
失敗したときの利害は一致します。早く問題を片付けたいし、救えないなら最小の損失で手を引きたいと考えます。
成功する方が厄介な問題を生じさせます。途端に、親会社間の利害が相容れないことが明らかになり、主導権争いが生じます。このような意見の不一致を解決するためのメカニズムを、あらかじめ合意できることが鍵になります。
ドラッカーは、次のような対処方法を提案します。この考え方は、少数株式の保有、研究開発計画、マーケティング契約、クロスライセンス、情報交換協定、企業連合などの企業間連携にも適用できます。
関係者(親会社と合弁会社)の目的や目標をあらかじめ明らかにしておく
合弁会社が完全独立会社に育ち、親会社との競争も許すか、それはいかなる製品、サービス、市場においてか、などを決めておきます。
目的や目標は、3年ないし5年おきに、成功したときは更に頻繁に見直します。
意見が対立し、問題が暗礁に乗り上げたときの対処方策をあらかじめ定めておく
親会社が尊重する第三者を、最後の拠り所となるべき仲裁者に決めておきます。
仲裁者には、事前に定めた条件に従い、親会社の一方が他方の持ち分を買い取ること、合弁会社を解散あるいは独立させることなども勧告できる権限を与えます。
合弁会社の利益や研究開発などの経営方法について前もって合意する
利益の再投資または送金について決めておきます。
研究開発を独自に行わせるか、どの親会社に任せるかを決めておきます。共同研究を行うなら、成果についての特許の取得手続や帰属についても決めておきます。
合弁会社に自立性を与える
合弁の理由は、事業、製品、市場、活動が、親会社の構造に適していないからです。独立性を保持し、独自の使命、事業、目標、戦略、方針を発展させるべきです。
親会社が共同委員会によって運営する方法はうまくいきません。利害の対立を生むだけです。
合弁会社の経営者は、同社に対する責任のみを負い、同社の成果のみによって評価されるべきです。この点は初めから明確にしておかなければなりません。親会社の利益のために合弁会社の成果を犠牲にしてはいけません。
親会社における合弁の責任者を決めておく
合弁会社の経営者は、その責任者に直接アクセスできなければなりません。また、その責任者は、自らの責任のみで意思決定できる一人の上級経営幹部でなければなりません。
このことは、合弁会社自身の経営に関して親会社の意思決定を仰ぐ仕組みではありません。合弁会社の経営者は、自立して意思決定できることが原則であることに変わりはありません。
成功したら、親会社のいずれからも分離して独立させる。
量的合弁の場合は、分割して親会社が引き取る方法もあります。
無効な多角化
市場または技術を共通の軸としない多角化
他にどのような共通の軸があったとしても、マネジメントできません。
2つの軸による多角化を同時に行うこと
志向、姿勢、戦略が異なるため、マネジメントは困難です。
あえてやるとすれば、トップマネジメントを2つに分けるか、一方を軽視するしかないと言います。
消費財と資本財で景気循環を相補おうとすること
ドラッカーによると、両者は、小幅な景気下降という景気変動論の古典的な局面に際してのみ異なる反応を示すに過ぎないと言います。
下げ幅の大きな下降期においては、同じ反応を示すと言います。
資金需要の大きな事業を資金余裕のある事業に組み合わせるための多角化
成長する事業といっても、長期にわたって資金余裕を持つことはめったにないと言います。
多角化のための多角化
「他もやっているから」といった動機です。業績や成長のためではありません。
新事業に進出することによって既存事業の弱さを補うための多角化
今の事業をマネジメントできないから、よく知らない別の事業に進出しようという考えは、健全ではありません。うまく行くはずがありません。
多角化は強みの上に築くものです。問題にぶつかっても、自身の手によって解決できるかどうかを考えなければなりません。