「リーダーシップ」と「マネジメント」の違い

リーダー(リーダーシップ)とマネジャー(マネジメント)の違いについては、ジョン・コッターがハーバード・ビジネス・レビューに寄稿した論文が有名です。これを参考に、両者の違いを説明してみたいと思います。

コッターによれば、両者は別物であり、一方が他方を包含したり、代わりになったりするものではありません。別々の個性を持ちながら、組織には両方の役割が必要です。

マネジメントは、20世紀の大組織の出現によって発展しました。複雑な環境にうまく対処しながら、組織を秩序立て、製品の品質や収益性といった重要な問題に一貫して取り組みます。重要な要素は、計画と統制(コントロールと問題解決)です。

リーダーシップは、変革を成し遂げる力量を指します。近年、ビジネスの世界で競争と変化が激しさを増していることから、リーダーシップの重要性が高まっています。重要な要素は、ビジョンと戦略です。

なお、リーダーシップに関しては、様々な人の様々な見解があります。ドラッカーによるリーダーシップの考え方については、次の記事を参考にしてください。

社会心理学の研究に基づくリーダーシップについては、次の記事を参考にしてください。

リーダーシップとマネジメントの共通点

マネジメントは複雑さに対処し、リーダーシップは変革を推し進めます。コッターによれば、そのために行う仕事は、いずれの場合も次の3つです。

  1. 課題の特定
  2. 課題達成を可能にする人的ネットワークの構築
  3. 実際に課題を達成させる

違いは、仕事に用いる具体的手法にあります。ただし、組織には両方の役割が必要ですから、手法のレベルにおいても補い合うものです。

マネジメントの手法

マネジメントは、複雑な環境に対処するため、計画の立案と予算を策定し、それらを守らせることで組織メンバーの行動を秩序づけようとします。

計画においては、将来の目標(一般には、翌月や翌年の目標)を定め、その達成に向けて詳細な実行ステップを決めます。

計画を完遂するために、経営資源を割り当て、組織化します。人材や設備などを部門別に配置し、予算を割り当てます。計画の実行は、あらかじめ定められた部門や人員にその権限を移譲しますが、実行状況を把握する仕組みも計画に盛り込んでおきます。

マネジメントの武器は、コントロールと問題解決です。報告書やミーティングといった方法により、フォーマル、インフォーマル両面から計画と実績を綿密に比べ、両者の間にギャップが生じていないか目を光らせます。

ギャップが認められれば、問題として認識され、それを解決すべくプランを立て、改善を実行することによって、計画に近づけます。

リーダーシップの手法

リーダーシップは、発展的な組織変革の端緒として、まず針路を設定します。針路とは、長期的な将来ビジョンと、そのビジョンを実現するための戦略です。

一つの大きな目標に向けて組織メンバーの心を統合するために、ビジョンが重要な役割を果たします。計画と予算によって人々の行動を管理するのではなく、ビジョンによって新しい方向性を伝え、人々の心を一つにします。方向を決めることが、リーダーの最も重要なミッションです。

ビジョンを達成するための手段は、動機づけと啓発です。価値観や感性といった根源的な欲求に訴えかけることで、大きな障害をも乗り越え、皆を正しい方向に導きます。

手法の違い

計画と針路

マネジメントとリーダーシップの違いは、具体的手法の中心である計画と針路の違いに現れます。

コッターは、計画について、演繹的な性格をもつマネジメントプロセスと位置づけます。計画は、目標どおりの結果を生むための行動に具体化され、予算化されます。

針路は、どちらかというと帰納的であると位置づけます。幅広いデータを収集して、さまざまな事柄の説明根拠となるパターンや関係性を見つけ出し、将来の方向性としてまとめます。アウトプットは、ビジョンと戦略です。

ビジョンの生命線は、オリジナリティではありません。顧客、株主、社員など、大切なステークホルダーの利益にいかにバランスよく資することができるか、そして、そこから地に足のついた競争戦略を容易に導き出せるか、という二点にあります。

針路は、長期計画とは違います。しかし、ビジョンと戦略があれば、計画を立案するための指針となります。そのような指針がなければ、あらゆる不測の事態を念頭において計画を立てなければなりません。

ですから、計画は、針路設定の代わりではなく、針路設定を補完する役割が与えられたときに、最大の効果が発揮されます。針路設定が適切であれば、焦点をうまく絞った実行可能な計画を立てられます。

逆に言うと、計画立案が効果的に進められるかどうかが、現実に即した針路設定が行われていることを検証する手段ともなります。

組織化と人心の統合

組織では、仕事、技術、マネジメント・システム、階層などを通して、人々が結びつき、互いに依存し合っています。

組織編成の目的は、物事をできるだけ計画に忠実に、しかも効率的に進めることです。職務体系や指揮命令系統や権限委譲の決定、適材適所の人員配置、研修の実施、計画の周知、計画の達成に向けた報奨制度の用意、計画の実現状況を把握する仕組みづくりなど、さまざまな難しい意思決定が必要です。

人心の統合は、メンバーの力を結集することであり、設計よりもコミュニケーションが重要です。短期的な計画ではなく、将来ビジョンの理解を求めることによって、人心の統合は図られます。

もちろん、ビジョンをはじめ、伝えようとするメッセージの内容自体は重要ですが、それだけでなく、それを伝えるリーダーに対する信頼が不可欠です。リーダーのそれまでの実績、誠実さ、言行一致などが問われます。

人心を一つにするプロセスは、社員のエンパワーメントにもつながります。明確な針路が示され、それに向けて心が鼓舞されることによって、底辺にいる人々も、無力感に苛まれずに行動を起こせます。その行動がビジョンに沿ったものである限り、非難されることはありません。また、全員が同じ方向に向かっているため、構成員同士の摩擦が原因で誰かの行動が妨げられる可能性も低くなります。

動機づけとコントロール

マネジャーは、現状と計画を比べて、両者の間に乖離が見つかった場合は、必要なアクションをとります。マネジメントのシステムと構造は、普通の人々が普通のやり方で毎日の平凡な仕事をうまくこなせるようにするために必要なものです。動機づけられた熱意ある行動がなければ機能しないというものであってはなりません。

リーダーは、壮大なビジョンを夢のままではなく現実のものにする必要があるため、強烈なエネルギーが必要です。コントロールではなく、動機付けと啓発よって、人々の熱意を燃え立たせる必要があります。達成感、帰属感、承認欲求、自尊心、自己実現や理想の人生といった実感など、人間としての基本的な欲求を満足させることが求められます。

相手の価値観に訴えながら、組織のビジョンをはっきり伝えることができれば、ビジョンに対する共感が得られます。ビジョンの実現方法(あるいはその一部)の決定にも参画を求めることによって、組織を動かしているという実感を社員に与えます。

共感するビジョンの実現のための仕事であり、自らが決定に関わった仕事であれば、ロイヤルティも高まります。

ビジョンを実現しようと努力する社員を手助けするのも、重要な動機づけの手法です。最後に、成功を認め、褒め称えます。これらの一連のプロセスによって、いつしか仕事そのものによって動機づけられるようになります。

このようなリーダーシップのプロセスは、組織のメンバーにイニシアチブを発揮させるプロセスでもあるため、リーダーを育てるプロセスでもあります。

ただし、大勢がリーダーシップをとるようになると、一つの目標に向かって一致団結することを妨げる可能性が出てきますので、調整のメカニズムが必要になります。この場合に、インフォーマルで緊密な人間関係が役に立ちます。インフォーマルであることが、非日常的な活動や変革に関わる調整を数多くこなせるといいます。

もっとも大切なこととしてコッターが強調するのは、対話と協調から、調和のあるビジョンが生まれるという点です。こうしたプロセスは、マネジャー相互のフォーマルな調整ではなく、インフォーマルで緊密な人的ネットワークによって可能になります。

ですから、部門の壁を超えるようなインフォーマルなネットワークが存在しないのであれば、それを構築することがリーダーの最優先課題になります。

リーダーの輩出を促す企業文化の醸成

事業を成功させるうえでリーダーの働きが重要になっているという現実とは裏腹に、実務経験を積むにつれ、リーダーとしての資質を失ってしまう人が非常に多いといいます。

リーダーとしての重い責任に耐えられる者の多くは、キャリア上、似たような経験を経てきているといいます。もっとも一般的で重要なのは、早い段階で大きな試練にぶつかっているということです。

真のリーダーになる人物は、決まって、20代あるいは30代に実際にリーダーの役割を担い、リスクをとり、成功や失敗から学んだ経験をもつといいます。このような経験が、広範なリーダーシップ・スキルを獲得し、広い視野を身につけるうえで欠かせないものとなります。

その後、こうした人々は、異動や早い時期の昇進によって、幅広い職務を経験したり、特命事項を扱うタスク・フォースの一員に任命されたり、ゼネラル・マネジャーとして長い経験を積むことなどを通して、リーダーシップに必要な経験や広い視野を身に着け、社内外の人脈も形成していきます。

リーダー育成に優れた企業は、このようなプロセスを経て、やりがいのある難しい仕事を若手に任せ、責任と権限を与えます。いわゆる分権化です。企業によっては、組織をできるだけ小さい単位に分け、組織の底辺にもチャレンジの甲斐あるあるゼネラル・マネジメントの仕事をつくり出しています。

リーダーを育成するには時間がかかるため、早い段階で社員のリーダーとしての資質を見極め、それを伸ばすための方策を判断することが肝要です。成功している企業では、経営上層部が若手や一般社員と接触できる機会を設け、ポテンシャルのある人材に白羽の矢を立て、その資質を伸ばす方法を判断しています。経営幹部同士でも、よりよい判断ができるよう、随時意見を交換しています。

マネジャーをリーダー育成プロセスに関与させるため、育成における功績をマ評価・褒賞の対象としている企業もあります。定量的な把握は困難な場合も多いため、金銭的な報酬に反映させる例は稀ですが、昇進を決める際の判断要素として重視されているようです。