コミュニケーションでは、話し手は、受け手に何かを要求します。何かになること、何かをすること、何かを信じることを要求します。要求することが、コミュニケーションの目的です。
しかしながら、コミュニケーションに必要なのは伝える技術ではありません。受け手が自ら気づいて行動してもらうための共感を生み出す技術です。
まず、受け手のことを理解します。その理解にしたがって、話し手の要求を共有してもらわなければなりません。受け手の動機づけ要因に焦点を合わせることができなければ、話し手の要求を受け入れてもらうことはできません。
ここでも引き続き、デール・カーネギーの『人を動かす』を参考に、受け手が自ら動きたくなる気持ちを起こしてもらう方法を学びます。
自ら動きたくなる気持ちを起こさせるもの
相手の理解に努めたら、次は、その理解にもとづいて、相手が自ら動きたくなる気持ちを起こしてもらえるように努力します。
相手の行動を支配するのではなく、相手の動機づけに焦点を合わせて、自発的な行動を生み出してもらえるように導きます。
結局のところ、人は重要感を欲しています。重要な人材として認められたい、自己主張したい、自己実現したいという強い欲求を持っています。ですから、自ら動きたくなる気持ちを起こしてもらうには、相手の自尊心を尊重することが重要になります。
具体的には、次のようなコミュニケーションが求められます。
- 相手の重要度を認めて自尊心を満たしてあげること
- 相手の自尊心をなるべく傷つけないように改善を求めること
- 相手の自尊心を高める、すなわち動機づけることによって自己発揮をしてもらうこと
ここでもっとも重要なことがあります。コミュニケーションの中心は、あくまで「仕事そのもの」でなければならないということです。給料や福利厚生などの周辺条件は、本質的な動機づけになりません。
これらは一定の水準を満たさなければ不満の原因になりますが、よりよい条件にしたからといって満足を高めることにはなりません。このような要因を「衛生要因」あるいは「不満足要因」と言います。
動機づけになる要因は、仕事そのものです。仕事そのものが生産的で、自分の強みを発揮できるものでない限り、どんなに衛生要因を改善したところで、職場への満足が高まることはありません。
動機づけについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。
率直で、誠実な評価を与える
相手の長所、強みを認め、相手の感心できるところを率直に評価します。心からほめ、感謝し、励まします。
相手が欲するものを与える
相手が何を望んでおり、自分はどのようにして相手の役に立てるかを考え、期待に応える努力をします。マネジメントには、組織の目標に貢献できる形で、部下の強みを生かす努力が求められます。
強みを生かすために必要な環境、ツールの整備も必要です。
中でも、部下の仕事の成果をフィードバックすることが重要です。
自ら気づくきっかけを与える
自分の考えが相手の考えよりも優れていると思うこともあるでしょう。相手が明らかに間違っていると思えることもあるでしょう。
それでも、相手を否定し、自らの意見を一方的に主張することは望ましくありません。相手が自ら気づくことができるようなきっかけを与えることが最善です。
意見を聞く場を設ける
集団でのコミュニケーションに適しています。
- 当の課題に対し、問題点を出してもらい、議論してもらいます。
- 次に、対応策の意見を出してもらいます。
- それらの意見を総合し、話し手が自らの意見も踏まえて提案します。
- さらに意見を出してもらいます。
相手が参画して至った解決策となり、よりよい解決策にたどり着く可能性も高まります。
相手に理由を尋ね、自分の改善すべき点を率直に聞く
相手がこちらの意見を否定するなら、その理由を尋ねます。
次に、どうすれば満足してもらえるかを尋ねます。相手の意見を否定するのではなく、協調的な態度で注意深く質問していきます。
相手が間違っているなら、その過程で、誤りに気づくことが多いでしょう。
遠回しに注意する
まずは、よい点、よくできている点をほめます。次に注意を与えます。
ただし、「しかし」を使ってストレートに注意することは逆効果です。「あなたは○○がよくできている。しかし、△△は改善が必要だ」と言うと、最初のほめ言葉を疑ってしまいます。批判のための単なる前置きだったと感じます。
「しかし」の代わりに「そして」や「だから」を使います。「だから△△すればもっとよくなる」という言い方で、相手の自尊心をなるべく傷つけることなく、改善点を受け入れてもらうようにします。
改善の指摘とあわせて、肩書や権威を与えるなどによって期待をかけ、相手を信頼していると伝える方法もあります。
誠意、公正さ、専門性、正直さなど、相手の心情に呼びかけることも効果的です。
相手に注意を与えると同時に、自分の失敗談を話すことができるならば、さらに相手の反発は弱まり、自尊心を損なう可能性は少なくなるでしょう。
注意の与え方として、提案という形で意見を求める方法もあります。「△△したらどうかと思うが、どうだろうか。」、「△△になるために、どのようなことができるだろうか。」といった形で意見を求める方法です。
質問をしながら、一緒に結論を導く方法も効果的でしょう。
イエスと答えられる問題で話を展開する
一貫性/コミットメントの法則というものがあります。最初に下した見解を引き続き維持しようとする傾向のことです。最初に「イエス」と答えると、引き続き「イエス」と答えやすくなり、逆もまた同様です。
単なる誘導尋問のテクニックとして重要なのではありません。
人は、一旦「イエス」または「ノー」と答えると、その言葉だけではなく、分泌腺、神経、筋肉などの全組織をあげて一斉にその方向に体制を固めることが知られています。
ですから、一旦「ノー」と言わせてしまうと、それ以降、後ろ向きの議論になってしまい、建設的な解決策にたどり着けなくなってしまう可能性があるのです。
ですから、自分の意見に従わせる方向で「イエス」と言わせるのではなく、相手の意見の利点、正当性などを尊重しつつ、互いに「イエス」と頷き合う議論をします。
そのためには、お互いの意見の一致点を探し、一致点を強調しながら話を進めることが肝心です。前向きで建設的な議論を進め、よりよい解決策に到達できる可能性が高まります。
まず相手の要求を受け入れ、こちらの要求を伝える
一種のバーター取引です。
どのようにすればこちらの要求を受け入れてもらえるかを相手に提案してもらう、相手が望む方向に行くためにこちらに何ができるかを提案してもらう、という方法もあります。
相手が自ら具体策を提案するので、相手にとって強い動機づけになりやすいと言えます。
相手に意見を求める
具体的な要求を受け入れてもらうというよりも、目的や方向性を示して、「そのようになるためには、どうしたらいいか」を提案してもらいます。