イノベーション

企業家はイノベーションを行います。富を生む力を資源に与える人です。

企業家を決定づけるのは気質ではなく、行動です。その基礎には原理や方法があります。学ぶことができる知識がベースです。

企業家としての行動は、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用することです。 その根底には、変化を当然のこと、健全なこととする考え方、すなわち 企業家精神が必要です。

イノベーションは、決してリスクが高いものでありません。アイデアやひらめきを重視し、目的意識が希薄なことが、リスクを高める原因です。結果としての成果は偶然にすぎないからです。

組織的なイノベーションは、 経済的・社会的成果を意識して、目的を達成するために、明確なビジョンをもって、機会を利用することを優先します。

企業家とは何か

ドラッカーによると、「entrepreneur」(アントレプレナー)という言葉をつくったのは、1800年前後に活躍したフランスの経済学者J.B.セイです。

企業家は、経済的な資源を生産性が低いところから高いところへ、収益が小さなところから大きなところへ移す

ドラッカーの定義は更に簡潔です。

富を生む力を資源に与える人

企業家を規定するのは気質ではなく行動

企業家がテーマになると、人の気質が問題にされがちですが、ドラッカーは、気質は関係ないと断言します。

企業家を決定づけるのは、行動です。企業家であるかどうかは、企業家としての行動をとるかどうかです。

行動の原理

行動の基礎にあるのは、勘や直感ではありません。経験だけでもありません。そこには原理や方法があります。

それは、学ぶことができることを意味します。体系的な知識の学びと、5~10年のマネジメントの経験が望ましいと言います。

企業家精神とは何か

企業家精神とは、企業家であるということの本質的な意味であり原理を問うています。「 entrepreneurship(アントレプレナーシップ)」に当たります。

企業家精神の原理

企業家精神にある原理は、変化を当然のこと、健全なこととすることです。ですから、企業家としての行動は、変化を探し、変化に対応し、変化を機会として利用することです。

既存のことをよりよく行おうとするよりも、まったく新しいことを行うことに価値を見出します。シュムペーター曰く、企業家の責務は「創造的破壊」です。

あらゆる人間活動に適用される企業家精神

「企業家」というと、その名のとおり「企業」で活動する人に限定されるように思いますが、ドラッカーによると、その本質である「企業家精神」は、人間の実存に関わる活動を除くあらゆる人間活動に適用されると言います。

なぜなら、社会的な活動に使う資源(人、物、金、情報など)は、すべて経済的な資源だからです。企業活動であろうと、社会活動であろうと、同じ資源を使い、ほとんど同じことを行っています。ほとんど同じ問題に直面し、同じように成果をあげます。違いは、特有の使命の部分(マネジメントの第1の役割)です。

ですから、公的機関や非営利組織にとって、「企業家」という言葉は相応しくなくても、「企業家精神」は必要です。

企業家精神のリスク

企業家はリスクを冒すと言われます。

リスクは企業家精神に特有のものではない

あらゆる組織活動、人間活動には意思決定が不可欠です。意思決定とは判断であり、その本質は不確実性にあります。

答えが一意に決まるなら、判断は必要ありません。不確実な状態で決めなければならないからこそ、判断が必要になります。

意思決定が不確実性を前提としているということは、そこにはリスクがあることも意味します。ですから、リスクは企業家に特有の問題ではありません。

企業家精神のリスクは小さい

ドラッカーによれば、むしろ企業家精神こそ最もリスクが小さいと言えます。なぜなら、成功しないリスクはありますが、成功はリスクを相殺してあまりあるほどの成果をもたらすからです。

大きな成果をもたらす新しい機会が存在するにもかかわらず、 既存のことをよりよく行おうとすることほどリスクが大きなことはありません。機会損失という大きなリスクです。

企業家精神のリスクが大きいと誤解される理由

では、なぜ企業家精神のリスクが大きいと理解されているのでしょうか?

ドラッカーの答えは明解です。要するに、方法論をもたないからであり、初歩的な原則を守らないからです。特に、ハイテク分野での発明・発見にその傾向が大きいと言えます。勘や直感に頼っているからです。

もちろん、科学的な根拠はあるでしょうが、それが市場や社会において成果を生まなければ意味がありません。その点において勘や直感に頼っているから、リスクが大きくなります。

ですから、方法論をもち、原則を守れば、リスクを下げることができることになります。

  • 体系的であること
  • マネジメントすること
  • 目的意識をもつこと

特に、目的意識を持つことは重要です。

ハイテクの発明・発見は、アイデアやひらめきが重視されますから、科学的・工学的なシーズはあっても、目的意識が希薄なことが多いです。結果として大きな成果を出すことはあっても、それは偶然であり、確率は小さなものですから、リスクも大きくなります。

企業家精神としては、目的意識を重視することが大切です。パズルのピースを探し、埋めることに似ています。経済的・社会的成果を意識して、目的を達成するために、明確なビジョンをもって、機会を利用することを優先します。

イノベーションとは何か

イノベーションは企業家が行うことそのものであり、ドラッカーは、

富を創造する能力を資源に与えること

と定義しています。

一般的には、生産活動(富を創造する活動)に利用できる物資や人材のことを「資源」と言いますから、イノベーションは、

資源を創造すること

と言い換えることができます。人が利用方法を見つけ、経済的価値を与え、実際に活用して初めて資源と呼べるからです。

ドラッカーは、あらゆる資源のなかで、購買力に勝るものはないと言います。他のどのような資源を活用できようとも、顧客の購買力がなければ、有効需要は存在せず、企業は存続できません。

顧客の購買力を創造した画期的な例として、割賦販売をあげています。

割賦販売は、アメリカのサイラス・マコーミックが考え出したもので、これにより、当時、購買力をもたなかった農民が収穫機を購入できるようになりました。

過去の働きによる蓄えではなく、未来の稼ぎを購買力に変える偉大なイノベーションでした。

さらに言うと、

既存の資源から得られる富の創出能力を増大させること

も、イノベーションに含まれると言えます。

コンテナ船は、港での滞留時間を短くし、貨物船の生産性を高めました。

教科書は、一度に教えられる生徒数を増大させました。

社会的イノベーションの影響力

イノベーションは当初「技術革新」と訳されたとおり、技術に関するものとの認識が未だに強いようですが、先の割賦販売などのように、その範囲はもっと広く、むしろ社会的なイノベーションの方が影響が大きいと言えます。

工場の仕組みは、蒸気機関という技術的な発明がベースにありましたが、作業を標準化して分割し、未熟練労働者を一か所に大量に集めて仕事を割り当てることで、飛躍的に生産性を高めました。

その背後には、マネジメントというイノベーションも関わっています。

近代政治や近代国家の仕組み、学校、行政、銀行、労働組合といった公的機関も、優れた社会的イノベーションであると言えます。

需要に関わるイノベーション

技術的なイノベーションの場合、供給サイドのイノベーションと捉えられることが多いですが、上にあげた割賦販売など多くの事例は、需要に関わるイノベーションです。

消費者が資源から得られる価値や満足を変えるものです。

テープレコーダーやビデオ、ニュース雑誌、マネーマーケット・ファンド(主に債券を組み入れ資産とする投資信託など、解約自由なファンド)なども、需要に関わるイノベーションです。

イノベーションの体系

イノベーションは目的意識をもって体系的に行う必要があり、そのためにマネジメントしなければなりません。

まず、イノベーションは思いつきではなく、機会をとらえることです。イノベーションが変化をつくり出すというよりも、変化を機会として活用することがイノベーションです。イノベーションの機会について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

次に、機会を生かすイノベーションについては、明確な原理があります。ドラッカーは、その原理を、なすべきこと、やってはならないこと、条件として提示します。詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

ドラッカーが提示するイノベーションの機会と原理は普遍的ですが、組織によってはその実践に当たって特有の問題と課題が生じます。その点について詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。

イノベーションを起こし、市場において具体的な成果を得るためには、戦略が必要です。ドラッカーは、その戦略を「企業家戦略」と呼び、大きく4つの種類に分け、さらに10種類に細分化しています。それぞれについて詳しく知りたい方は、次の記事を参照してください。