段階的に進む作業において、ある段階から次の段階に進む仕掛品の一まとまりの量を「バッチサイズ」と呼びます。
直感に反して、バッチサイズを小さくするほうが、全体的な効率は高まります。バッチサイズを1個にすることを「1個流し」と呼び、様々な研究において、最も効率的な方法であることが分かっています。
リーン・スタートアップにおいても、バッチサイズ(主に製品の製作・改良の規模や範囲)を小さくすることによって、フィードバック・ループの回転速度を上げることを重視します。
バッチサイズを小さくする理由
直感的にはバッチサイズを大きくしたほうが効率的に思えます。一度に大量の仕掛品に同じ加工をするほうが機械効率も高まるように思えるからです。
しかし、仕掛品を動かしたり、並べたりする時間が余分に必要になるため、バッチサイズが大きくなると、結果的に非効率になるのです。
同じ作業を繰り返したほうが作業に習熟するという思い込みもあります。しかし、個々の段階のパフォーマンスの向上が、プロセス全体のパフォーマンスに与える影響は小さいことが分かっています。
バッチサイズが大きいと、失敗に気づくのが後工程になるほど、やり直しの影響が大きくなります。仕掛品を廃棄してやり直すことになれば、その損失が大きくなるからです。
リーン生産方式には「アンドン」という仕組みがあります。品質の問題を発見し、その場で解決できないときは、誰でも組み立てラインを止めて助けを求めることができます。ラインを止めるデメリットよりも、問題を早期発見するメリットのほうが大きいという考え方です。
バッチサイズを小さくするためには、段取替時間をできる限り短くする必要があります。これは単に作業スピードを上げるだけでは不可能です。作業プロセスやツールの改善も必要です。
起業におけるバッチサイズの縮小
リーン・スタートアップにバッチサイズの縮小を適用する目的は、持続可能な事業の構築方法をできる限り短時間で学ぶことです。
「1個流し」に習って、新機能を一つずつデザイン・開発・リリースすることを繰り返します。できる限り早く仮説の誤りに気づき、方向転換したいからです。
無駄なコスト、時間、労力を最小限に抑えられるからです。顧客から素早く学ぶ能力こそ、スタートアップが手に入れたい競争力の源泉です。
フィードバック・ループを素早く回すためには、欠陥の有無をすぐに確認できなければならないので、様々なテストを行う仕組みを用意し、変更を加える度に当初設計どおりの動きをするかどうかを確認しなければなりません。
アンドンに相当するような防衛措置が必要です。事業の健全性を確認できる指標をあらかじめ明確にし、継続的にモニタリングして、間違いがあれば直ちに発見して取り除けるようにします。
- 問題の元になった変更はすぐに取り除かれる。
- 関連するチームのメンバー全員に問題が通知される。
- 当該チームはそれ以上の変更ができなくなる。
- 真因を発見し、問題が解決されたら変更禁止が解除される。
プル方式で仕事を進める
リーン生産方式では「プル」方式で在庫切れの問題を解決します。
例えば、ディーラーに故障車が持ち込まれ、修理用部品が一つ使われると、在庫に一つ分の穴が空くので、近くの部品流通センターへ自動的に信号が送られ、同じ部品が一つ届きます。そのようにして、最終的にはサプライヤーに部品製造の信号が送られ、製造・納品され、在庫の穴が順次埋められます。
この方式を採用すると、万一に備える在庫の量が劇的に減るため、倉庫を小さくできます。限りなく1個流しに近づくことができれば、顧客の需要レベルに合わせて製造するのと同じになり、事実上の受注生産に近づくことになります。
ただ、スタートアップの場合、顧客自身が自分の望みを分かっていないことが多いため、単純に顧客の望みにに応じてプル生産することはできません。
スタートアップにおける製品開発プロセスは実験による学びが目的ですから、行うべき実験からプル信号が発せられると考えます。「顧客に関する仮説」の検証が先端のプル信号になります。