スタッフとラインの軋轢 − 「X理論」と「Y理論」⑪

ラインとスタッフの間には、理論的な役割分担にかかわらず、常に軋轢が生じてきました。

ライン管理者の多くは、スタッフ部門を厄介者の支配者だとみなしています。スタッフ部門は、ライン管理者を、専門的で科学的な理論が分からず、自らの権力を守ることに汲々としていると考えています。

両者に軋轢が生じる背景は、両者の仕事の間に相互依存の関係があることですが、相互依存が軋轢に発展する原因は、X理論すなわち権力の獲得が自らの仕事の目標を達成するうえで不可欠であると考えるところにあります。

ラインとスタッフの軋轢

スタッフとラインは相互依存の関係です。

命令系統の中心は、業務運営上の系統であるラインです。この系統に属さない職能が、ラインに対してサービスと助言を提供するスタッフです。

スタッフには、ラインに対する何らの権限も与えられていないのが普通です。そうしておかないと、従業員でも上司はただ一人でなければならないという命令統一の原則を破ることになるからです。

また、権限は職務と等しいものでなければならないという原則もあります。ラインが職責を果たすためにスタッフによるサービスを必要とすることを考えれば、ラインがスタッフに対して権限を持つのが本来の姿です。

ところが、ライン管理者の多くは、スタッフ部門に支配されていると感じており、スタッフ部門を援助者と言うより厄介者とみなしています。

ライン管理者には、スタッフ部門が狭い専門的見地から会社全体の繁栄と関係のない事柄に没頭しているように見え、スタッフ部門の助言は実際的でなく型にはまり過ぎた官僚的な手続のようだと感じています。

スタッフ部門もライン部門に対して偏見を持っています。ライン管理者は権限や自主性を保持することだけに汲々とし、スタッフ部門の専門的な資格や業績を認めず、変化や改善にいつも反対していると感じています。

このようなことが起こる理由は、ラインとスタッフが相互依存関係にあるからです。ただし、相互依存関係がこのような軋轢に発展するのは、基本的な考え方としてX理論が支配しているからです。

命令統制による管理を行おうとする限り、支配権を争うことになるのです。相互依存関係において、相手の力を利用して自分たちの目標を達成するためには、権力を獲得しないければならないと考えるからです。権力闘争に終わりはありません。

ラインがスタッフを利用する

そもそもスタッフが事実上の権限を持つようになった経緯を、マグレガーは説明しています。

ライン管理者が、権限による管理統制に頼り過ぎると部下の反発を招くと考えるようになり、権限委譲を行おうとしました。

実際に行為をする場所に近いところで決定を行わせようとし、方針を示すことによって部下を統制しようと考えました。

ところが、考え方の根本にX理論があるため、権限委譲と言いながら事実上権限による統制を続けようとし、自分の代わりに統制する者を使いました。それがスタッフです。

部下に経営方針を守らせ、部下の仕事ぶりに関する情報を資料にまとめてライン管理者に報告する役割をスタッフに行わせ、問題があればいつでも介入できるようにしました。

最終的には「例外管理の原則」に行き着きます。日常業務の管理はすべてスタッフに任せ、スタッフが処理できない事案のみ管理者に報告させることで済まそうとします。

ライン管理者はこれをもって部下に権限委譲したことにするのですが、実態は、ライン管理者の権限がスタッフに事実上委譲されただけであり、部下から見ると、スタッフが不当な権限を行使しているように見えます。

このライン管理者が経営者に当たるのであれば、スタッフは通常スタッフ部門を構成します。スタッフ部門は、事実上経営者の権限を委譲され、例えば部長以下のラインのお目付け役になります。

マグレガーによると、このようなことが原因で、大企業での「アコーデオン効果」が起こるといいます。

すなわち、事業部制の導入など大規模な分権化の動きが起こるのですが、同時に本社の経営首脳部がスタッフ部門に統制させ、軋轢が生じて、再び中央集権体制に戻ります。ところが、大企業で中央集権体制はうまく行かないため、再び分権化の動きが起こります。この繰り返しです。

Y理論では、人間は内部的統制機構を持っており、適当な条件のもとでは、自分で仕事に打ち込む場合、自己命令し、自己統制するものであると考えます。

このY理論が、ラインとスタッフの軋轢を説明することもできます。ライン管理者がスタッフ部門の強制に反発し、それを骨抜きにしようとするのは、自己統制の表れです。

管理者のやるべきことは、部下が企業の目標と個人的な目標との両方に抵触しない目標を見つけ出すようにしてやることであり、また、彼らがこのような目標に本当に献身するようにさせることです。更に、部下がその目標を達成するのを手伝ってやることも管理者の仕事です。

これらができるようになるには、X理論に基づく統制を放棄しなければなりません。

部下が、会社の目標を達成する意欲と能力があることを十分信頼し、誤りがあったとしても部下の成長のための当然の代償と考えることができなければなりません。

スタッフ側の問題

専門家であるスタッフは、教育の課程で専門的な技術を中心に学んでおり、組織において自分の専門的な知識や技量を発揮する場合に起こる人間関係上の問題についてはほとんど教わっていないといいます。

自分たちの科学的技法の客観的妥当性については強い確信を持っており、会社においても感謝をもって直ちに受け入れられるだろうと期待しています。

自分が持つ知識の権威は至上のものであり、道理をわきまえた人間であれば、異議を唱えるはずはないと思っています。

もちろん、会社に入ると間もなく、ラインとの軋轢に直面し、社内には道理をわきまえない人間が多いと感じるようになります。

このような状況において、ライン部門の業務管理を統制するための評定制度を作ることは好ましいことだと考えるようになります。

標準化や規則の完備に重点を置き、人間の行為の中から主観的で予期できない要素を極力減らし、能率を高めるような命令統制方法を作り出そうとします。

自分の専門性を至上と考えるスタッフにとって、X理論はお気に入りです。